第132話 取引
マイクが、俺に何か訊きたそうにしていた。
デーブもブッシュも知りたがっていた。
「皆さん、ご無事でしたか」
見た所、怪我をしている人はいないようだが、念の為俺はそう確認してみた。
答えたのはマイクだ。
「ああ、全員無傷だ。
ウッズウルフ達、19頭に遠巻きに囲まれてな、他にリーダーらしき一頭が少し高い所から、あいつらを指揮していたように見えた」
「じゃあ全部で20頭ですね。
その内、何頭か殺しましたか」
シンとの取引上、懸案となるのは配下の命だから、それを確認しておく必要がある。
「いや、
あのリーダーがいなきゃ、何とかなったんだが」
「つまり、双方に損害は無かったということですね」
「まあ、そうだな、少し疲れただけだ」
これで、シンとの話し合いに支障となるものはなさそうだ。
俺は一安心した。
後は、今後の話をうまく運ぶために、シンを神格化しておくかw
「良かったです、ではあの神獣様のシンと取引ができそうです」
「やはりあれは、神獣なのか」
そう訊いたのはデーブだった。
「ヒト以上の知識と経験があって、この魔物の森一番の強者で、テレパシーでヒトとの会話ができるのですから、神獣様としか思えないのですが。
デーブさん、ブッシュさん、どう思われますか」
「そうだな、それなら神獣様にちげえねえ」
デーブがそう言うと、ブッシュも頷いた。
マイクは何か考えている様子だ。
マイクは
「コウタ、おまえ、あいつと話をしていたのか」
そのマイクは、俺にそんなことを訊いた。
「しのぶを介して、話をしました。
あ、しのぶがテレパスであることは、前に話しましたっけ」
「俺は、聞いてなかったと思うが、しのぶちゃんがテレパスだとはびっくりだ。
昔の英雄だかなんだかで、テレパシーが使える人がいたという話だが」
マイクに
よほど意外だったのかも知れない。
ブッシュは自信なさげに、こう答えた。
「ワシも聞いてないと思うが、聞いたとしても、忘れてしまったのかもしれん。
最近は物忘れがあるものでな。
だが、そんな大事なことを忘れることがあるだろうか」
俺は前に話しましたっけと、言ったのだが、ブッシュには、前に話しましたよねと聞こえたのかも知れないな。
俺は、あっさりとしのぶのテレパスを明かしてしまったが、もうすぐ元の世界に帰れるなら、特に問題はなかろう。
もう既に、キャシーも、ロクシーも知っていることだしな。
「あ、そうですか。
しのぶはテレパスなんです」
驚きはしたが、わりとあっさり、二人はその事実を受け入れた。
俺達なら何でもありと思ってるのかもなw
しかしながら、マイクは二人に対しマウントを取りたい気持ちでもあるのか、こんな事を言う。
「俺は、最初に会った時から、しのぶはテレパシーが使えるんじゃないかと思ってたんだよ。
やっぱりそうだったか」
「まあとにかく、そういうことです」
俺はあっさりと流した。
「それで神獣様と何の取引をするつもりだ。
それにさっき言ってたことは、あのウッズウルフの親玉があいつってことか」
そうマイクが訊く。
マイクはやはり他の二人より鋭いな。
今はあまり、シンが三人に対し、ウッズウルフの一団をけしかけたという事実には触れたくないのだが。
しかし、マイクに次いで、デーブは別のことを訊いた。
「あれはヌシよりも強いのか」
デーブは、「この魔物の森一番の強者」というところが気になったようだ。
俺はマイクより先に、デーブの質問に答えた。
「ヌシとは古くからの友人なので、戦うことはないそうです。
神獣様は、ヌシともテレパシーで会話できるそうです」
「じゃあ、ヌシも神獣なのか」
デーブがさらにそう訊いてきた。
「まあ、さっき言ったことを基準にするなら、神獣かもしれません。
また、神獣様は、強い者がこの地を訪れると、その力を測るために勝負を挑まれるそうです。
やむをえず、怪我させることはあっても、決して人は殺さないそうです」
シンの神格化の仕上げをする為に、シンの高格な人格を
そこで、しのぶからテレパシーが入って来た。
「コウタさん、シンが、
「卑怯な悪人の場合は、殺すこともあるそうです」
しょうがないから、そう付け加えた。
デーブとブッシュに、シンが神獣であることを疑う様子は全く見えない。
シンの神格化に成功しましたw
「なるほど、それで取引とは」
マイクはさっきの質問を繰り返した。
俺はまだ答えてなかったっけ。でも、その後に続く質問が消えていたは助かるねw
「ヌシとの仲介をしてくれるそうです。
つまり戦わずして、大洞窟の調査が許されるように、話を通してもらおうと思ってます」
これには、一同驚いた様子を見せた。
後ろにいるロクシーは、既にキャシーから聞いたか、しのぶが説明したのか、何の驚きも見せていない。
取引の内容を聞いたマイクは、やや渋い顔をした。
「それは、コウタ達には好都合だな。
だが、俺たちは、それだと何の利益もないんだが」
そりゃそうだな、マイク達にメリットが無ければ、俺たちに対するボランティアをやってるだけになる。
デーブが臨時パーティに名乗りを上げたのは、一緒に行けば、ヌシを倒してお宝をゲットできるかも知れないとの、彼なりの計算があったからなのだ。
ブッシュはただの好意みたいだが。
マイクの場合は、俺たちに対する好意と、お宝ゲットの計算が混じっているのだろうな。
そう俺は考えていた。
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