第65話 アスラン金貨とマリス金貨
「まあ、金貨だわ、どこの国のものか分からないけど」
しのぶが、小オークから受け取った金貨を、色々ひっくり返したりしていると、マイクが説明を始めた。
「ああ、それはアスラン金貨だな。
それ1枚で、俺の町の人が2、3か月は暮らしていける値打ち物だ。
オークとかゴブリンたちは、光るものが大好きでな、どっかで見つけた自分の宝物を、しのぶちゃんにお礼として差し出したつもりなんだろ。
町についたら、すぐ金が必要になる。
だから、それは大事に取っておきな」
口に出した言葉で、マイクは何かを思い出したみたいだ。
「ゴブリンも生かしておくと、顔を覚えて復讐に来るやもしれん」
そんなことを言いながら、マイクは白い糸に
ゴブリンの首から、かなりの血が飛び散る。
二つの首は向こう側へ落ちた。
結果を正確に予測して、自分は返り血を浴びることがない。鮮やかな手口だ。
また青い剣にも血糊は残らない、地球の刀剣とは素材が全く違うのだろう。
突然の出来事に、俺もしのぶも呆然と立ち尽くしていた。
沙織だけが、すすっとマイクに近づき、背中を軽く小突いた。
「殺す必要があったの」
沙織はそう抗議した。
「奴らはしつこいんだ、こうして
生かしておけば、弱腰のやつらと思われ、しつこく命を狙ってくるんだよ」
「そうなの、それじゃ仕方がないわね」
マイクの言い訳を、沙織はあっさりと受け入れた。
「わたし、少しマイクさんが嫌いになりました」
しのぶは、ジト目をマイクに向けている。
「ごめんな、しのぶちゃん。
ここじゃ、これが当たり前なんだよ」
マイクが肩を震わせて、首なしゴブリン2体に手を合わせる。
「そうですか、、、」
マイクの迫真の演技に、しのぶはこの事態を渋々と受け入れた。
しのぶの様子を見届けた後で、マイクは俺に小声で尋ねる。
「ところで、コウタ、このべたつく糸だが、何とかならないか。
こいつの持ち物を探りたいんだ」
マイクは決して悪いやつではないと思うが、仲間の感情に左右されて、現実を忘れる奴ではないと思う。
仲間は大事だが、利益も大事という実践的な奴だ。
こういう奴は、、、まあ嫌いじゃない。
俺はマイスーツに尋ねた。
『この糸はどうやったら解けるんだ』
『ブラックウィドウの銃口を対象に近づけて、銃身上部のボタンを押してください。
射出したものを回収できます』
言われた通りにすると、あら不思議、雁字搦めになった糸が、するすると銃口から吸い込まれていくじゃありませんか。
まるでプレイバックだw
隣で見ているマイクも、目を見開いている。
「すげえ、魔道具だな。
コウタの世界には、こんな便利な道具が
物欲しそうな顔をしているが、これを狙ってるのか、おい。
「ないよ、こんなものはめったにね。
なんせ、沙織のも、しのぶのも、これもだけど、どれも使用者限定の特注品だから、他の人にはどうやっても使えないんだ」
俺は訊かれてもいない説明をして、魔が差すことのないよう配慮した。
少し疑わしそうな顔をしたが、マイクはすぐに納得したようだ。
なんでも、こちらの世界の魔道具も、一旦登録すると、本人が登録解除の呪文を唱えない限り他者には使えないらしい。
盗難防止措置みたいなものらしい。
「糸はとれたぜ、どうするつもりだ、マイク」
俺は道具の話を切り上げるべく、そう促した。
「まあ見てろって」
マイクはゴブリンたちの懐をまさぐっている。
首無しの二体から、それぞれ小袋を見つけた。
中からは、さっきのとは種類が違うが、金貨が5枚ずつ出て来た。
「ほらな。
これは、マリス金貨だな。
価値はさっきのアスラン金貨と同じ位だ、アスランよりは使える国が少し限定されるが。
この10枚を4人で山分けするには、一人2枚ずつで、残った2枚を、俺とコウタで1枚余分にもらうってことでいいか。
俺が見つけたんだから、それで良いよな」
俺は、それで良いと答え、3枚を受け取った。
マイクも3枚を自分の懐に入れ、残り4枚は、2枚ずつ沙織としのぶに分配した。
分配が無事完了すると、マイクは満足げな顔をして、自分の見立てを披露し始めた。
「こいつら、あのゴブリンたちの中でも参謀格だろ。
あのゴブリンアーチャーを呼んだのもこいつらだし、コウタを攻撃する時の時間差攻撃とか、ゴブリンにしては並じゃない手際だ。
こういうやつらが、手下を使ってお宝の光り物を集めてるって訳だ」
この話を聞いていた沙織は、ゴブリンアーチャーが転がっている辺りの森へ踏み入れた。
「よせよせ、時間の無駄だ」
マイクが遠くの沙織に声がけする。
「見つけたわ、3人の内一人だけの袋から、ほら1枚」
マイクの話だと、参謀格に取り上げられ損ねた分だろうとのこと。
少し口惜しそうな表情だなw
まあ何にしても、これで皆公平に3枚ずつって訳だ。平和だなw
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