第98話 デーブとの約束

 デーブは、俺を一瞥いちべつしてから、周りを見渡して、はっと気付いた様子を見せた。


「おお、あの時の、ぴっちりした戦闘服来てたやつらじゃねえか。

 マイクもおまえらに助けられたようなことを言ってたしな。

 で、どんなお手柄を上げたんだい」


 デーブは、俺よりは、沙織やしのぶに興味があったんだろうが、さすがにリーダー格、俺をパーティリーダーと判断し、俺の隣の椅子を斜めに向けて、顔が向き合うように腰掛け、話を振った。

 縦にも横にも大きいデーブは、座ってもでかい。


 俺はかいつまんで、今日の探検について話した。

 マモタラの話は、少しだけ詳しめに。



「なるほど、それで調子に乗ると大怪我おおけがするから、気をつけなって説教話を聞かされてたってこったな」と、デーブ。


「まあ、そんな所ですが、大変ためになりました。

 声がしっかりしていたので聞こえましたが、デーブさんたちは、『ヌシ』と戦ったんですね」


 デーブは、俺たちをそこそこの冒険者パーティと認めたようだ。


「ああ、森で倒した魔物の魔石じゃ足りないほど、剣とか盾とか取られちまって、金貨を取られた奴もいるし、骨折り損のくたびれ儲けって奴だ」


「『ヌシ』との戦い方、あるいは攻撃の避け方を教えてもらえませんか」


 俺がそう言うと、デーブは正面から俺の目を見据みすえた。


「おまえなあ、折角ブッシュさんのありがたい説教話聞いてもそれかよ。

 調子に乗って無茶して早死するんじゃねえぜ」


 ブッシュもデーブに同意するように頷き、どういうつもりなんだという感じで俺を見る。

 デーブの説教まで聞くつもりはなかった。


「いや、違うんです。

 俺たち、元々、あの岩山の洞窟を通ってやって来たので、側にある筈の帰り道を探しに、また奥まで行かないといけないんですよ」


 理由を聞いたデーブは、説教モードを解いたらしい。

 ブッシュも何も言わず、俺の話を聞きたそうだ。


 沙織としのぶもというワードに反応したのか、キャシーとのおしゃべりをやめ、俺がどういうつもりでデーブと話をしているのかと注目し始めた。


「探すっていったってな、通って来た洞窟を戻れば良いんじゃねえのか」


 まあ、普通はそう考えるよなw


「通って来た洞窟の先に転移口があったんですが、一方通行になっていて、そこからは戻れないんですよ」と、俺。


「「ほお、おもしろそうな話だな」」


 デーブもブッシュも、同時にそう言った。

 転移口が、ダンジョン以外で見つかったことなど聞いたことがないと、後になってから聞いた。


 俺は、マイクと出会った経緯いきさつを話し、大穴には怪物が居るかも知れないからと、一旦、マイクとパーティを組んで、魔物の森を出た話をした。

 デーブはなにやら、考え込む様子を見せた。


 そして、デーブは俺たちに意外な申し出をした、、、


「おう、ぼうず、岩山から帰る時は、俺に声掛けなよ。

 俺たちのパーティは今日で解散するが、俺だけでも、お前らのサポート役で付いていってやるよ」


「え、それは心強いですね」


 マイクが居なくても、同じAクラスのデーブがアシストしてくれるならありがたい。


「途中までは、俺一人でも行けるが、大きな洞窟を探るには、俺一人じゃ無理だ。

 だから、まあこれは、ギブ&テイクってことだ」


 どうやら、デーブは俺たちを巻き込んで、ヌシとの再戦を考えているのかも知れないが、俺はそんなつもりなどない。


「でも、俺たちは、できれば『ヌシ』とは戦いをけて、帰り道を探したいだけなんで、一緒に戦うつもりはないんですが」


「それでもいいさ。

 ヌシは、それほど好戦的な奴じゃないから、奴が大穴の奥へ引っ込んだ後で、大洞窟を探りたいだけさ」


「そ、そうですか。

 では、その時はよろしくお願いします」


 デーブが手を出したので、俺も右手を出した。

 俺たちは力強く約束の握手をした。

 デーブは、それじゃあな、と、俺たちと、ブッシュに手を振って、奥のテーブルへと歩いて行った。

 ブッシュは、何か言いたげだったが、

「国へ帰るためなら多少の無茶もしょうがないか、くれぐれも命は大事にしなよ」

と、言ってくれた。


 ブッシュとの話も終わったので、俺は沙織たちの元々使っていたテーブルに移った。



 俺は、数日中に岩山を探りに行きたいと、沙織としのぶに提案した。


「帰り道を探すということですね」


 しのぶはそう言って、沙織を振り返った。

 沙織は同意するように頷いた。


「え、もう帰るつもりなの」


 急な展開に、キャシーは肩を落とし、そういた。


「悪いな、キャシー。

 でも、明日は、ロクシーさんとの約束もあるし、マモタラの話をしに店に行こう」


 キャシーは、沙織と同じくらい気持ちの切り替えが早いらしい。

 沙織の手を取り、強く握った。


「うん、残念ね、あんたらともう少し、冒険したら、私もロクシーと同じB級に上がれるんじゃないかと期待してたんだけどね」


 沙織もキャシーの手をしっかりと握り返している。

 どうやら、この二人はいつの間にか親友になっていたらしい。

 しのぶは相変わらず冷静で、ジト目だが、俺は、その中に小さなバリエーションの変化を見て取った。

 分かりにくいが、しのぶもキャシーとの信頼関係、友情を築いていたようで、キャシーの袖をそっと握っていた。


「悪かったわね、キャシー。

 私は、コウモリとか蜘蛛とか、絶対無理なんで、もう一緒に冒険できないわ」


 沙織との握手を終えて、キャシーはしのぶにも握手を求めた。

 しのぶは、両手でキャシーの手を取った。


「残念です、キャシーさん、パーティの解散が早くなってごめんなさい」


 まだ別れの挨拶には早すぎるような気がしたが、今そういう話が決まったのだから、このタイミングはおかしくはない。俺はそう思った。



「それじゃ、俺たち宿に帰ります。

 ブッシュさん、今夜は色々とありがとうございました」

 俺はブッシュに丁寧な挨拶をした。


「おう、岩山ではくれぐれも慎重にな。

 また会うことがあれば、その時はよろしくな」


 俺たちは、冒険者ギルドを後にした。

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