第130話 ウルデスとの対話8

『ここまでやって来た、おぬしら8人のパーティが、強者であることは始めから分かっていた。

 今回は、標識を探してる三人を分断させた後は、強者相手に援軍が来るまで、できるだけ長く足止めすること、それをテーマにした訓練をさせたのだ』


『つまり、接近攻撃は控えていたと』


『その通りだ。

 お前たちの、あの大蛇3匹とのバトルも、オーガとのバトルの様子も、群れのリーダーが観測していたことに気が付かなかったか』


 あのバトルの時に、驚異的な視力と聴力を持つキャシーでさえ、オオカミが居ることには気付いていなかった筈だ。

 ウッズウルフの斥候せっこう能力は、まるで鍛え抜かれた軍隊の一員のようだ。


『見ていたのか』


『その報告が来たので、特別訓練を行わせた。

 ワシとナミは、こっちの5人と手合わせして、軽く捻り上げてから開放するつもりでおったが、ナミは返り討ちに合ってしまった。

 命に別状が無かったは、本当に良かった。

 ワシらにも強者のおごりがあったということだな』


 確かに、その奢りが無ければ、逆に俺たちの方が窮地きゅうちに陥っていたかもしれない。

 ウルデスの仲間である、ウッズウルフ達も、戦闘マニアというだけで、実は平和主義者なのだろうか、そんな訳は無かろうと思いつつも、俺は確認せざるを得なかった。


『もしかして、ウッズウルフ達も、原則的に人を殺さないのか』


 俺の質問は一笑いっしょうに付された。


『そんな訳がなかろう。

 この森は、原則的に、弱肉強食の世界だから、余程卑怯よほどひきょうなやり方でウルフ達が殺されなければ、ワシらは関与せん。

 むろん、ウルフたちが人を殺す方にも関与せん』


『では、シンとナミだけが、人を殺さないということですか』


『そのつもりだったのだが、あのネコ系獣人族の気迫が凄まじかったので、つい力加減を謝って致命的な傷を負わせてしまった。

 そこは謝罪しておこう』


 なるほど、シンを本気にさせたという、そのキャシーの凄まじい気迫は、ぜひ見ておきたかった。

 ともあれ、シンの心配はぬぐい去っておこう。


『ああ、キャシーなら大丈夫です。

 治癒魔法で、もう完全回復してます』


『あの傷をそんなに短時間で回復させたのか、おぬしらの魔法使いは天才だな』


 ロクシーはもちろんだが、しのぶの伸び代のびしろはすごいからな、この世界に残れば大魔法使いも夢じゃないだろう。


『天才魔法使いなら二人いますよ』


 森の賢者を感心させたくて、そんなことを言ってみた。


『そうか、休戦になって良かった。

 ワシはタヌルのように、魔法吸収のドレーンは使わんからな』


 その言い方に、何か引っかかるものがあった。


『それは、使えるのに、使わないということですか』


『昔は使えたのだが、長く使わん内に、使い方を忘れてしまったのだ』


 森の賢者は一体何歳なのだろうか。

 そう思ったが、俺は別のことを訊いた。


『どうして使わなくなったんですか』


『ワシらのような実力者には、ハンデが必要だと考えていたのだ。

 まあ今日のバトルを考えると、それもワシらのおごりだったようだ。

 明日からは、また魔法を使えるように練習してみるかの。

 またSクラスハンターが来ないとも限らんしな』


 どうやら、俺たち三人はSクラスと認定されたようだ。

 少し嬉しかったので、お世辞を言ってみる。


『二人にドレーンを使われたら、こちらに勝ち目が無かったかもしれません』


『ふむ、嬉しいことを言う』


 これは強者同士が戦った後で、互いを認め合うヤツだな。

 気分が良い、まっこと気分が良いぜ。


『こちら側も強い振りしてるだけですから』


 強者ごっこは楽しいw

 まあ、シンは、俺のように、ごっこ遊びをしてるつもりはないのだろうが。


『その心構えがあれば、次の難局も切り抜けることができるだろう』


『そうですね。

 じゃあ、とにかく人質交換を実現しましょう。

 マイクたちの、遠隔包囲を解いてもらえませんか』


『うむ、既に包囲は解かれ、すぐそこまでおぬしらの仲間3人が接近しておる』


『そうですか、では、話し合ってきます。

 話し合いが成立次第、ナミさんの拘束を解きますので』


『よろしく頼む。

 今も、早く助けてと、テレパシーが入っておるからな』


『そうですか、便利ですね』


『しのぶにも礼を言っておかんとな。

 しのぶよ、今回はたいへん世話になった』


 そうだ、そうだ、しのぶがずっと仲介して、俺にシンの言葉を通訳してもらっていたのだ。

 しのぶが居なかったら、どうなっていたのだろうか。


『なんてことありませんよ。

 シン

 私も、テレパシーがこんなに役立つとは、今まで知らなかったので、嬉しかったですよ』


『そうか、それは良かったの』


『はい』


 このシンとしのぶのやり取りも、しのぶはわざわざ俺に通訳してくれたのだ。

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