第64話 治療

 ライトセーバーを構える沙織に対しては、3体が同時に棍棒で殴りかかった。

 カンカンカンと音がして、3本の棍棒が跳ね上げられた。

 やるなエリスもとい沙織。


 俺の目の前のやつ2体が、時差を付けて棍棒攻撃を仕掛けて来た。

 俺は性能の分からぬ、特製ガン、ブラックウィドウの引き金を引いた。


 ピューッと糸を引くように、一体に命中し、続く攻撃者にも間髪入れず一発発射すると、一発目の着弾箇所から、そのまま2発目の着弾箇所に糸が繋がったままになっている。

 ふりほどこうとする2体は、糸にからまるようにして、勝手に2体合体で雁字搦めになって動けなくなった。

 その内の一体が、殆ど聞こえない高い音波を発した。


『新たに9時の方向から、3体接近してます』


 マイスーツの警告に従って、その方向を見ると、弓を構えたゴブリンが見えた。


 シュッ シュッ シュッ

 矢の一本が俺を狙って飛んできた。

 俺はひらりと身をかわす。


 残りの二本の矢は、沙織に向かっている。


 沙織はその二本を、ライトセーバーで叩き落とし、ダッシュするや、次の矢をつがえようとしていたゴブリンアーチャー3体を、まるで「用心棒」の三船敏郎のように、あっという間に斬り捨てた。


 その場からこちらに素早く戻ると、沙織は両肩を揺らしながら、激しい呼吸を繰り返している。

 どうやら、ダッシュから攻撃終了まで息継ぎをしなかったらしい。

 やばいな、こいつ。

 俺はこの時、沙織を本気で怒らせるようなことは絶対にすまいと、心に刻んだ。


 途中で3体増えたが、即座に3体を殲滅せんめつした攻撃力に恐れをなしたか、

残り10体はじりじりと後退し、お互いに目配せ合図を交わしている。

 一旦、大きな輪が縮んで、すわ一斉攻撃かと思ったのも束の間、その輪はすっと一塊ひとかたまりになって、同じ方向へ走り去った。


「どうやら退却を決めたらしいな。

 もう大丈夫だ。

 皆無事のようだな、良かったぜ」


 マイクがリーダーぽい口を利く。

 まあ良いか、この場だけならなw


 無事ではなさそうなのが1体居た。

 あの小オークだ。

 ゴブリンの攻撃を受けて、2体を振り飛ばしていたのは、斜目はすめに気づいていたが、それで背中の傷が大きく開いたらしい。

 出血がひどくなり、息も絶え絶えという感じだ。


 しのぶが小オークにゆっくり近づく。

 小オークは抵抗する様子を見せないので、俺はそのまま見守っている。


 しのぶがスティックの先端を、小オークの背中に触れる。

 小オークは、何かを覚悟したように目を閉じた。

 今にも電撃攻撃を受けるものと、観念しているみたいだ。


 しかしながら、スティックの先端からは、雷撃は発動せず、何やら微細な粉みたいなものが射出されただけだった。


「しのぶ、それは何だい」


 正体不明のもやもやに、俺は興味を覚えた。


「クモミンの話だと、私のイメージは治癒ちゆ魔術師だとのことで、このスティックは、雷撃攻撃の他、治療機能のあるナノマシーンが収納されているそうです」


 なるほど、ロキシーをイメージしているのかクモミンよw


(力失いしかの者に、再び立ち上がる力を与えん、ヒーリング)って感じかw


 暫くすると、もう良いかなと呟いたしのぶが、再度ステッキを翳すと、さきほどの粉みたいなもやもやが、ステッキ先端に吸い込まれて行くのが見えた。

 仕事を終えたナノマシーンを回収したのだろう。


 さきほどまで、死を覚悟していた筈の小オークの目がぱっちりと開いた。

 背中にそっと手を伸ばしている。


「ダメですよ、まだ患部に触れては」


 そう言いながら、ロキシーもといしのぶは、小オークの手を取ってそっと下ろした。


 言葉が通じてる筈もないが、なんとなく意味は通じたみたいで、小オークはじっとしのぶを見ている。


 俺は、再びポケットから骨付き焼き肉を取り出して、今度は転がさずに、そおっと手渡した。

 奴はそれを受け取り、目をぱちぱちとさせている。


「お食べ」と、俺。


 言葉は通じないと思うが、意味は通じたみたいで、奴はそれを食べだした。

 目で俺たちを追うこともなく、むさぼり食うことに夢中だ。


 暫くすると、奴はそろっと立ち上がり、その場にぴょんぴょんと跳ねて、自分の傷の治り具合を点検しているかのようだ。

 俺としのぶと沙織は、多分神のようにw穏やかな目でそれを観察していた。


 奴は腰に袋を下げていたらしく、体毛と同じ色で目立たないそれに手を入れて、何かごそごそとやっている。

 奴はそこから黄色く光るものを1枚取り出してしのぶに差し出した。

 しのぶがそれを受け取ると、ウッホと言って親オークの逃げた方向へ、森の中に入って行った。

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