第146話 六日ぶりの登校

 朝起きて、父さんと母さんに朝の挨拶をしていつも通り朝食を摂った。

 身代わりアンドロイドがうまくやってくれたのか、両親と俺の間に、普段と違ったような会話は無かったように思う。

 まあ平日は、以前からあまり大した会話はしないのだが。

 留守にしていた5日間に、土日が入っているが、たぶん母さんのお使いも断らずにちゃんとやったんだろう。

 夜更かしでもしてなきゃ、うるさく言われることもない。

 少し心配だったのは、沙織やしのぶのことを、色々訊かれたりした時に、身代わりアンドロイドはうまくいなしてくれたのだろうかという点だ。


 ただ、クモミンの話だと、沙織としのぶの身代わりさんは、調整がもう少し必要だったが、俺のについては、90%調整が完了していたというから、やはりうまくやってくれたのだろうと思いたい。



 さて、六日ぶりの登校は、朝も早いし、いつも通りだるかった。


 教室に入ると、沙織達がいつものように5,6人でたむろして、楽しくワイワイとくっちゃっべっていて、俺が来たことにも全く気が付かない。

 異世界であれほど仲良くやってきたのに、こっちに帰れば、またただのクラスメイトに戻ってしまうのかと思ったら少し残念だった。

 あのままあっちに残っていたら、恐らく数週間の内に、高い確率で深い仲になっていたんじゃないか、と、そう思う。

 だって、一緒に命懸けの戦いを繰り返して来たんだから、吊り橋効果じゃないけど、そうなったって不思議じゃないというか、自然の流れでそこまで行き着いたんじゃなかろうかと、考える訳で・・・


「おう、おはよう、仲村」

 そう声を掛けてくれたのは、村田くんだ。


「おはよう」と、俺は単純な返事をした。


「仲村、今日も宮坂に無視されてんのか」


 何言ってるんだ、こいつ。

「え、今日もってなんだよ」


「昨日も、先週の木金も、宮坂はお前の所に近付いて来なかったろ」


 ほお、沙織の身代わりちゃんは、俺と仲良くなってる情報がインプットされて無かったのか?


「え、そうだっけ」


 俺は身代わり中の情報を、マイクロSDカードでもらっておきながら、面倒くさくて、確認してなかった。

 だから、さぐりさぐり適当に返事するしかなかった。


「そうだろ」と、村田くん。


「そうじゃねえかよ」と、村田のともだち。


「そうか」

 二人から、そう言われてもねぇ、そうかとしか答えられないよね。


「まあ、良いか、その内、気が向いたら宮坂もまた相手にしてくれるだろう。

 今はあまり気にするな」

 村田くんは、俺をなぐさめるように、そう言った。


「そうそう、追い掛けると、女は逃げるらしいからな」

 村田くんではない、男子の誰かがそう言った。


「それ、逆じゃないのか」と、村田くん。


「逆じゃないだろ、え、逆なのか」と、誰か。


「知らねえ、そんなの。

 もてない同士仲良くしようぜ」と、別の誰か。


「そう、だな」と、俺。


「そうだよ。

 おう、所でラシア情報だけどよ。

 パーチンが兵隊をエクライナから撤退開始したらしいな」

 村田くんが、とんでもないことを告げた。


「え、そうなのか」

 留守にしていた間に、ラシアエクライナ情勢に大きな動きが出たのか。


「パーチンが国民に対して緊急演説して、私の決定に誤りがあったので、特別軍事作戦開始前の状態に戻すって言ったらしいぜ。

 今度のやつは、ズラを取るパフォーマンスを見せなかったら、本物じゃねえのか」

 村田くんがそう付け加えた。


「演説を聞いた国民は大喜びだって話だ。

 花火を使って大騒ぎしてる映像が流れていたぜ」と、誰か。


極右勢力きょくうせいりょくに、パーチンは命を狙われるだろうって言われてるな」と、別の誰か。


「あれだけ、やっておいて、賠償問題が具体的になれば、今喜んでる国民が怒り大爆発になるんじゃないか」と、村田くん。


「そうなんだ、今朝ニュース見てないからな、全然知らんかった」

 俺は、そのニュースが気になってしょうがない。


「俺達も女子のことより、最近はラシア情勢について語ることが多くなったな」


 そう言った村田くんが、少し大人びて見えた。


 俺達の世界情勢についての話は、先生の登場で、中断された。

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