第102話 対策を一人考える

 その日、キャシーはBクラス昇級審査の為に、冒険者ギルドへ向かうことになった。

 見るからに心ウキウキという感じだ。

 この日を首を長くして待ちわびていたのだろう。


 沙織としのぶも、付き添人としてか、見物目的か分からないが、キャシーに同行すると言って宿を一緒に出た。

 イベント好きのパリピかw



 俺は、そんなお気楽な気分になんてなれない。

 できれば明日にも、魔物の森へ出発したいと思って、対ヌシ作戦を練る為に一人、宿に残ることにした。


 まあ下手へたの考え休むに似たり、なんてことわざもあるから、無駄になるのかも知れないが、どうにか足掻あがいてみようと思ったのだ。


 先ずは、こちらの手札を整理しよう。

 俺は、マイスーツに問い掛ける。


『麻酔ニードル弾で、あれよりもっと強力なやつがあるか』


 問い掛けに応じ、マイスーツが応答モードになる。

 ま、そんな準備も必要ないのだが、打てば響くって感じだからな。


『前回使用したものは標準弾ですが、強力弾ではその10倍の効果があります』


 この抑揚よくようの無い話し方が、むしろ俺を安心させる。頼りになる奴だぜ。


『強力弾を使えば、先の戦いのマウントモンスタータランチュラに対しても、即効性があったのか』


『攻撃対象マモタラの、脚を除く本体は、おおまかに言って直径約2M、長径4Mのラグビーボール型(紡錘形ぼうすいけい)と見なすことができます。

 その対象腹部に標準弾5発命中後、効果発現までに30分、対象停止までにさらに30分で合計60分ほど掛かりました。

 同対象に強力弾を5発命中させた場合、効果発現まで3分、対象停止までには6分掛かると予測します』


『では、マモタラとは種類は違うが、ワームタイプの魔物で、直径3M、長さが20Mあるとしたら、強力弾でどんな効果が期待できるか教えてくれ』


『対象マモタラとの単純比較では、体積が約11.25倍と見積もれますが、体重は比重データ不足により不明です。

 肉体を構成する筋肉、骨、内蔵などの比率と仕組み、体組成などを同一と仮定すると、強力弾を5発命中させることで、対象停止まで約68分ですが、体組成や特に血管組織の違いによっては大きな誤差が生じます。

 対象の脳を直撃すれば、即効性が期待できますが、種によっては、脳が複数系統に分かれているものもあります。

 この場合、1系統の脳直撃弾命中によって、バーサク状態になることも考えられます』


(そりゃ、やばいな。

 魔物の森のヌシに対しては、危なくて麻酔ニードル弾など、とても使えたもんじゃないな。

 第一、ヌシの体表面が刀が通らないほど硬いのでは、ニードル弾が刺さるとは思えないしな)


『ブラックウィドウには、粘糸弾、麻酔ニードル弾の他には、どんな銃弾がある?』


『後は普通の銃弾だけです』


『普通銃弾の威力は?』


『地球のヒグマの心臓を直撃すれば、どうにか殺せる程度です』


『さんきゅ』


(全くヌシに対抗できそうにないな)


『4次元ポケット内に、軽火器を数種類用意していますが、対生物向けなら、血液凝固弾を撃てる銃があります。

 厚さ30mmの鉄板を貫通する威力があり、反動は吸収しますので手軽に撃てる特徴があります。

 麻酔よりも即効性で劣りますが、対象を永久停止させることが可能です。

 また、レーザーガンも装備してますが・・・』



 血液凝固攻撃は、シン・ゴジラのヤシオリ作戦に似てるが、麻酔弾より即効性が低いとなると使えないな。

 ヌシを殺すことが目的ではないし。


 レーザーガンという響きに、一時ときめいたが、説明を聞いた限りでは、宇宙空間の長射程攻撃に特長があるが、空気密度の高い地表では銃砲より威力が劣るらしい。

 とすると、沙織のライトセーバーも、ヌシの体表面しか斬れないかもしれないし、あまりアテにできないな、、、


 じゃあ、しのぶの大火球はどうだろうか。

 ヌシを倒した後で、火葬にするならば、時間をかければ消し炭にすることも可能だろうが、マモタラの10倍か20倍の大きさのヌシに対しては、致命傷を与えることはできない気がする。

 ましてや、ヌシは魔法で火球や水球を成形した途端に、魔素をドレインしてくるかも知れないし、デーブの話では魔法使いは集中的に攻撃されるらしい・・・そんな危険にしのぶをさらすわけには行かない。


 マイスーツからは爆弾の説明もあったが、威力があり過ぎて洞窟が崩れる恐れがある。


 俺の考えでは、地球に行ける転移口は見つけにくい所にある筈で、ヌシが隠れている大穴の中が一番怪しい。

 大穴の中で分岐している洞窟・・・



 俺は無い知恵を絞ってさらに考える。


 ヌシを外におびき寄せてから、爆弾を使えば、洞窟にダメージを与える可能性は低いが、、、


 いや、俺は今、ヌシと戦って倒すことばかり考えている。


 当初考えた通り、ヌシとの戦いを避け、隠密行動で大穴を探るか。

 俺が単独行動で大穴に入り、沙織たちには外で待っていてもらう。

 それならば、最悪俺がやられても、沙織としのぶに危害がおよぶ可能性は低い。

 だが、一蓮托生いちれんたくしょうの仲間になった今、その作戦を、沙織としのぶが支持してくれるかどうか、、、


 ならば、いっそ、森の奥へ一人で出発するか、いやいや、俺一人じゃ奥へ辿り着く前に、上級魔物に出会でくわして命からがら逃げ帰るイメージしか湧いてこない、、、


 ここまで考えが進んだ時、俺の部屋のドアをバーンと開け放し、沙織としのぶが乱入して来た。

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