第99話 しのぶのご褒美?

 宿へ戻った俺たちは、身体を拭くためのお湯をもらった。

 ああ、風呂へ入りてえ、、、と心底思った。

 今日の冒険でも、びっしょりと汗をかいたし、お湯とタオルだけで、このあかがきれいに取れるとは思えない。



 あ、そうだ! こんなこともあるかと、大判のボディシートを携帯してきた筈だ。

 あ、いや待てよ、キャンピングセットとか無かったっけか?

 確か、ラシアへ向かう時、フライはこんなことを言っていた・・・


『今回のミッションに必要は無いと思うが、4次元ポケットが標準装備だ。

 ポケットの中には、半年分のレーション、簡易テント、簡易ベッドなど、キャンプ機能一式と、軽火器が幾つか備えられている』


 マイスーツに、問いかける。

「キャンプ機能の中に、風呂はあるのか」


『風呂はありませんが、簡易シャワーキットならあります。

 ここで展開しますか』


 おお、期待通りの言葉が返って来た。


「ああ、頼む」


 四次元ポケットから、簡易シャワーキットと思われるかたまりが射出され、高性能な救命具を水に落とすと同時に膨らむ、そんな感じで圧縮ガスが吹き込まれ、

昔の電話ボックスとか、カバー付きハンガーラックみたいなものが、部屋の中にあっという間に展開された。

 続いて付属品のウオータータンクが、床にそっと押し出された。

 それには既に一定量の水が満たされていたが、この程度の水量でシャワーが使えるのか?


『タンクを本体の横か後ろに並べるだけで自動接続します。

 後は室内の仮想操作盤か音声で操作して下さい』


 展開が終わった簡易シャワーセット自体が、使用方法を音声で説明した。

 タンクを横に並べ自動接続を確認した俺は、手早く上に身に付けていた服と、マイスーツをベッドの上に脱ぎ捨て、生まれたままの格好になった。

 ああ、とても清々しいw


 さすが、エターナルのスーパーハイテク!

 文明の利器は良いね、本当に良いねw

 シャワーに使った水は濾過ろかされて再利用される仕組みらしく、追加給水は必要ないみたいだ。


 ああ、気持ちが良い。

 水量も温度調節も十分だ。シャンプー、ボディシャンプーもノズルから適量が出て来るし、いたれりつくせり。

 シャワーだよな、やっぱ。

 タオルを湯で絞って拭くだけじゃ、だめだ、ああ、贅沢ぜいたくを言えば、本当は狭くても良いからお風呂に入りてえ。


 シャワーの音が隣室に響いていたらしい。

 シャワーキット室内で温風を浴びて身体を乾かし終わった俺が、ファスナーを開き、シャワーキットから出ると、眼の前にしのぶが居た!


「な、何だよ、どうしてここにいる!」


 呆然としていた俺だったが、気がついて慌てて前を隠した。

 しのぶはそこをガン見していた。

 恐らくこれは出会い頭の事故みたいなもので、しのぶは目を外せずに硬直してしまったようだ。

 しのぶの格好は、薄手のパジャマで、その下も薄手の肌着は付けてるが、おそらくノーブラらしく、すくめていた肩を落とすと同時に、小さな胸が小さく揺れた。

 沙織が笑った時、周囲を照らし出すお日様みたいな美少女とするならば、静かにしている時のしのぶは、暮れなずむ夜空に浮かぶお月様みたいな雰囲気を持つ美少女だ。

 そんな可憐かれんが、目の前で俺のあそこを注視している、この状況に俺はただたじろぐばかりだった。


「み、見るなよ、恥ずかしいだろ」


 硬直してるしのぶに向かって、そう言った俺は、前を押さえ、もじもじと膝まで閉じていて、背中を向ける動作ができなかった。


「あ、ごめんなさい、初めて見るものなので、つい、見てしまいました。

 でも、これとそれとは話が別です」


 慌てて視線をらしながらも、しのぶには言いたいことがあるようだ。


「何のことだ」


「どうして、一人だけでシャワーを使ってるんですか。

 私達だって汗と垢で気持ち悪いのに、コウタさんだけずるいです!」


 顔を横に向けたまま、固い声音、確かに女子の方が、男子よりシャワーを使いたい動機は強いだろう。


「いや、俺もこんなのがあるとは知らなかったんだけど、風呂に入りたいなって考えたら、出発前にフライが言ってた、キャンプ機能ことを思い出したんだよ。

 ほんとに悪気はありませんでした。

 ごめんなさい!

 ちょっとだけ後ろ向いてて、服着るからさ」


 しのぶが背を見せてくれたので、俺は慌てて下着を身に着け、部屋着を着た。


「もういいよ」


 しのぶが俺に向き直る。

 怒ってるのか、口惜しがってるのか、甘えてるのか、よく分からない複雑な表情をしのぶが見せている。


「私もシャワー使いたいです」


 しのぶは、静かにそう言った。


「もちろんだよ、皆で交代で使ってくれ。

 俺はその間、邪魔だろうから、食堂へ行ってるからさ」


 しのぶは、静かに首を振る。


「姉さんも、キャシーも、お湯とタオルで身体を拭いてから、疲れがどっと出たのか、もうねちゃいました。

 だから、今夜シャワーを使うのは私だけです」


「じゃあ、俺、その間、下に行ってるから」

 俺はもう一度そう提案したのだが、、、


「背中向けていてくれれば、出て行かなくてもいいですよ」


 しのぶの、抑えた声が、俺の耳をくすぐる。

 え、本当に良いのか、、、

 俺はベッドに横になり、背中を向けていた。

 衣擦きぬずれの音、ファスナーを閉じる音、シャワーの音、身体をこする音、、、


「ああ、気持ちいい。

 あったかいシャワーと、冷たいシャワー、どっちも最高、生き返りますぅ」


 そんなしのぶの声と、鼻歌まで聞こえてきた。


 俺は起き上がろうとする息子を抑え込むのに必死だった。

 冒険の後で、こんなご褒美ほうびがあるとは。


 そして温風の音、また、衣擦れの音。


「終わりました。

 おじゃましました、コウタさん、お休みなさい。

 これで貸し借りなしですよ」


 しのぶは、そう挨拶をして、俺の返事も待たずにスッと部屋を出て行った。

 最後の言葉の意味が分からない、、、



 俺は、悶々もんもんとして中々眠れなかったが、いつの間にか眠りに落ちていた。


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