第63話 ゴブリンの襲撃

 道をふさいでいる小オークに、どう対処すべきか、俺たちは考えあぐねていた。


「マイクさん、オークは危険な魔物なんですか」


 しのぶがマイクに疑問を投げ掛けた。


「そうでもないな。

 こちらから攻撃しなければ、人を襲うことは、よほど空腹でもない限りないらしいぜ」


 じゃあ、こいつがそこをどくまで、少し待ってみるかという話になったが、10分ほど待っても全く動く気配がない。

 半身の姿勢のまま、目だけを俺たちに向けている。


 親の帰りを待っているのかとも思ったが、どうやら背中に傷があるようだ。

 意外と深手なのかも知れない。


「私が傷を診てみます」


 しのぶは、クモミンから与えられたらしい、白い特殊警棒みたいなものを手にしている。


「よせ、しのぶ、あぶないぞ」


 小さいとはいえ、相手はゴリラみたいな魔物だ。

 俺は思わずそう言って、しのぶの手を引いた。


「そう思うなら、守ってくださいね」


 しのぶは考えを変えるつもりがなさそうだ。

 やむを得ず俺は、クモミン特製のハンドガン、『ブラックウィドウ』を手に構えながら一緒に近付いた。

 なんでも、相手の自由を奪う力があるとかないとか、使ってみてからのお楽しみとか言ってたガンだ。


 剣士沙織には背後を警戒してもらっている。


「さっきの残り肉をやって、敵意がないことを示したらどうだ」


 マイクの意見を取り入れて、3、4歩の距離に迫った所で、俺はいくつか収納していた小翼竜の骨付き焼き肉の一本を、そいつの方へ転がしてみた。


 小オークは、目はこちらを追いながら、鼻をひくひくさせて、肉に手をのばそうとしている。


 あたりでカサっと音がした。

 何かが目の前を横切ったかと思ったら、骨付き焼き肉が消えていた。


 俺たちはすでに何者かに取り囲まれていた。


「ゴブリンだ。

 個々の力は弱いが動きは素早い、10から20匹ほどいるようだ。

 離れるな、ばらばらになると集中攻撃をしてくるぞ」


 この距離なら、やつらもどうにか目が利くらしく、きちんと陣形を組んでいる。


『ニホンザル程度の大きさの個体を、15体確認しました』


 マイスーツの支援には毎度毎度お世話になってます。ありがとう。


「全部で15体だ。

 皆で輪になって背中の安全を確保しろ」


 ちょっとえらそうに、リーダーぶって俺は周囲に声を掛けた。


「わかったわ」「わかりました」「おうよ」


 俺たち4人の小さい輪と、手負いの小オークを、15体のゴブリンの大きな輪が取り巻いている。

 俺たちは道を中心に輪を描いているが、やつらは道の前後と、周囲の木陰も利用して囲んでいるから、いちどきに全員が見えているわけではない。


 少しだけ身体の大きいやつが、さっき掠め取った焼き鳥を一口食いちぎって、隣のやつに手渡した。

 食い終わったやつは俺等を見て舌なめずりをしていやがる。

 前の奴らに習うように焼き鳥のリレーが次々と続く。

 そのリレーが一周した時を合図にしたかのように動きが出た。


 一番小さくて弱そうな個体と、判断したのだろうか、

しのぶに向かって、ゴブリン2匹がすっと手を伸ばし、左右に引っ張ろうとした瞬間、

しのぶは、特殊警棒みたいな白いスティックをゴブリンに押し当てた。


 パシッと火花みたいなものが飛んだと思ったら、ゴブリン1号は硬直してその場に倒れた。

 続いて、それにひるんだゴブリン2号にも、しのぶはスティックを振った。

 すると、今度は接触する間際に、青白い閃光せんこうがスティックの先からゴブリンに走った。

 2号はきゃんと叫び声を上げて、1号と同じようにその場に倒れたのである。


 しのぶの攻撃力すげえ!

 この中で、俺が一番弱いのとちゃうか?

 俺は勝利の喜びと、軽い絶望を同時に味わった。


 残り13体は、抜けた2体分だけ輪を小さくして、俺たちを取り巻き続けている。

 少しだけ距離が縮まった。

 もう少しで、沙織の間合いだろう。


 ゴブリンたちは、一斉に腰紐から棍棒を抜いて構えた。

 この組織だった動きに、少しやばいんじゃないかと思った。


 さっと一歩踏み出したマイクが、青い両刃の剣を一閃いっせんすると、ゴブリンの首が一つ飛んだ。

 マイクはすかさず輪に戻る。

 さすがにこの世界のA級冒険者だ。戦い慣れている。

 こいつに斬られそうになったことを思い出した途端、俺の背筋に、今更だが冷たいものが流れた。


 これで残り12体だ。

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