第83話 メタルスライム

「キャシー、あれはスライムですよね」


「丸くてぷよぷよしてるから、赤いのはスライムで間違いないと思うけどさ、大きい方の、あんな色は見たことないな」


 キャシーの答えに満足がいかなかったと見えて、しのぶの質問は俺に回って来た。


「コウタさん、あの銀色のって、もしかしたらメタルスライムじゃないですか」


 さすが、異世界アニメもたくさん見てるなw 我が弟子よw 弟子じゃないかw


「ああ、メタルスライムだ、あれはきっと強いぞ」


「赤いのって、赤い輝石を持ってる奴よね」


 興味津々だったのは、しのぶだけではないらしい。

 だが、沙織の関心は赤い輝石の方だった。



 何をしてるのかと思ったら、どうやら銀色の大きい奴が、赤いのを押し潰して殺したようだ。

 仲間割れでもしたのだろうか、と思っていたら、潰れた方が小さな赤石を吐き出した、というか潰されて押し出されたのか。


 銀色のが、赤い石をにゅるっと自分の体内に取り込むのが見えた。

 銀色の、ああめんどいから、もうメタルスライムとしておこう。

 メタルスライムは、その場で低くピョンピョンと跳ねてから、こちらに向かって速度を上げたように見えたが、急ブレーキを掛けて止まった。


 少し手前の分岐道から、グリーンのスライムが、一つ、二つと跳ね出して来て、その数はあっと言う間に10数体となって、メタルの行く先を塞いでしまった。


 そして、さっきメタルと赤スラが飛び出して来た分岐からも、緑スラと青スラがぞくぞくと出て来る。

 遠目だが、緑と青いスライムは、直径30cm位だろう。

 あのメタスラはその倍以上あって、バランスボールくらい、つまり直径70cmほどありそうだ。


 メタルスライムは、じりじりとメイン通路の両側から迫る大群、緑と青に対しなす術がないらしく、ぷるぷると震えている。


 緑スラの一個が、メタルにぴゅうっと液体を放出。

 それは見事に命中した筈だが、メタルの表面をずるりと落ちて流れた。

 おそらく、メタルの表面は撥水性が非常に高いのだろう。

 業を煮やしたように、他のスライム数個が両側から一斉に飛び掛かった。

 多勢に無勢、メタルに分が悪いようだ。


 飛び掛かった数体は、中空でぶつかり合って、一つに合体した。

 そして、メタルよりも大きくなって全体を包みこんだ。

 望遠視してみると、合体した緑のスライムの中で、気泡がふつふつと湧き出している。

 メタルを、包みこんで消化しようとしてるのだろう。

 メタルの表面の輝きが、みるみる内に鈍くなって行く。


 メタスラが一瞬で、平たく潰れたように見えた。

 次の瞬間、メタスラは大ジャンプして、スライム合体の包みを破った。

 包を破られたスライムは、当初の小さな個体幾つかに変形、というか元に戻った。


 行く先を塞ぐ緑スラ数体を、メタスラはその巨体を活かして押し潰してから、こちら側の囲みを破って、全力でこちらにジャンプ、ジャンプで向かって来る。

 早い! 他のスライムが追い付けない。


 素早く数歩前に出て、メタルに立ちはだかったのは、ライトセーバーを構えた沙織だ。

 沙織の直前で、メタルは小ジャンプして体当たり。

 中断構えから上段に振りかぶって、袈裟斬けさぎりに斬り裂こうとしたライトセーバーが、ガッチーン と、音をたてて跳ね返された。


 直後、沙織はライトセーバーを放り出して、すっと飛び退き体当たりを避ける。

 沙織が手の平を返すと、ライトセーバーはその手元に戻って来た。

 ジェダイもそんなアクションをしていたな、たしか。


「何、この硬さ、刃が全く通らないわ」


 とは言え、ライトセーバーの打撃が少しでも効いたのか、メタルはその場に赤い石を落とした。

 そして沙織の飛び退いたあたりで、スーパージャンプ!


 一斉に腰を落とした俺たちの頭上を超えて、メタルスライムは後方へと逃げ去った。

 中でも、しのぶだけが、飛び越えるメタルスライムの尻あたりにロッドを伸ばし、すっと触れていたようだが、何をしていたんだろうか。


 強敵メタスラと戦いにならずにほっとしたのも束の間、緑スラと青スラたちが、メタルを追ってぴょんぴょんと俺たちに迫って来た。

 みんながメタルを追うのだろうと、通路を少し開けて構えていると、狙い通りに数体は、俺たちの横を素通りしてメタルを追走して行った。

 続く奴らは、その後を追わずに、数歩先で赤い輝石を拾い上げた沙織を、みんなで取り囲んで行く。


 すぐ後方の、俺たち3人に向かって来る奴は居なかった。

 どうやら、赤い輝石を取り返すのが目的らしいな。


「沙織、その赤い石をスライム達に返してやれ」


 戦術上、これが正しい決断だと俺は思ったのだが、、、


「いやよ、赤い輝石を折角手に入れたのに」


 スライムたちが、液体を一斉に沙織に放出開始。

 四方八方からどろどろねばねばの液体が、沙織を標的に放出された。

 沙織にそれを避けろと言っても、とても無理な話だ。


 俺たち3人の中に、今どうすべきか分かっている者は残念ながら居ない。

 とりあえず、攻撃して、やつらを散らすしか手がないだろう。


 やばい! 粘液?にすっかり覆われた沙織は、液体の中で衣服を剥ぎ取られて始めている?

 いや待て、違う、自ら衣服を脱ぎ始めているのだ。 


 そのまま長い肢体があらわになるのかと、期待、いや期待はせずに思っていたら、デフォルトカラーの黒で全身を覆う特殊スーツが現れた。


 服屋で買った上下の服を液体に残したまま、沙織本体はするりと液体から抜け出たではないか。


 ああ、そういうことか、衣服の下の特殊スーツには強力な撥水性があって、スライムの液体は、メタスラの時のようにするっと流れ落ちてしまったのだ。

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