第128話 ウルデスとの対話6

『知り合いなのか』と、ウルデスが俺に問い掛ける。


『ああ、仲間の知り合いだ』


『人質交換はできそうか』


『ああ、できると思う』


 シンの目がさらに大きくなって、ぱちぱちと瞬きしている。長いまつ毛だな。

 これは喜びの表情なのかも知れない。


『じゃあ、二人を連れてこようか』と、シンが言う。


『そうだな、俺たちの仲間が戻って来てからでいいか。

 ジャック兄弟と確認できるのは、マイク達だけだからな』


『こんなにうまく話が運ぶとは思わなんだ』


 シンが安心したのが分かったので、彼がなごんだ所を見逃さず、俺たちにとってさらに重要な方の話を持ちかけることにした。


『あのさ、それとは別の話だけど』


『何だね』

 緊張感が解けた、柔らかな言い方だった。

 まあ、テレパシーを使って仲介する、しのぶがそう説明したのだがw


『大洞窟の、タヌルだっけ。

 タヌルと話し合いたいんだが、その仲介をしてもらえないか』


 シンは鷹揚おうように頷いて見せる。

『何を話したいんだね』


『俺としのぶと、もう一人沙織という仲間がいるんだが、この3人は岩山の小さい洞窟の向こうの世界から、間違って転移してここへ来たんだ。

 その転移口が一方通行で、そこからは帰れないのだが、おそらく大洞窟の中に分岐した洞窟があって、その中に、元の世界へと通じる転移口がある筈なんだ』


 シンはじっくりと俺の話を聞いてから、要点をまとめた。

『つまり、元の世界に帰りたいから、タヌルとはバトルにならないように、仲介してもらいたいということかね』

 その話しぶりは、実に紳士的で、頼りがいがありそうに感じた。

 俺はすっかり尊敬の気持ちを持ってしまった。


『シンさん、その通りです。

 頼めないかな』


『突然のさん付けだな』

 シンがにやりと笑った。

 そんな気がしたのだ。


 彼のプライドをくすぐってみよう。


『シン様と呼んでも良いよ』


『くすぐったいな。

 だが、一つ問題がある。

 お前の仲間はこの世界のハンターだろ』


 お、問題があるのか、もっとすんなりと引き受けてもらえそうな気がしたのだが。


『そうだけど』


『ハンターは、魔石とかお宝を求めて、この森に入るのじゃろ。

 だとしたら、お宝を集めてるタヌルから、お前の仲間のハンターがそれを盗もうとするかも知れんな』


 確かにその懸念はあるし、彼らの目的であるお宝を放棄してくれとは言いにくい。

 確かにシンの言う通り、問題があるな。

 シンは賢い。


『そうだな、そういう問題は残るな』


 俺がうつむくと、シンは寝そべったまま顔を高く上げた。

 神々こうごうしい、そんな雰囲気だ。

 賢者けんじゃが知恵を授けてくれる、そんなシーンが頭をよぎった。


『コウタよ、タヌルが本当に欲しいものが何か知っているか』


『剣とか盾とか、金貨かな』


『あれは、タヌルにくっついてしまうから、後で洞窟の奥に整理してるらしいが、特にそうしたものに対する収集癖がある訳では無い』


『だとすると、本当に欲しいものとは何でしょうか』

 俺は知らず知らず、シンに対し敬語を使っていた。


『まず魔素じゃ、魔法使いは魔素の流れをつかむのがうまい』


 俺は一瞬、俺達から魔法使いを差し出せと言い出したのかと思い、無茶な要求に対し怒りが湧いて来た。

 やはり、交渉決裂かと。

 それでも、その真意を確かめようと、確認の為に質問をする。


『魔法使いを食うつもりじゃないよな』


『魔法使いは魔素の流れをあやつるだけで、体内に魔素をたくわえているわけではないから、食ってもしょうがない』


 ふっと肩の力が抜けた。

 ちゃんと続きがあったのだ。


『なるほど、じゃあ、魔素集めを手伝えということでしょうか』


 俺の言葉を少し吟味ぎんみする様子を見せてから、シンは再び顔を上げて俺を見る。


『それもタヌルに提案できるかもしれん。

 しかしな、それとは別の方法がある。

 人属ひとぞくは知らないらしいが、そんじょそこらの魔石よりも、大量の魔素を圧縮している物質があるのじゃ。

 もし、お前たちの中にそれを持っているものがいれば、タヌルと楽に交渉できるだろう。

 恐らく、タヌルが集めた武器防具、金貨との交換も望める筈じゃ』


 おお、シンが賢者モードに入ったようだ。

 今の俺は、そのとおとい知恵を授かろうとする弟子だ。


『それは一体どういうものでしょうか』


『ワシも見たことはないが、タヌルは使い魔のメタルスライムに、北のダンジョンでそれを探させておる。

 何でも赤い石、うん確か、赤い輝石きせきと言っておったわ』


『あ、あれか』


『知ってるのか』


『北のダンジョンで、メタルスライムが、赤いスライムを殺して、何かを奪ったらしく、その為に他のスライムに追われている所に出会でくわしたことがあります』


『ほお』


『俺たちと、逃げるメタルスライムが鉢合はちあわせになって、赤い輝石を落として行きました』


 ここまで黙って話を聞いていた沙織が、突然不可視のモードを解除した。

 長いライトソードをくるくるとやってから、すとんとホルダーに戻した。

 賢者モードで尊厳そんげんたっぷりだったシンが、うわっとばかりにった。

 沙織の存在に全く気付いてなかったのか。

 どうやら賢者ではあっても、大賢者には程遠いようだw


 そんなことにはお構いなしに、姿を現した沙織は、腰に手を当て、シンに向かって指差しポーズを作った。

 なんて凛々りりしい格好だ。


『あたしが持ってるわ、その赤い輝石なら』

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