第100話 ロクシーの家で

 翌日、宿で朝食をった後、俺たちはロクシーの店に向かった。


 母親に店を任せ、俺たちはロクシーの部屋で、昨日のダンジョン探検の話に花を咲かせる。

 主にキャシーがMCになって、ダンジョンの様々なシーンで活躍した人を指名する感じで、冒険話を進めて行く。


 ロクシーが特に目を輝かせたのは、

コボルトの隊長チュウギィとのハイポーション交渉、

しのぶによるキングコボルトの治療シーン、

しのぶをかばったコウタが刺されるシーン、

沙織とチュウギィの剣技、防御、親が子を処刑するという話だった。


 俺も、自分が気絶している間の話を詳しく聞いたのはこれが初めてで、沙織の怒りのシーンでは心が締め付けられた。

(沙織、ありがとう・・・)


 俺たちが異世界から来て、不思議な道具と戦闘服を使うことは、話の流れでバレてしまったが、ロクシーはそのことを誰にも話さないと誓ってくれた。ふう。。。


 そして、転移魔法陣の部屋、ガーディアン マウントモンスタータランチュラとの対決の話では、まるでこどもが英雄の冒険譚ぼうけんたんを聞き入るように、ロクシーはじっと耳を傾けていた。


 いきなり沙織が、天井から落ちて来たマモタラに抑え込まれ、気絶した話では、おおっと息を飲み込んでいた。

 怒りのしのぶが放とうとした火球、それを止める俺、

キャシーがスリングショットでマモタラの目を撃ち抜く所では、ロクシーはキャシーの肩をバンバンと叩き、やるわね、あんた、とはしゃいでいた。


 俺のブラックウィドウという拳銃攻撃で、糸巻きにしてマモタラの動きを封じると、キャシーがすかさず沙織を救出した所で、またキャシーの肩をバンバン。

 キャシーが、「痛いよ、やめてよ」と言っても止めないので、ロクシーは思わずアイアンクローでロクシーの手を引っ掻いた。

 ロクシーの手から血潮が吹き出したが、さすが上級魔法使い、回復魔法であっという間に、傷跡も残さず治癒ちゆしたのはお見事と言うしかない。


「あんた、やり過ぎ!

 叩き返すくらいにしときなさいよ」


 ロクシーが本気で怒って、一時険悪な空気が漂ったが、すぐ元の和気あいあいな感じに戻った。

 喧嘩けんかするほど仲が良いってことか。

 こんなのは、二人が同じパーティに居た時にも、よくあったトラブルらしい。

 飛びっ散った血潮の痕も、何の魔法を使ったのか分からないが、ロクシーがすっかりきれいにした。


 最後にマモタラを、しのぶが圧倒的な火力で火葬にしたシーンでは、ロクシーは教え子のしのぶをハグしていた。



 ロクシーが、俺たちにお風呂を用意してくれるという。

 この世界では、貴族の屋敷とか、特別な施設や超高級旅館にしかないというお風呂が、一平民の家にあるんですかい!


「ロクシー、お家にお風呂作ってたんだ。 すごい贅沢ぜいたくだね」と、キャシー。


「バスタブは土魔法で作って、お湯は水魔法と火魔法の組み合わせで作れるから、維持費は殆ど掛からないんだ。

 こんなのは魔法使いの特権みたいなもんさ」


「まあ、土魔法でお風呂がつくれるんですか、すごい」と、しのぶ。


「普通の魔法職の人はここまでできないでしょ、さすがロクシー。

 これなら4人一緒に入れそうだね」と、キャシー。


「それ、いいわね」と、沙織。


「普段は真ん中に仕切り入れて、半分だけ湯を入れてるけど、今日はしのぶにも手伝ってもらって、全部に湯を張ろう。

 母さん、入浴中、店番頼むね」


 ロクシーは、今まさに店番中の母親にそう声を掛けた。


「あいよ、まかせなよ」


 店から、元気な声が返ってくる。

 どうやら、娘に新しい友達ができたことを喜んでいるらしい。


「私達もお風呂いただきますね」


 沙織は、わざわざ店に下りて、そう挨拶した。

 付いて行った俺も、ぺこりと一緒に頭を下げた。

(お風呂、お風呂、)

 俺も期待しているのだ、混浴は無理としても、女子たちの後で、その残り湯で身体を温め、全身を洗うw


「あいよ、ゆっくりあったまっていきな」


「コウタは、私たちの後よ」


 ロクシーの部屋に戻った沙織が、そう宣言した。

 もちろん、俺は女子の後が良いw


「わかってるよ。

 それでもお風呂入れるのはありがたいぜ」


 期待してる俺に向けて、ジト目のしのぶが悲しいことを言い放った、、、


「コウタさんは、お風呂に入らなくても良いと思います」


「しのぶ、まだマモタラのことで、コウタに怒ってるの。

 私は、結局コウタに助けられたのよ。

 もっとコウタにやさしくしてやりなよ」


 沙織、やさしい、俺は嬉しいよ。


「そうだよ、しのぶ、あれはリーダーとしての良い決断だったと思うよ」


 キャシーもやさしい、俺、嬉しいよ。


「まあ、私はしのぶちゃんの気持ち、ちょっと分かるような気がするけど」


 え? 何言ってるんですか、ロクシーさん!


「そんなんじゃありません!

 宿に帰って来てからのことで、コウタさんはちょっとひどいなって、、、」


 しのぶは反論したが、最後を言いよどんだ。


「え、どういうこと」と、キャシー。


「言いたくありません!」


「コウタ、昨日何があったのよ」


 沙織が目を逆三角形にして、詰問して来るが、俺は何も話したくないし、詳しい説明なんかとても無理なんだよ、、、


「俺も言いたくありません、、、」


「なんなの!? もう」


 沙織は口をとがらせたが、妹のしのぶが言いたくないならと、しょうがないという感じで追求を止めた。


 俺は女子たちが風呂に入っている間、ロクシーの母親の店番を代わってやった。

 後ろで休んでいるロクシーの母親と、俺は世間話をした。

 マイスーツの翻訳技術はすげえな、違和感なく年配の女性とも話ができるんだから。

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