第131話 マイクたちの合流

 俺たちの様子で、交渉がうまくまとまったと思ったのか、ロクシーとキャシーも側に寄ってきた。

 そのキャシーが耳をぴくぴくとさせている。


「どうした、何か聞こえるのか」


「マイク達が、こっちに向かってる。

 ウッズウルフ達は遠巻きのまま、双方で睨み合い状態だったらしいけど、20頭ものウルフ達が、さっき一斉に姿を消したみたい」


 かなり具体的な情報をキャシーが伝えてくれたが、テレパシーが使えないくせに、どうやってその情報を得たんだ。

 俺は得心とくしんが行かず、妙な質問をキャシーに投じた。


「キャシー、おまえもテレパシーが使えるのか」


 キャシーは両手をグーにして前後に揺らす。

 ネコがやったら、めちゃくちゃキュートなポーズだろうな。


「やだな、コウタ、そんな訳無いじゃん」


「だったら、そんな細かい状況が何故分かる」


「マイクとデーブが大声で叫びながら、こっちに向かって来てるんだよ。

 そっちは無事かと、また叫んでる。

 遠くの声も聞こえるって、さっきだって言ったでしょ」


 そんな声は、全く俺には聞こえないが。

 確かに言われてみれば、さっきも、ウッズウルフに囲まれたがこっちは大丈夫だ、という声が、キャシーには聞こえていて、俺も状況判断ができた訳だ。

 しかしながら、シンと話してる内に、俺はそんなことをすっかり忘れてしまっていた。

 ともあれ、マイクはキャシーの能力を信じて、遠くでも聞こえる前提で叫んでいるとは、 もう既に、ロクシー、キャシー、マイクで良いチームワークができてるじゃないか。


「マイク達は、怒鳴ればキャシーに聞こえると、前から知っているのか」


「今日、どの位先から聞こえるんだって、マイクから質問されたから、風の音さえ無ければ、結構遠くからでも聞こえるよって教えたんだ。

 でも、こっちからは遠くまで伝えられないのが弱点かな。一方通行だからね」


「そ、そうか、それでもすげえな」


「すごいとか、コウタたちに言われてもねえ、素直に喜べないけど。

 まあとにかく、ウルデスとの話はついたみたいだね」


 キャシーには、身体を引き裂かれたことに対する恨みはなさそうだ。

 俺はロクシーに向けて言う。

「ロクシーも了解してくれ」


「そうね、でかい魔石は惜しいけど、人と話のできるウルフデストロイヤーなんて、殺しちゃだめでしょ」


 ほお、そういう考え方をしてくれるんだなと、俺は感心した。

 ほっとした気もあって、ロクシーの話の一部を修正する。

「テレパシーだから、直接話せるのは、しのぶとだけだけどな。

 俺はしのぶが仲介してくれたから、アイツと話せたんだ」


 それでもね、とロクシーは短く返した。


「魔物じゃなくて、神獣様かな」

 キャシーが少し先に鎮座ちんざするシンを見つめながら、そんなことを言った。

 俺はそれに乗った。

「そうなんだ、シンとナミは神獣様なんだよ」


「シンとナミって」

 キャシーにも、ロクシーにもまだウルデスの名前は伝えてなかったが、そう訊いてきたのはロクシーだけだった。

 キャシーには、二人の会話の内、俺の声が聞こえていて、既に名前も知っていたようだ。

 会話の一部が聞こえていたからこそ、知恵者のシンを神獣様と思ったのかも知れないな。


「ああ、あの大きなのがシンで、俺が糸だるまにした方がナミという名前で、二人は夫婦だそうだ」

 俺はロクシーに向けてそう説明した。


「二人ね」

 ロクシーが、そう言って笑ってる。

 魔物をヒトの単位で数えたのがおかしいらしい。


「魔物じゃなくて、神獣様だからな、一応人間扱いだ」


「じゃあ、お二人様って言う方が相応ふさわしいんじゃないの」

 ロクシーはそう言って、俺をちゃかした。


「まあな、でも、そこまでしなくても良いかな」


「そうね」


 キャシーが、シンに向けて手を振った。

「あんた、めちゃくちゃ強かったよ」


 シンが向こうで、それに答えて前足を振り返した。

 ワオンとか言っているw

 やっぱイヌじゃんw


 俺にも、どたどたと響く足音が聞こえてきた。

 やがて、マイクを先頭に、デーブとブッシュが続いて、三人ともここまでやって来た。


 三人は、俺たちの向こうで伏せているシンに気がついたようだ。

 まあ伏せていても、シンは大きいからな。


「おい、あいつは何だ」

 デーブが驚いて、目をらしている。

 そして、分かったという感じで手を打った。

「あれ、ひょっとしてウルフデストロイヤーじゃねえのか」


「俺は初めて見た」

 マイクも唖然とした感じで、シンの方向を見つめている。


「俺だって、話に聞いたことがあるけど、見るのは初めてだ。

 古株のブッシュのおっさんは見たことがあるかい」

 デーブはマイクに答え、次いで、振り返ってブッシュにそう尋ねた。


 そのブッシュは、シンを一瞥いちべつして、特に動じた様子を見せない。

 さすが年の功っていうところか。


「おっさんはよけいだ。

 ワシも話には聞いたことがあるが、見るのは初めてだな。

 何でも、ウルフデストロイヤーは魔物ではなく、神獣様だと言ってるやつがいたが。

 あの姿を見ると、神獣様と言われても納得できそうだが」


 ブッシュがそう言った時には、向こうで伏せをしていたシンが、静かに立ち上がっていた。

 顔も上げている。その高さは3Mはありそうだ。

 威厳たっぷりに、殺気を見事に消して、神々こうごうしさを漂わせている。

 やはり俺にも、シンは神獣様と呼ぶのが相応しい存在に見えてきた。


 このまま、マイク達三人が、シンを魔獣ではなく、神獣様と考えてくれれば、今後の取引がスムーズに行きそうで好都合だった。

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