第129話 ウルデスとの対話7
シンは、威厳を取り戻すべく、優雅さを意識したゆっくりとした動きで、沙織に向き直った。
賢者モード復活だw
『ほお、それは好都合だな。
赤い
ここの大きな魔物から吸収できる量よりも、遥かに大量の魔素が得られるそうだ。
タヌルは、魔素の栄養不足で、最盛期の長さの半分まで体長が縮んでいるのだ。
赤い輝石一つで、元のサイズまで戻すことができると聞いたことがあるぞ』
沙織は懐を探って、赤い輝石を撫でているようだ。
あの時、結構あれに執着していたもんなw
『惜しいけど、取引材料になるなら、手放してもいいわ』
さすが、
話が良い方向へ回って来て、俺にも余裕が戻って来た。
『まあどうでもいい話だけど、メタルスライムは何故、タヌルの使い魔をやってるんだろう』
そう訊くと、シンははっきりと、その理由を解説した。
『タヌルが集める金属を好んでいるのだ。
金属はメタルスライムの栄養源であり、たくさん取ると強くなる』
『それで、タヌルとメタルスライムが共生関係にあるのか』
『ただな、タヌルが集めるのは鉄類がほとんどで、肝心の銅と錫がない
メタスラは、銅と錫を吸収すれば、二体、三体に分裂することも可能らしい』
おや、森の賢者も短縮形を使うんですねw
俺は自信たっぷりにシンに言う。
『銅と錫ですか、それならありますよ』
『ほお、それも好都合だの。
タヌルにとっても、使い魔が分裂して増えることは良いことだろう』
『銅と錫っていったって、どこにそんなものがあるのよ』
そう沙織が言った。
『姉さん、ほら、ブッシュさんの大盾が青銅製ですよ』
しのぶはさすがだ。
『ああ、あれね、青銅って確か銅と錫の合金だっけ。
あれを
沙織も、あれを思い出したらしい。
人質交換については、マイクが喜ぶことだろうと思うし、シンに傷つけられたキャシーも無事回復したことだし、特に問題になることはないだろう。
ロクシーがウルデスの魔石を欲しがってはいたが、シンの連れ合いのナミを拘束したのは、俺とキャシーの連携であり、ロクシーが貢献した訳ではないから、反対しても押し切れる。
ヌシとの取引が成立すれば、大洞窟を
あ、それじゃ俺たちが勝ったみたいな言い方だな、とにかく無傷で
デーブを筆頭に、マイク、ブッシュの三人が目的とするものは、武具と金貨だが、果たしてヌシはどのくらいの量を俺たちに譲ってくれるのか、それがクリアできれば、休戦協定は成立するだろう。
そしてだ、果たしてブッシュはあの、青銅製の大盾を供出してくれるだろうか。
どのくらいあれに愛着があるのか、そこら辺は聞いてみないと分からないが、あの人柄なら、俺たちが頼み込めば了解してくれそうな気がする。
まあ細かいことを先に考え過ぎても
それよりも、問題は、ウルデスを引き合わせ、ブッシュ達が信用してくれるだろうか。
もしかして、魔物など信用できるかと言ったら、シンたちは魔物ではなく、神獣であると言いくるめよう。
いや、その前に、マイク達がウッズウルフを皆殺しにしていたら、肝心のシンの心象を害さないだろうか。
この点が一番気掛かりになって来た。
これもシンに訊いてみたほうが早いか。
俺は、再びシンに向き合った。
『シンさん、ちょっと確認しておきたいことがあるんだが』
シンはまだ伏せたままだったが、既に俺たちに正対していた。
正面から見ると、やはり威圧感すげえな。
『何だね、コウタ』
『東の方で、あんたの子分たちのウッズウルフと、俺たちの仲間三人が戦闘中だと思うのだが』
俺がそう訊くと、何やらシンは首を傾げている。
『ああ、そうだな、まだ終わってないようだ』
『ウッズウルフを、もし俺の仲間がたくさん殺してしまっていたら、シンの考えは変わるのか』
『そうだな、あの20頭がやられてるとは思わんが、その多くが殺されていたら、このまま休戦という訳には行かないだろうな』
やはり、そうだろうな、仲間が何人も殺されたら、俺たちだってそう簡単に和解などできる筈がないのだ。
とは言え、あっちの戦闘だって、とっくに始まっているのだから、双方に損害が発生していない訳がない。
そして損害が多く出てるのは、ウッズウルフ達の方だろう。
そう考えながら、俺はシンに言う。
『あっちの仲間3人は、全員Aクラスハンターだから、もう10頭くらいは殺してる可能性があるんだが』
俺はかなり深刻なことを言ったつもりだが、シンはあっけらかんとした様子で答えた。
『おお、やはりAクラスか、あやつらは』
『余裕がありそうですね、勝てると思ってるんですか』
『ふむ、勝てぬかも知れぬが、まだ一匹も殺されてはいない』
遠く離れたこの場にいるシンが、見て来たようなことを言った。
『分かるんですか、そんなことが』
『うむ、今テレパシーで、群れのリーダーに確認した』
まただ、チート能力だな、テレパシーってやつは。
それにしても、シンとナミ以外にもテレパシーを使える魔物がいるとは。
『へえ、あっちのウッズウルフたちもすごいんですね。
しかもテレパスがいるんですか』
『まだ、連中はそこまで強くなってないが、いずれかなり強くなるだろう。
テレパスは群れのリーダー一人だけだ。
全員テレパスだったら、既にこの森の最強軍団になっておるだろう。
そして、今回はあくまで戦闘訓練であり、命をかけたバトルは禁じておったのだ』
ウッズウルフ達も、俺たちを殺すために襲ったのではなかったと言うのか。
俺たちは練習台かw
ウッズウルフを交えて、俺たちを練習台に選んだのは何故だろうという、率直な疑問をぶつけてみる。
『どういうことですか』
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