第29話 改札口で

 午後3時過ぎに始まった、プーチンプロジェクト会議は、午後4時前に終わった。


 地球時間では1時間弱だが、俺の脳はすっかり疲れ切っていた。

 タイムコントロールバリア内では、5時間ほどぶっ続けで会議が続いていたのだから、脳も疲労するはずだ。


 そんな俺達に、クモミンが提供してくれたのは、京都の老舗しにせ和菓子店からお取り寄せしたと言う、和三盆わさんぼんで作られた干菓子ひがしだった。


 普段なら、こんな年寄りくさい菓子には手が出ないところだが、お勧めにしたがって口に入れてみたら・・・

 めっちゃうめえ! 口に入れた途端に、すっと舌の上で溶けていく。

 疲れた脳がリフレッシュされて行く〜

 干菓子がこれほどおいしいとは知らなかった。

 甘さ控えめのとても上品な味だ。

 これで、上等の茶器ちゃきで、極上の玉露ぎょくろを出されたら最高だったが、四次元ポケットを持つ、ドラえもんの存在を疑わせるような、証拠品を残す訳には行かない。

 代わりにクモミンが出してくれたのは、ペットボトルの玉露入り煎茶で、これが干菓子とも相性がよくて、中々いける味わいだった。


 姉宮あねみやも、和三盆の干菓子を三つも、四つも立て続けに口に入れ、ペットボトルのお茶をがぶ飲みしている。

 少し下品に感じたが、沙織の脳も疲れ切っていたのだろう。あまり考えているようには見えなかったのだがw


 妹宮いもみやも同じく、おいしそうに干菓子を、お茶でいただいていたが、姉宮にくらべ、しのぶちゃんの所作はずっと上品に見えたのだが。

 それがなんだか、俺を意識した仕草しぐさに感じたのは、俺の願望がなせる勘違いだろうなw


 午後四時半に、それぞれカバンを手にした宮坂姉妹を、俺が先導して階段を降りて行くと、丁度母さんが、ダイニングテーブルで紅茶を用意している所だった。

 お茶の手伝いをしていた父さんも、もう帰っちゃうのかと、かなり残念そうな顔つきだ。

 どうやら年甲斐としがいもなく美少女姉妹に魅せられたのか。

 父さん、あんたは妻帯者だし、年の差をよく考えろよw


「あらあら、もうお勉強会は終わったの。 今、お茶をお持ちしようと思っていた所なんだけど」


「お邪魔いたしました、これから私達、塾がありますので、折角ですが、もうおいとまいたします。

 今日はありがとうございました。

 また明日も中間テスト勉強会でお邪魔しますが、どうぞお構いなくお願い致します」


 さきほどのがぶ飲みから一転して、大人の前に出ると、上品そうに振る舞う沙織である。


「母さん、そういうことだから、ごめんね。 お茶は後で僕が飲むからさ。

 ちょっと駅まで送ってくるから」


 呼び止められると面倒なので、俺たち3人は、頭を下げながらさっさと靴を履き、玄関を出て行った。


 送る必要はなかったが、結局駅まで二人を送った。

 改札を通る間際に、沙織が俺に振り向いて、言った。

「私も、あんたのこと、これから幸太って呼ぶわ。

 いいでしょ。

 今日はありがとう、幸太」


「ああ、別に良いけど、じゃあまた明日な」


 少しおどろいたが、俺も沙織と呼び捨てにしたのだから、公平という観点からは拒否する訳には行かない。

 宮坂沙織に対する、苦手意識がかなり減じてみると、沙織にそう呼ばれるのは、まんざら嫌ではないと感じたw


 明日の勉強会も、今は億劫おっくうに感じない。寧ろ少し嬉しいくらいだw


「幸太さん、明日もよろしくお願いします」

 しのぶちゃんもそう言って、ぺこりと頭を下げるやいなや、足早あしばやに改札を抜けて行った。


 あれ、おかしいな。しのぶちゃんは、明日の勉強会には出ないと聞いていたが、、、まあどっちでも良いか。


 二人を送った俺は、駅を後にして家路いえじについた。

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