第133話 取引の相談

「それについてですが、一定量の青銅と引き換えに、武具や金貨と交換してもらえそうなんです。

 ヌシは鉄類を集める力があるが、青銅は集められない。

 ヌシの使い魔で、メタルスライムというヤツがいるんですが、そいつは鉄類を食べて、強く成長するが、分裂する為には銅と錫が必要になる。

 ヌシは使い魔を増やしたい。

 つまり、この取引はウインウイン、双方にメリットが有ることになります」


 俺の見込み通り、ブッシュが望む答えを返してくれた。

「俺の青銅の大盾か、別にくれてやっても良いが。

 最近、重くて扱いに少し苦労してる所だったからな」


 大盾に対し、特別な愛着が無さそうで良かった。


「そんなもので、武具と金貨が手に入るのか」と、デーブ。

 デーブとマイクは半信半疑はんしんはんぎという感じだった。


「まあ、それだけじゃないのですが」


 俺がそう言うと、マイクは眉間にシワを寄せて難しい顔をした。

「他に何か要求されてるのか、魔素が欲しいから魔法使いを差し出せとか。

 それだけは絶対ダメだからな」


「仲間を売る訳がないでしょ。

 そんなんじゃありませんよ。

 赤いスライムが持っている、赤い輝石が欲しいそうです」


「そんなもん、俺は持ってないし、デーブもブッシュも持ってないと思うぞ」


「ああ、それなら大丈夫です。

 沙織が北のダンジョンで手に入れましたから」

 俺がそう言うと、マイクはまた渋い顔をしている。

 何かまだ引っ掛かるのものがあるのだろうか。


「じゃあ、ヌシとの取引材料は全てこちらの手の内にあるということか。

 話がうますぎるような気がしてならないが」


 なるほど、ベテランハンターのカンが、うまい話に飛び付くことを躊躇ちゅうちょさせていたのか。


「確かに話がうますぎるかもしれませんが、話したことにウソはありません。

 たまたま俺たちが、ヌシの欲しいものを二つとも持っていて、ヌシは俺たちが欲しいものを持っている。

 それに言ってなかったかもしれませんが、ヌシは武具や金貨を集めてる訳ではなく、身体にくっついてしまったものが邪魔だから、洞窟の奥に整理してるだけらしいので、俺たちが持って帰れば、ヌシの部屋もきれいになるってことらしいですよ。

 それからですね、神獣様の存在は秘匿ひとくしておいて下さい」


 マイクは俺の説明に、やっと納得した様子を見せた。

 神獣の存在の秘匿については、デーブとブッシュの二人が気にしていた。


「誰かに話さなきゃいいってことだな。

 それくらいは構わないさ」

 ブッシュがそう言って、デーブを見やると、デーブは、そうだなと相槌あいづちを打った。

 二人の何かそわそわとした様子を見ると、誰かに話したくてうずうずしていたのかも知れない。


 デーブとブッシュに異論は無さそうだが、マイクだけは、まだ話がうますぎると感じているようだ。

 もう一押しか。

「マイクさんが喜びそうなことが一つあります」


「何だ」


「ジャック兄弟を、神獣様が保護してるそうです」


「おお、奴ら生きていたのか、それが本当なら会わせてくれ。

 連れて帰ってもいいのか」


 意外にも、いや意外でもないか、これがマイクの心にクリティカルヒットしたようだ。

 計算高いが、人情には厚いヤツなんだと彼を見直した。


「多分、お願いすれば大丈夫かと」


「どうして、あいつらを保護してくれたんだ」


「ジャック兄弟の内の一人が、神獣様のテレパシーが分かるそうです。

 つまり神獣様とお話ができるので、話し相手として保護したようです」


「そうなのか、あいつらがテレパシーができるとは知らなかったが」


「恐らくテレパシーを受けられるだけで、ジャックたちは普通に言葉を話して、神獣様とお話をしていたのだと思います」


 マイクは少し横を向いて考える様子を見せてから言った。

「あいつらに、考えを読まれたことはないと思うが、そう言えば、やつら跳ねっ返りな所はあるが、やけに気が利くんで気に入っていたが、こっちの気持ちを読んでやがったか」


 ジャック兄弟のことを何か思い出したのか、マイクはにやついた顔を見せている。


「そうかも知れません。

 うちのしのぶも、テレパシーのせいで、いやな思いをしてきたので、能力を隠してましたから、同じかもしれませんよ」


 マイクはすっきりとした表情を取り戻した。

「あと一つ気になることがあるんだが」


 今度はなんだよ、やっぱりマイクをまるめこむ、いや納得させるのは大変だ。


「なんですか」


「どうして、神獣様は俺達にそんなに親切なんだよ」


 この質問に俺は言い淀んだ。

「ええと、それはですね」


 この大して強くもない俺に、神獣様の配偶者が負けたと言えば、折角のシンの神格化が崩れ去る恐れがある。

 しょうがない、ここは小さなウソをつこう。嘘も方便ほうべんてやつだ。


「しのぶが、完全なテレパスなので、言語を介さなくても、自由に会話できることがよほど嬉しかったようで、それで我々に親近感を覚えたようですね」


「なるほどな、じゃあ、取引できるのも、しのぶのお手柄って訳か。

 コウタ、良かったじゃないか、後でしのぶにご褒美でも上げたほうが良いぜ。

 この取引を、神獣様とうまく進めてくれよ。

 ヌシと戦わずにお宝をゲットできるなら、それが一番だからな。

 デーブの考えはどうだ」


「ああ、俺も仲間が殺された訳じゃないから、ヌシは敵討ちとかの対象じゃあない。

 ただヤツからお宝を奪い取って、この前の一戦のお返しにひと泡吹かせてやりたかっただけだ。

 それによ、ヌシも神獣様だと言うなら、やっても勝てる訳がないし、そんな罰当たりなことはできないぜ」


「ブッシュはどうだ」

 マイクはブッシュにも意見を求めた。

 もう既に、一人で、この取引を進めてくれと結論付けた癖に、二人に事後承諾を求めている。

 まるで三人で協議して決めたように。

 リーダーの資質十分だなw


「俺は、これでも平和主義者だぜ」

 ブッシュは決してことを荒らげない。


「ま、そうだな。

 じゃあ俺たちには、取引に反対する理由は何もない。

 コウタたちも安全に大洞窟を探れるなら、こんな良い取引はないだろうぜ」


 マイクがそうまとめてくれた。


「ありがとうございます。

 じゃあ、最終的な話し合いをして来ます」


「おお、うまくやってくれよ」


「はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る