第127話 ウルデスとの対話5

『どういうことだ』


『ワシらは、強そうなハンターと出会うと、その力量りきりょうを試したくなるのだ』


 やはり武芸者の思考だよw


『バトル趣味があるということか』


『まあ、そういうことだ』


 しょうがない、魔物にもそんな酔狂すいきょうなヤツがいるのだと認めよう。

 とは言え、魔物がヒトを救うようなことは、もっと信じられない気がした。

 既に、俺はこの異世界のルールみたいなものに染まっているのかも知れない。

 魔物は全て人類の敵だと。

 だから、魔物は出会ったら殺してもいいと。

 逆に言えば、出会ったら魔物はヒトを殺しに来ると。

 だが、この神獣しんじゅうは違うらしい。

 そうだ、こいつは魔物ではなく、神獣なのだろう。


『魔物から人を救った理由は』


『ああ、それは確かに普通はやらない行為だな』


 これこそ、俺が納得できる言葉だ。


『その二人を救ったのには、何か特別な理由があるということか』


 シンは、横向きに寝そべった奥側の右手で、いや右前足か、頭の横をいている。

 やけに人間臭い仕草を目にすると、シンに対する警戒感がどんどん薄れて行く。


『そうなんじゃ、その二人はハンターとしてはヒヨッコだが、その内の一人はワシらと同じテレパスだった』


 おお、テレパスか。

 隣を見ると、しのぶが大きく目を見開いている。


『この世界にもテレパスの人がいるのか』


 驚きを隠して、シンに対して冷静に見えるように、そう訊いてみた。


『ワシも初めて、ヒトのテレパスを見つけたんで、物珍しさから魔物から救ってやったのだ』


 なるほど、そんな理由なら分かる気がした。


『そんなことをしたら、獲物えものを取られた魔物が怒るんじゃないか』


 シンは、さっきとは違う、手前の左前脚を上げて、何かを否定するように、その脚を振った。

 寝そべったまま、指先一つでヒトを良いように動かす。

 そんな横柄な、言い換えれば、その堂々とした振る舞いは、権力を持つ王族のようだった。


『文句は言わさん。

 この森はワシらが頂点にいる。

 実力差があり過ぎて、誰も文句は言わん』


 すげえ自信だな。

 俺は少し、その自信をくだいてやりたくなった。


『ほお、あの岩山の大洞窟には、お前より強そうなのがいるじゃないか。

 俺たちは、あのワームみたいな怪物を、魔物の森のヌシと呼んでいるが』


 どうだ、少しは凹んだかと思って見ていると、シンは余裕たっぷりの態度を全く崩す様子がない。


『ああ、あいつを知ってるのか。

 なら、話は早い。

 あいつは古くからの親友と言うか、悪友と言うか、そんな関係だ。

 あいつはあの洞窟に暮らしていて、その前の広場にしか出て来ない。

 しかしながら、あの広場に出て来た魔物に対しては、ドレーンの魔法で、容赦なく魔素を吸い上げ、吸い尽くす。

 魔素を吸い尽くされた魔物は、元の半分以下のサイズになって、森に逃げ戻ることになるのだ。

 内弁慶うちべんけいというか、引きこもり野郎と言うか、そんな奴だが、その戦闘力にはワシも一目置いておる。

 強者つわもの同士に友情が生まれたという訳だ。

 その上にだ。 あ奴もテレパスでな。

 だからワシから出向いてやって、時々話し相手になってやるのだ。

 アイツは森には入らないから、もし、魔物の森のヌシという言葉があるなら、それはワシらにこそふさわしいだろう』


 突然の饒舌じょうぜつに、俺は呆気あっけに取られた。

 こいつも、話し相手になってくれるテレパスが恋しいのだろう。

 その上、プライドがとても高い。

 ともあれ、あのワームと親友だと!

 これは良いことを聞いた。


『あのワームとコミュニケーションが取れるのか』


『あのワームはないだろ。

 あいつにもちゃんと名前がある。

 あいつは、タヌルと言う』


『タヌル?』

 トンネルの中に住んでるから、タヌルなのだろうか、違うかw


『そうだ』


 タヌルの方が、俺にとって重要ではあるが、この対話においては、人質交換が先だろう。


『話がそれたが、救った二人は元気なのか』


『元気じゃよ。

 あいつらは弱いからの、この森を二人で降りることができそうにない。

 今は、ワシらの身体で足が届かない所のノミ取りをしてもらっておる。

 代わりに食事として、取ってきた肉を提供してやっておる。

 あいつらに焼かせた肉はうまいのだ。

 山菜などは、ワシらの目の届く範囲で取ってくるようだ。

 時々うまいキノコを取ってくる。

 近くの川で、匂わんように身体も定期的に洗わせておるから、きれいなもんじゃ』


 うん、こいつ結構お話し好きだなw

 聞いていると、どうやらシンたちと二人の人間は、持ちつ持たれつの共生関係にあるようだ。


『いつから、一緒に暮らしているんだ』


『まだ五日か六日前からだろうな』


 え! だとしたら、、、二人と言っているし、あれか? あれなのか?


『そいつらの名前は』


『ジャックとか言ってたな。

 二人は兄弟だ』


 ビンゴだ! マイクが行方不明になったと言ってた奴だ。

 生きていたのか、こいつらに助けられて。


『ジャック兄弟か』


 俺のつぶやきに、シンは目を見開いた。

 人質としての交換価値が上がった、と思ったのかも知れない。

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