第60話 異世界?

 俺が先頭、中にしのぶ、後方を沙織。

 この布陣が、当面の基本フォーメーションだ。

 パーティの名前は、仮にチーム川北としておこうかw


 俺たちは、行方をくらましたパーチンを追って洞窟を奥へと進む。

 外からの光と思われたものは、右ドッグレッグに曲った先に群生した、淡赤と白が混ざった、夜光苔が発するまばゆい光だった。

 

 夜光苔からその先100M付近で、洞窟は突き当り、急激に細くなっている。

 一番奥に小さな口が開いていて、外光が少し差し込んでいた。

 人が腹ばいでやっと抜ける位の、ボトルネック状の口だ。


 俺はここまで右側に注意を払って来たが、左サイドを任せた沙織に声を掛ける。


『沙織、途中に分岐する横穴が、左側には無かったか。

 右側には分岐らしきものがなかったが』


『小さい穴の一つも無かったわ』


 この会話に、マイスーツが割り込んで来た。


『薄暗い、洞窟またはトンネルに入った地点を始点として、ここまでオートでレーザー測定しておきました。

 結果をレポートしますか』


『よく分からんが、よろしく』


『1/100スケール3Dにて空間に投影します』


 すると、洞窟のスタート地点からこの突き当りまでが、緑色の細い光線により、格子状のいびつな細長い円筒となって、眼の前の空間に立体的に再現された。

 部分的に拡大表示させてみると、途中のピーターの横穴と、最後の先細の穴まで、きっちりと再現されている。


『長さが5M程度だから、実際には全体で500mほどのトンネルだったということだな。

 ピーターまでが約300M、最奥部までは残り200Mで、その中間辺りでドッグレッグしている訳だ』


『途中に横分岐は無いみたいですね』


『という事は、パーチンはあの奥の細い穴を抜けて逃げたってことよね』


 俺は穴を出る前に、念のため、もう一度クモミンに通信してみたが、繋がらなかった。

 それどころか、ドッグレッグした辺りからは、近場に居る三人同士の間でも、通信にノイズが混じるようになっていた。

 エターナルの想定していない、妨害電波のようなものがこの辺にあるのだろうか。


(怪しい気配がギュンギュンします)


 馬鹿みたいに、突然うららの名文句が頭に浮かんで来た。

 これは予感じゃないな。

 たぶん沙織の長い肢体にあてられたせいだろうw


(とりあえず踊ってみたいと思います)

