第28話 いたずら企画第1弾

 特番TVを観終わった後の、沙織さおり憎悪ぞうおを隠さずに声を絞り出した。


「なんで、こんなにひどいことができるの。

 私、パーチンを八つ裂きにしてやりたい。

 ねえ、フライ、殺しちゃおうよ、できるだけ残虐な方法で」


 フライは、複眼を七色に光らせ、くちばしをくるりと回す。器用であるw


「さおりんには、エターナルの平和の理念について、もう一度レクチャーの必要がありそうだな。

 地球人の気持ちを代弁したということで、聞いておくが、今後も、そんな過激な提案をくりかえすなら、やはり卒業してもらうことになるぞ」


「なんでよ、パーチンを殺せば、地球人はみんなエターナルに感謝するわ」


 こいつ、かなり熱い心を持っているな。けど、熱くなり過ぎだぜ沙織。

 ちなみに、俺は特番が始まってから2次元変換グラスは外している。つまり裸眼らがんだ。


「姉さん、エターナル星は、圧倒的な力を持ってるからこそ、その存在を知られて、地球人の脅威とみなされることをけているのよ。

 それフライさんが前にも言っていたじゃないの」


「ああもう、しのぶは優等生ね。

 あんたはパーチンの非道をゆるせるの!」

 怒りと悔しさで沙織は震えている。

 正義感の強すぎる、こんな奴が勝手に突っ走って状況を悪くすることがあるんだよな、、、


「姉さん! 落ち着いて」

 しのぶちゃんは、震える沙織の背中をさすってやる。


「分かってるわよ、私だって。

 さっきのは、ちょっとエクライナの人たちが可哀想で気の毒で、気が立っていただけなの、発言は撤回するわ」

 ようやく、沙織は落ち着いたようだ。

 冷ややかなタイプだと、出会いの時は思っていたが、本当は激情家だったのか、こいつは。


「あくまでもイタズラを企画するプロジェクトだから、直接攻撃の提案は却下だ。

 理解してくれ、さおりん」

 フライだけは、いつも冷静だな、ハエにしておくには惜しいやつだ。

 ていうか、アンドロイドだったかw


「じゃあさ、じゃあさ、どうやってパーチンをとっちめてやろうか。

 私は、パーチンをハゲにするのがおもしろいと思う。

 でもって、パーチンが演説している時に、上からタライが落ちてきたりしたらおもしろくない?」

 なんだよ、今度はコントかよ。そう思ったが、その目はマジに見えた。

 こいつなりに考えた提案なのか、、、


「ハゲにしても、カツラつけたらわからないと思うけど」と、しのぶ。


「じゃあ、しのぶはどんなのが良いと思うの」


「私は、姉さんと違って慎重派だから、もう少し、様子を見てからにする」

 確かに、しのぶちゃんは慎重派だ。自分でも大人しいとも言ってたが、果たして本当に大人しいのだろうか。


「コウタはどうだ」とフライ。


「タライはともかく、民衆の前でかつらが落ちたら愉快だな。

 技術的には対応可能なのか、クモミン」と、俺。


「そうね、ぱーちんをハゲにすることはできるけど、地球人が納得できる理由をでっち上げる必要はありそうだよね」


 クモミンはこともなげに言う。こいつらにできないことがあるのだろうか。


「民衆の前で、かつらを落とせるのか」

 パーチンが国民の前でどうどうと演説している時に、突然ズラが落ちて、波平なみへいパーチンになったら、確かに愉快だろうと思いながら、無責任にそう訊いてみた。


「太陽と北風の話のように、力づくだと抵抗されるだろう」と、フライ。


「太陽と北風か、じゃあ、太陽のように、自らかつらを外したくなる状況を作れば良いのか」

 確かに強風を吹かせても、パーチンはズラを抑えるだろう。その動作だけでもおもしろそうだがw


「そんなうまい方法があるならな」と、フライ。


「じゃあ、それは後で議論するということで、沙織の提案は却下せずに保留にしておいてくれ」


 俺が沙織と呼んだことに、少し驚いたようだが、まんざらでもなさそうな顔だ。

 そして、自分でも適当な提案をした自覚があるのか、沙織は、俺の援護射撃にも驚いてるみたいだ。


「今はね、仕方ないわね。

 あんたら、もっと良いアイデア出しなさいよ」


 立ち直りが早い、もう上からだぜ。

 あんたらと、言いながら、沙織が指差したのは俺だった。

 しのぶちゃんは、何故か口をへの字に結んでいる、、、


「分かった、分かった。

 そうだな、パーチンには、たしか3人の影武者がいるんだよな。

 僕はその影武者たちを一人一人懐柔ひとりひとりかいじゅうして、本物のパーチンが表に出てこなきゃならない状況を作り出したいと思う。

 その場合は、彼らは身内を人質に取られているだろうから、併せて人質救出作戦の実行が必要になると思う。

 まだ思いつきだから、具体的なやり方については、もう少し考えてみたい」


「遠回しで生ぬるそうなやり方ね、でも良いわ、幸太くんの提案を支持するわ」

 憎まれ口を叩きながらも沙織は俺を支持した。

 しのぶちゃんのへの字口はさらに曲った。どうした、何が気に食わない?


 次は私の番かと、しのぶちゃんはへの字にしていた口を元に戻してから話す。

「ニュースで良く出てくる、クレムリンの白っぽい大きな建物は何でしたっけ」


「それは、多分クレムリン大宮殿のことだろう。

 横幅125M、奥行き63Mもある建物だ、中は一般公開されてないがな。

 それがどうかしたか」と、フライ。


「あれを、なんて言ったっけ、プロマッピングとか」

 しのぶちゃんが俺に顔を向ける。


「プロジェクションマッピングのことか」と、俺。


「そうそれ。

 あの大宮殿に、プロジェクションマッピングして、ゾレンスキー大統領に、パーチンがぼこぼこにやられる動画なんか流せたら、おもしろいと思うけど、そんなことできるかな」


「クモミン、技術的にはどうだ。

 そんなフェイク映像は作れるか。

 それに時間は3分位で良いから、ラシアに邪魔されずに動画を流し続けられるかな」

 俺は、何故か技術的なことは全て、クモミンに投げるw


「コウタくん、そんなのお茶の子さいさいなんですけど」

 こいつらの技術も自信もすげえなw


「俺は、しのぶちゃんの提案、おもしろいと思う。

 パルチザンがやったとでっち上げれば良いのでは」


 俺が賛成した途端に、沙織も賛成する。

「おもしろそうね、それ、さすが、我が妹しのぶだわ」


「格闘技の衣装は、柔道が得意なパーチンに合わせて柔道着にしたら、どうだろう。

 デザインは国旗をモチーフに、ラシアが白青赤のトリコロール、エクライナは青と黄色が良いんじゃないか」


「それ、おもしろいと思います。幸太さん」

 慎重派のしのぶちゃんにしては追随が早すぎるような気がするが。まあ、元々自分の提案だから当然といえば当然か。


「それでは、日本チームの第1弾は、その線で行こう。

 影武者関係はもう少しアイデアを詰めてくれ、コウタ」

 そう言って、フライが会議を締めた。

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