第84話 皆殺し! アナキンかよ

 粘液まみれから脱出した沙織は、そりゃあもう、めちゃくちゃに怒っている。

 目つきがやばい。

 ライトセーバーを構えるやいなや、シュバ、シュバっと、沙織のスライムめった斬りが始まった。

 まるでアナキンの大虐殺だな、、、


 ばかなやつらは、後方で液体放出を続けているが、全てただの水のように、特殊スーツの表面を流れ落ちるばかりだ。


(こいつら、頭はかなり悪そうだ)


 数体の緑スラが合体を始めたが、時既に遅しか。

 辺りには、20を超える、緑と青の輝石が転がっている。

 今、沙織に対峙たいじしてるのは、直径1m程度の、巨大というには、中途半端な大きさのスライム一体きりだった。


 そいつは大きくジャンプする為の、助走ジャンプを始めだした。


 沙織を上から潰すか、すっぽりと取り込んでしまうつもりなのだろう。


「はあぁあ!」


 沙織の中段突きが、そいつの少し大きくなった核を粉砕した。

 打突だとつが凄まじすぎたのか、そいつは輝石を一つも残さなかった、、、

 俺は素早く、「いっぽん!」と赤い旗を上げた! 単なるイメージだけどなw


 終わってみれば、沙織の独壇場どくだんじょう

 俺は改めて、沙織を絶対に怒らすまいと、胸に刻んだ。


 ちなみに、独壇場は普通に使われているが、独擅場どくせんじょうが正しいらしい。


「お疲れさん、沙織、身体にどこか異常はないか」


 俺は肩で息をしている沙織に、ねぎらいの言葉を掛けた。


「異常は無いけど、買った服がべちゃべちゃよ、どうしてくれるの」


 惨殺ざんさつ直後の沙織に、狂気が残る目でにらまれる。


「と、言われてもなあ。

 あ、そうだ」


 俺は、粘液まみれの服を拾い上げ、しのぶを手招きした。


「なんですか、私にどうしろと?」


 またジト目だ、、、どっちが本性なんだ、しのぶよ。


「ウォーターボールを作ってくれ」


 しのぶが作ったウォーターボールに、沙織の服を入れてみる。


「このまま、服ごと水球を維持できるか」


「え、そんな、む、むず、むずかしい、、、あ、できそうです」


 なんか、しのぶが目を白黒させながら、ロッドをこねくり回している。


「そのまま、水流を作ってくれ」


 俺は4次元ポケットから、カプセル洗剤を一つ取り出し、水球に投げ込んだ。


「おしゃれ着洗剤だから、水流はごく弱めにな」


「は、はい」


 ロッドをゆっくり回し、水流を調整する姿はまるで職人だ。

 だんだんと、しのぶは、魔法の作業を楽しみ始めている。

 新しい技術を習得した見習いさんは、みんなこんな風に嬉しいんだろうなあw


「もういいだろう。

 一回すすぎしてくれ。新しい水でな」


「ええ」と、少し面倒くさそうに言いながら、ちゃんとリクエストに答えてくれるしのぶだった。


「じゃあ、次は風魔法で、温風のエアボールを作って、服を乾かしてくれ。

 服をくちゃくちゃにしないように、ソフト乾燥で頼む」


「は、はい、で、できるでしょうか」


 しのぶのロッドの使い方が、だんだん様になっていく。


 しのぶの水魔法も、風魔法も、生活実用レベルで応用が効くので、頼んだ俺自身びっくりしている。


 服はみるみる内に生乾きに乾いて、ほぼ着られる状態になった。

 仕上がりを確認してから、俺は沙織に服を手渡した。


「まだ完全に乾いてないじゃない」


 沙織は、不満そうに生乾きの服を、黒い特殊スーツの上に元通り着用した。

 特殊スーツは見える範囲では、また透明に戻っている。

 ショーツをはく部分がどうなってるのかは知らないが、ショーツをはいてなかった所から判断すると、大事なところは黒いままなのだろうと推定する。俺のもそうだしw


「しのぶ、着用した服に温風乾燥で仕上げしてくれるか」


 もうすっかりコントロールの術を会得えとくしたらしく、自信たっぷりに、しのぶは温風を沙織に巻き付くように吹き付ける。


 沙織がロングヘアーをなびかせ、気持ち良さそうにしている。

 この細長いヘアーまで一本ずつ包み込む、特殊スーツも千年経てば地球でも作れるのだろうか。


「おお、良いみたいだな。

 シワもついてないし」


 おしゃれ着の洗濯は、とてもデリケートなのだ。

 男物のTシャツや、ジャージやパジャマを全自動洗濯乾燥するのとは、手順、工程が全く違うのさ。


「あ、ホントだ。

 全然縮んでないし、前よりきれいになってる。

 さすが、しのぶね」


 沙織はしのぶを褒め、しのぶは俺を褒める。


「コウタさん、女子力高いですね」


 しのぶの目つきが、さっきとは全然違う。


「まあな、母さんにタンブラー洗濯乾燥機の使い方を教え込まれたからな」


 この一連の作業を、キャシーが口をあんぐりと開けたまま見続けていた。

 どうやら、同じ動きを繰り返すものから、目が離せないらしい。ネコかよw

 キャシーの肩を軽く叩く。セクハラにならないように。


「しのぶが凄すぎ。

 それに、何よ、沙織が下に着てるもの。

 不思議すぎて、どこから突っ込んで良いか分からない・・・

 そんなのがあれば、あたしだってスライムなんか、、、」


 キャシーの物欲しそうな目つきで、察しはつくが、これはエターナル特製スーツだから、いくら欲しがっても、俺だってこの異世界では手に入らない代物だ。


「まあまあ、これが異世界の高度技術ってことで、当分の間、見なかったことにしてくれ。

 知られると、この世界の人から、不必要に恐れられる危険があるからさ」


「そ、そうだね、、、」


 少し残念そうな目つきだがw


「もう、コウタさん、無茶ぶり過ぎですよ、私、すごく疲れました」


 しのぶが少し甘える感じで、俺に声を掛けた。


「ほい、ユンケル飲んで」


「ええ、苦手なんですけど」


「じゃあ、チオビタが良いか」


「ええ、そっちを」


 様子を見ながらって感じで、飲み始める。

 だんだん速度が上がって行く。


「あ、こっちはわりとおいしいです」


「効き目はやや劣るけど、しのぶにはこっちが良いってことだな」


 そんなこんなで、3つ目のバトルが終了した。

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