 ふ、またかよ。

 強い緊張から、空想へ逃げるのをやめて、俺は現状に即したセリフを吐く・・・


『早く追わなければ、パーチンを完全に見失ってしまう。

 出た先に危険があるかもしれないが、俺が先ず様子を見る』


『気をつけてね、コウタ』と、ウララもとい沙織が優しく気遣ってくれる。


 しのぶは狭い穴で極度に緊張しているのか、俺の後ろをくっつくように付いてくる。


 穴の出口付近は、岩石状に固くなっている。


『しのぶ、俺が出て安全を確認するから、そこで少し待っててくれ』


『はい、なるべく早くしてくださいね』


 しのぶの声が震えている。

 やや閉所恐怖症のがあるのかも知れない。

 俺は、出口の突端とったんに手を掛け、一気に外へ飛び出した。


 ヒュンと、何か嫌なものが、俺の尻あたりをかすめた。

 その直前に危険を感じて、俺は瞬時に身をひるがえそうとしたが、自分のイメージ通りの俊敏な動きで、その何かを回避して素早く態勢を整えた。


 俺にそんな運動神経がある訳がない。

 ということは、スーツ自体の、危険回避アシストみたいなものが作動したに違いない。

 それに暗い所から明るい所に出たばかりでも、すぐ目が慣れた感じがしたのは自動調光機能があるということだろう。そう言えば、暗い所でもまあ何とか見えていたしな。


 話を元に戻す・・・身を翻す時に、青い剣のフォロースルーが見えた。嫌な何かの正体はそれだ。

 そしてその剣の持ち手の男が数歩先に立っていた。

 剣を下ろしながら、俺を見て驚いている。

 いや、めちゃくちゃびっくりしてるのは、俺の方なんだが、、、


 その男は俺に向かって手を合わせ、何かを言いながら頭を下げたが、その目だけは油断なく俺を見つめている。

 俺を攻撃したこいつが敵か、敵ではないのか、まだ見極めることはできない。


 喋り続ける様子は謝罪している様にも感じるが、何を言ってるのか皆目分からない。

 おそらく特殊スーツでも学習してない未知の言語なのだろう。


 そう思った時、スーツから

『只今、言語の分析中です。

 学習材料が揃うまで、今しばらく翻訳機能は働きません』との応答があった。


 マイスーツに学習材料を多く提供するには、今は通じなくても、相手と会話を続ける必要があるだろう。

 そう俺は考えたが、何を言おうか、、、


『苦しい、もうダメ』

 しのぶの声が聞こえ、用心深く後方を見ると、しのぶが貞子みたいな感じで穴から這い出して来る。

 まあグレイッシュカラーのショートヘアだから、そんなに不気味ではないがw


『ちょっと待て、しのぶ。

 今俺達の前には外敵がいて危険だ』


『もう待てません、あんな狭い所はゴメンです。ああ息苦しい、、』


 眼の前の男は、手合わせポーズを中断して、しのぶが出てきた穴を見ている。


 俺も男に用心しながら、ちらちらと穴を見ると、続いて勢いよく沙織が飛び出して来て、素早く3mほどあけて俺の左横に並んだ。


『助太刀するわ、コウタ』


 沙織の手には、いつの間にかジェダイのライトセーバーのようなものがあった。

 そんなのどこから取り出した。

 俺の思いが以心伝心したように、


『これ? クモミンが私の為に用意してくれた武器よ、あたしのイメージは剣士エリスだって。

 エリスが誰だか知らないけどね』


 眼の前の男は、俺たちを見て、何かを連続でくっちゃべっているが、何一つわからんな。


『この人に敵意は無いようです』


 しのぶがそう言うなら、大丈夫だろうと思い、俺は全身の力を抜いた。

 かなり張り詰めていたらしく、短時間で体全体がばきばきだ。


 その瞬間、横上方向から、何かが飛んできた。

 瞬時に見えたのは、小型の翼竜みたいなもので、俺はさっと避けた。

 自分ながら、達人のような最小限の動きだ。アシストすげえw


 だが、失敗だ。俺をかすめたそいつは、沙織に向かっている。


 沙織がライトセーバーを一閃いっせんした。

 その場に、翼長2mはあろうかという小型翼竜が真っ二つに転がった。


 それを見ていた例の男は、手をぱちぱちとやって、また何事か言葉を連打している。


『テレパシーの感触では、沙織姉さんのお手並みに、お見事と言ってるようです』

 しのぶが俺に耳打ちした。耳打ちしなくても通信で聞こえるんだけどねw


 次の小翼竜は男を襲ってきた。

 男は刃渡り70cmほどの、青い両刃の剣を振るい、小翼竜の片羽根の先を切り落としたが、手負いとなった小翼竜は着地しても尚俊敏な動きで、鋭いクチバシを何度も男に突き立てようとする。


 どうする、助けてやろうか。

 俺はポケットから、パーチンの拳銃を取り出した。

 男に当たらぬように慎重に狙ってトリガーを引く。

 弾丸が発射された瞬間の反動が思ったより大きい。音もでかい。

 残念ながら、小翼竜には当たらなかったが、音におどろいた小翼竜がたじろいだ瞬間に、男がその頭部を切り落とした。

 ギャンと声を上げて、そいつは絶命した。


 それでも小翼竜は繰り返し襲ってくる。

 この少しだけ開けた一帯の回りは、森になっており、背後は洞窟のある岩山だ。

 森と岩山で小さく切り取られた空に、小翼竜がまだ10体ほど飛び回っている。


『ここは私に任せて、さっきので動きは見切ったわ』


 こいつは、クモミンの言う通り、エリスみたいな奴だ。

 の使い手ではなく、光る剣の使い手という点が違っているがw

 その長い黒髪を、真紅に染めてやりたくなるぜw



 小翼竜の一団は沙織に任せ、俺としのぶは岩山に寄る。


『会話学習絵本を活用して、現地人との言語材料収集することをお勧めします』


 戦闘モード解除と判断した、マイスーツがそう言って、ぽんと4次元ポケットから本を射出した。

 ようやく小翼竜を倒したばかりの男は、手品でも見たように目を丸くして驚いている。


 俺はその男を手招きした。

 その刀は納めろと、身振り手振りで示すと、分かったらしく、背中の鞘にそれを納め油断なく近づいて来る。

 俺も手に持っていたピストルをポッケにしまった。


『私が、この絵本を使って、男と会話してみたいと思います。

 テレパシーを併用すれば、言語材料が効率的に集まるでしょう。

 ここではバリアが機能しないようなので、念のためコウタさんは、私のガードをお願いします』


 しのぶが話しかけると、男は食いつくように話しだした。こいつロリコンか、、、


 しのぶは、絵本を広げながら、これは何とか訊いているらしく、男がそれに答えている様子だ。


 しばらくすると、男が俺を見て、手をコップでも持つような形にして、口にやるポーズを2度ほど繰り返した。

 喉が乾いているのだと思い、俺はスポーツドリンクを一つ取り出してくれてやった。


 すると、男はペットボトルを中空に透かし、奇妙な目つきでボトルの手触りを確かめている。

 ペットボトルを、見たことがないのだろうか。

 やがてこれかという感じでキャップをひねり、中身を恐る恐る一口飲むと、笑顔を見せ親指を立てた。

 気に入ったらしいw


 時間も大分経ったし、もうパーチンの行く先は分からないな、、、


 今更だが、今沙織が戦っている、小翼竜の存在と言い、

聞いたことのない言葉を使い、

見たことのない剣を持つ男と言い、

ここは普通じゃない。

 まあそれはお互い様だが、ここはひょっとしたら異世界ってやつなのか?

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