第147話 公認カップル誕生
1時間目の授業が終わると、沙織が俺の机の方へと歩み寄ってきた。
同時に、これから何かが起こりそうだという空気感がクラスの中に漂い始めた。
俺達が異世界に出発する頃には、この教室で、俺と沙織がしゃべることが、やっと不自然に思われなくなっていた筈だ。
木金月と身代わりくんたちが、接近を避けていた?為に、女子たちからも、男子たちからも、妙な注目を浴びることになってしまった。
まるで中間テスト初日と同じだ。
それまで
二人の間に、何が起こったのかと注目された日。
いや、その時以上の好気の目が、クラス全員から注がれている。
俺の女子耐性が上がっていなければ、この場で卒倒していたか、逃げ出していたかも知れないくらいのいたたまれさだ。
「コウタ、どうしよう、皆が注目してる」
俺のすぐ近くまで来た沙織が、小声でそんなことを言う。
カースト上位者がそんな弱気になるほどなのに、どうしようと言われて、この空気を、俺が何とかできるとでも思ってるのだろうか。
「おまえから来た癖に、何びびってるんだよ」
以前の俺だったら言わないようなことを、それも声を抑えずに言ったもんだから、女子たちの誰もが目を丸くして驚いている。
男子の反応も似たようなものだ。
え、ケンカ?
おまえとか言ってるぜ。
さおりんの方がビビってるの?
そんな外野のひそひそ声が聞こえてくる。
「だって、男子たちまで、みんな私たちを見てるんだよ」
沙織の声が、一段と小さくなる。
俺も小さな声で言った。
「以前のお前だったら平気だったろ」
「そうだけど」
「堂々としてろよ、沙織らしく」
「そ、そうね、やってみるわ」
「普通に話してりゃ、興味を失ってみんな解散するだろ」
「そ、そうね」
「別に身代わりアンドは、何か問題を起こした訳じゃなくて、接近しなかっただけなんだよ、気にするな」
「あ、そうよね、分かった」
「その調子だ、沙織」
ここまで小声で話し込んでいる二人に、みんなが聞き耳を立てている。
みんな、俺達の喧嘩別れでも期待してるのか、まだ付き合ってもない内に。
そう思ってたら、沙織が普通の声で、予期しないことを言い出した!
「あ、あのさあ、無事に戻ったら、デートするって話、あれどうする?」
沙織は俺の顔をちらっと見てから、上を見ながらふうふうと呼吸している。
テンパってとんでもないことを!
「え、今、ここでそれを言うのか、見てるぜ、みんな」
俺は小声で、沙織にそう言った。
「だって、普通に振る舞えって言ったじゃない」
どうにでもなれって感じで、沙織は普通の音量でそう答えた。
え、今さおりん、デートとか言ってなかった?
うん、そう聞こえた。
周囲のヒソヒソ声は、さっきより大きくなった。
どうにでもなれ感が、俺にも伝染してきた。
バトルが始まったなら、何もしなけりゃ一方的にやられるだけだ。
俺も戦闘用意だ。
「みんなに聞こえちゃったみたいだから、もう思い切って言うか」
俺は、沙織の袖を少し引き寄せて、小さな声でそう言った。
「え、何を」
まだ、沙織はあっぷあっぷしたままだった。
ここから小さな声で、俺達は打ち合わせを始めた。
「お付き合い宣言」
「え、今ここで」
「お前だって、ここでデートの話を出したじゃないか、俺達もう付き合うってことで良いよな」
「え、あ、うん」
「じゃあ、思い切って皆に聞こえるように言うから、絶対断るなよ。
俺、皆の前で断られたら、永久お一人様に決定だからな」
「え、うん、ちょっと待って、心を落ち着かせるから」
「よし、1,2の3で言うからな」
「うん、分かった」
注目してる皆も、今まさに何か始まると気付いたようで、ヒソヒソ声はピタッと止んでいた。
「1,2の3!
宮坂沙織さん、好きです、俺と付き合って下さい!」
俺は、
「はい! よろしく、仲村幸太くん」
沙織の声は小さかったが、自分の右手を差し出して、俺の差し出した手を強く握った。
宮坂グループの一人が拍手した。
すると、クラス中の男女が一斉に拍手して、二人を祝福してくれた。
沙織の友だちのこはる?が、大きな声を出した。
「ねえ、みんな聞いて、二人は小学校4年生からの
もう一度、皆で拍手して、二人を祝福しようよ。
あ、うよきょくせつで、合ってるよね?」
俺はびっくりしたが、沙織も目を見開いている。
俺達二人の周囲を、クラス全員が取り囲んで、誰かの合図で一斉に拍手された。
それも、拍手は10秒間近く続いたのだ。
「はあい、祝福終わり、みんな解散!」
こはるの宣言で、取り囲んでいた女子生徒も男子生徒も、散り散りになって、2時限目に備えて席についた。
平常モードに戻ったのである。
「さおりん、頑張れよ」
そう声を掛けて、最後のこはるも自分の席に戻って行った。
何と俺達二人は、今日からクラス公認カップルになったのだった。
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