第97話 デーブたちの帰還

「おおい、受付にだれも居ねえのかよ、今日はもう仕舞しまいか!」


 怒ってるわけでは無さそうだが、不機嫌そうな男の声が響いた。


 声の方を振り返った受付嬢は、背を伸ばして返事する。


「はあい、今行きますね」


 どうやら仕事が終わったから、ここで話に参加していた訳ではなさそうで、すたすたと小走りに彼女は受付に向かった。


 

「とりあえず、魔石の鑑定と、買い取りを頼むぜ、俺たちはあっちで飲み食いしてるから、悪いな、遅くに」


「大丈夫ですよ、しばらくお待ち下さいね。 終わったらお声がけしますから」


 受付で話を続ける男を残して、他の連中が居酒屋?カウンターへぞろぞろと向かう。

 これから一杯やるのだろう。

 

 男たちは6人のパーティだった。

 どの男も傷心といった体で、重い足を引きずるように歩いて来る。


 パーティリーダーらしき男の声は、受付と俺たちの間で、飲み食いに夢中になってる多くの男達の喧騒けんそうで聞こえにくいが、聞き耳を立てれば聞き取ることはできる。

 俺が受付方面を眺めていると、沙織が「デカパイ女がそんなに気になるの」と、俺を小突いた。

 俺が、あの男たちは、昨日の夜明けに森を出た所で会った連中じゃないかと指摘すると、沙織ばかりでなく、しのぶも同じ方向を見始めた。



「全員、ご無事なようで、首尾もかなりなもので良かったですね」と、受付嬢。


「よかあねえんだよ。

 折角Aクラス6人で、最高のパーティ組んだのに、戦果がB級3体、A級1体じゃ、割に合わねえんだ。

 あとは雑魚ざこばかりだしな」


 パーティリーダーらしき男が、カウンターで酒と食事を注文している、仲間たちを見やりながらそう言った。


「ご無事なことが何よりですよ。

 どんな戦いがあったんですか」


 受付嬢が、そう水を向けると、男は静かに話しだしたが、声はそこそこに張っている。

 気楽に飲み食いしている下位の冒険者たちに、話を聞かせようとでも言うように。


「魔物の森の一番奥まで攻め上がり、『魔物の森のヌシ』に遭遇した。

 今回の俺たちの目的はヤツだったから、みんなやる気満々で迎え撃った。

 こいつは想像していたよりも強敵だった。

 中盤に居た魔法使いは、距離があるのに魔素を吸収し尽くされて使い物にならず、前衛の戦士たちは武具をあらかた持っていかれた。

 この魔石程度じゃ赤字を埋めきれねえ。

 あいつは、俺たちを良いようにあしらってから、もう向かって来ないと見るや、悠々と岩山の大穴にひっこんじまった」


 魔物の森のヌシ という言葉を聞きかじった数人が、食事の手を止め、話を聞こうと顔を受付方面に向ける。

 冒険譚ぼうけんたんは、酒のさかなになるからか、そいつらは酒だけは飲み続けている。


「森のヌシってどんな魔物だったんですか」と、受付嬢。


「今までにどこでも見たことのないヤツだが、ワーム系の魔物なんだろなあ。

 直径は3mはあったな。

 口もでかくて、大きな歯がびっしりと丸く生えていた。

 長さは10M以上で、大穴から全身を出し切ってないから、20とか30Mあるかもしれねえぜ。

 おまけに、巨体に似合わず、頭の動きも柔軟で素早いし、皮膚が固くて矢も刀も槍も中々通らない。

 漸くつけた刀傷も、かなりの速さで自己修復しやがるのさ。

 あいつが積極的に狙ったのは魔法使いだけで、魔法生成したそばから魔素を全て吸収しやがった。

 その後は、ハンターの武具集めにしか興味がなさそうだったから俺たちは助かった。

 おそらく肉食というより、魔素を食料にしてるんだろうぜ。

 その習性からして、大穴の奥にはたんまり武具を溜め込んでいるんだろうがな、あいつとやりあうには、SかSSクラスのハンターじゃないと無理かもな」


 男は自分に向かう、幾つもの視線を意識しながら、長々と語ったが、最後の方は諦めたような感じで、そう締めくくった。


「伺ったことは、ギルド長に報告しておきます。

 魔石の鑑定が終わったらお呼びしますね」

 受付嬢も冒険譚が好きなようで、かなり満足そうだ。



 男は、先に飲食を始めている仲間たちのテーブルに向かう。

 仲間たちは、既に出来上がってる酔っぱらい連中を避けるように、一番奥のテーブルに陣取っていた。



 俺たちのテーブルの所までやって来た男は、ブッシュに挨拶する。


「よお、バカ力のブッシュさんじゃねえか。

 この酔っぱらい達の騒ぎはどういうこったい」

 言葉はぞんざいだが、大先輩に対する敬意が感じられる。


「おう、デーブよ。

 ダイエットした方が良いぜ、今に身体が動かなくなっちまうぜ」


 そう言えば、マイクもこの男をデーブと呼んでいた。

 でっぷりしてるからというニックネームではなく、それが彼の名前のようだ。


「でもようブッシュさん、依頼とか、魔物退治が終わると、食って飲んじまうから、中々減らせないのよ」


「そうかい。

 騒いでいるあいつらはな、手柄立てて帰って来たパーティにたかって、おごりのタダ酒で酔いしれてるのさ。

 あ、お手柄のパーティメンバーってのは、この若い4人だ。

 紹介するぜ、こいつはな、」


 俺は、ブッシュが話し終わらない内に答えた。


「マイクさんと、森を出る時立ち話をしてるのを見ました。

 一応お互い顔見知りってことになります」


「おう、そうかい」


 ブッシュは、少しだけ意外そうな顔をして見せた。

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