第96話 消えた二人

「その3人がいつまで経っても戻らなかったんで、残り5人全員で3人を探しに行ったんだ」


「へえ、おもしろくなってきましたね」


「おまえな、55年前の話だから許すけど、これは結構悲惨な話なんだぜ」


 発言、まずったかな。


「すみません、、、」


「まあいい、昔、俺の仲間に、これを語った時も、丁度同じ反応だったからな」


「人の冒険譚ぼうけんたんはわくわくするもんですよ」

 大丈夫そうだったので、俺は本音を吐露とろしてみた。


「まあ、そうかもな、俺が親父から聞いた時もわくわくしたもんだ」


 遠い昔を懐かしんでいる、ブッシュはそんな顔をした。


「あの、ブッシュさん、あたしもその話近くで聞いて良いかな」

 キャシーも横で聞いていたらしいが、沙織もしのぶも興味があるのか、俺たちのテーブルに移ってきた。


「おう、元々お前たち全員に聞かせたかった話だ。

 これは10年前に死んだ親父から聞いた、55年も前の古い教訓話だが、それでも良いかい」


 一瞬顔をそむけた沙織だが、すぐにブッシュに目を合わせる。

「ただのお説教だったら聞きたくないけど、体験談なら聞くわよ」


 50歳の先輩冒険者に対しても、沙織の態度は上からかw


「教訓、私は好きですよ、ブッシュさん」

 しのぶは、敬意を感じさせる物言いをする。さすがしっかり者だ。


 若い女が興味を持ってくれたのは、50男にはかなり嬉しかったようだ。

 ブッシュは顔をほころばせている。


「ところで、15歳の双子実習教育に、何でB級パーティの皆が、一致協力したんですかね」

 俺はそう訊いた。


「そりゃ、そいつらの冒険者としての素質が大きくて、将来の戦力になると、リーダーの親父も、パーティの仲間も期待したんだと思うぜ。

 何しろ、そいつらは12歳の時、隣国から逃げて来て、この国で同じ年頃の少年少女の不良共を20から30人も束ねて、他にも幾つかあったグループと、日夜抗争していた名うてのワルだったらしい」


「隣国って、うちらの国と以前戦争していたところよね」と、キャシー。


「へえ、そうなんですか」と、しのぶ。


 俺はその話 ちらっと聞いたことがあるが。


「なんで子供のくせして、国を出たのかしら」

 おまえも子供だと思うぜ、沙織よ。


「何でもな、そいつらは親に捨てられたみなし子で、幼児の頃に、ある男女に養子として引き取られたらしいが、その目的は10歳過ぎまで育ててから、高値で奴隷として売っぱらうことだった」


「あらら、悲惨な人生ね。

 それで養父母から売られる前に逃げてきたってこと」と、沙織。


 ブッシュは、沙織を一瞥いちべつしてから答えた。


「ま、そういことだな。

 とにかく、そいつらは小柄だが、素手のケンカも、武器の扱いもうまかったから、冒険者としても期待されていた。

 ともあれ、やつらは鼻っ柱の強い跳ねっ返りだった。


 で、どこまで話したっけ」


 ブッシュは、そこで俺を見る。


「3人が戻ってこないので、川まで探しに行った所までですね」


「そうそう、その見通しの良い川っぺりに、二人を連れて行った奴が、背中から血を流して倒れていたんだとさ」


「え、何が起きたの」

 沙織の目が輝く。


「何でも、態度を改めさせようと、二人にヤキを入れてたらしいんだが、その時に背後からD級の魔物数体に襲われたそうだ。

 あの双子は魔物が後ろから近づくのを知っていて、警告もしなければ、襲われた時に加勢もせず見殺しにして、森の奥へ逃げて行ったとのことだ」


「その人は助かったの」と、沙織。


「ハイポーションでどうにか助かったんだ。

 浅い森だから、大丈夫だろうとのことで、そいつは一人で先に帰らせたらしい」


「奥へ行った二人は、どうなったの」と、沙織。


 しのぶも、キャシーも話にのめり込んでいる様子だ。

 しのぶはジト目だけど、ずっと見ていれば、わずかなバリエーションの違いが分かるようになる。


「新人二人で奥へ進んだら、命が危ういとのことで、親父たちは後を追った」


「そんなヤツ、放っておけばいいのに」

 こういう時、沙織の意見はいつも同じだ。


「一応はパーティの仲間だ、見殺しにする訳には行かないだろ」

 ブッシュは沙織を見るが、俺相手のようには説教しない。


「見つかったんですか」と、しのぶ。


「いや、森の中盤辺りまでは、C級魔物2体、B級魔物1体と遭遇して戦いになり、メンバーの多くが満身創痍になりながらも、その3体を退けたんだと。

 さらに奥まで進んだ所で、A級の魔物に遭遇そうぐうしちまって、仲間が一人殺され、これ以上は無理と判断して、残った4人で引き上げたって話だ。

 その後も双子は帰って来なかったから、森の奥で魔物にやられたんだろう。

 親父の教訓は、調子に乗り過ぎた馬鹿者は、パーティ全員に命の危険をもたらすって話さ」


 そこに、受付の巨乳姉さんが声を掛けた。

 どうやら、ブッシュの話の切れ目を待っていたらしい。


「あの魔石代金として金貨12枚用意できたわ。

 お受け取り下さい。

 ブッシュさん、代金受け渡しの証人になってね」


 俺はパーティを代表して金貨を預かった。


「おう、お安い御用だ」と、ブッシュ。


「さっきの話、聞こえたんだけどさ。

 その悪ガキの双子って、ピーターと、もう一人は、誰だったかしらね」


「もしかして、パーチン?」

 沙織がそう指摘した。


 言われてみれば、55年前、15歳の時に失踪して、もし生きているなら70歳、

年齡も符合する。

 双子なら、ピーターはパーチンの影武者にぴったりだな。


「ずいぶん昔に聞いた話だから、名前なんて覚えちゃいないが、そんな響きだった気もするな」


 ブッシュは、受付嬢と沙織を交互に見てそう言ったが、受付嬢は、沙織の言葉に思い当たったらしい。


「ああ、そうそう、プーだとか、チンだとか、変な名前でしたね。

 ここいらには、昔ワル共がのさばってて、うちのお父さんが若い時分に、双子のワルに金を恐喝されたことがあるって、お母さんが言ってたなあ。

 今はだいぶ治安が良くなってきたけど、ワルにはくれぐれも気を付けるんだよ、ってよく注意されたっけ」


 受付嬢さんは、仕事に戻ろうともせず、一人回想している。

 もう受付の仕事は終わりなのだろうか。


 ひょんなところから重要情報が得られ、任務がほぼ完了した気がして、尚さら地球に戻りたくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る