異世界編
第58話 黒い空間
「何を口をぱくぱくしている、しのぶ、さあこちらへおいで」
その場に硬直しているしのぶに、しびれを切らしたように、パーチンは腰を上げて近付いてくる。
その手をしのぶに伸ばし、
「いやあ、離してえー!」
パーチンは、しのぶを、くのいち忍者と疑っていた。
とは言え、所詮は非力な少女と甘く見ていたらしく、その手は簡単に振りほどかれた。
予想外な少女の力に、
俺は、もう我慢できず、パーチンを横から蹴飛ばした。
あらら、勢いよくパーチンは、俺の蹴った方向へ1mほどすっ飛んだ。
それでも加減したつもりだが、補助力すげえw
「何者だ!」
パーチンは、そう叫ぶと、ポケットから小型拳銃を取り出した。
「誰か知らんが、出て来い。
卑怯だぞ、出て来ないなら、この娘を射殺する」
俺は、不可視のまますっと近づき、拳銃を持つ手をひねり上げ、もう片方の手で取り上げた。
俺が取り上げたピストルは、俺の手で握っているだけだが、パーチンには何故か宙に浮いてるように見えたようだ。
「透明人間か!
誰か、誰か、侵入者だ、俺を助けろ!」
パーチンは凄まじい胆力のこもった大声を発した。
とは言え、さきほど自らが閉じた、防火扉みたいなもののせいで、その声は外に届かず、パーチンはうろたえ始める。
『パーン!』
パーチンは素早く
先程の大声よりも大きな音がしたが、それでも外部には響かないようだ。
パーチンは慌てて、その防火扉?に駆け寄ろうとする。
ドアロックへ掛かる寸前、パーチンの手は沙織の手刀で弾き飛ばされる。
もう一つの見えない力の存在に気づき、パーチンは手を抑えながら、何やら考え込んでいる。
どうやら、自分が攻撃したり、逃げようとしなければ、その見えぬ力から攻撃されないことを理解したらしく小型拳銃を投げ捨てた。
「おまえら、西側の光学迷彩技術を使ったスパイだな。
私に対する要求は何だ。
第3の影武者救出が目的か」
俺は、パーチンの質問に対し、声をかなり低音に調節してエコーを掛け、地獄の番人のようなつもりになって答える。色々な調節ができて便利だw
「パーチンよ、おまえは色々やり過ぎた。
お前には天罰より痛い、地獄の罰を与えようぞ。
それがいやなら、とりあえず影武者の所へ案内せよ」
自分でも笑えるほどの、馬鹿っぽいダイコン演技だが、真面目にやれば恐れる者には必ず響く筈だ。
「くだらないことは、もう良い、聞きたくない。
隠している影武者の所へ案内しよう。
お前らが、神とか悪魔を名乗るなら、またここに戻ることもできようが、普通の人間だったら、そこから先は一方通行だぞ。
おまえらこそ、覚悟してついて来い」
さすがに修羅場を何度も潜ってきた悪者だ、見えない相手に対しても肝が
さっきの自分の演技が急に恥ずかしくなったw
「案内してくれ、そこへ」
低音調節のままではあるが、俺は普通の言い方に戻した。
パーチンは、部屋の一番奥へゆっくりと歩く。
俺が先頭で、2番手にしのぶ、最後が沙織の順でついて行く。
奥の壁にたどり着いたパーチンは、その壁に手を押し当て、ふんと右に手のひらを捻った。
すると、何もなかった筈の壁に、人が一人立ったまま通れるほどの、黒っぽい空間が現れた。
「ここが入口だ。
覚悟は良いか、入れば二度と出てこれないぞ」
『どうします、コウタさん』
『どうするのよ、コウタ』
『あたしがついてますよ、コウタくん』
と、隠密通信で、口々に俺への呼びかけがあった。
『行くしかないだろ、パーチンが行ける所なら俺たちだって行ける筈だ』と、答えた俺は、パーチンに続いてその空間に入った。
その時、『待って、これは罠です』というしのぶの声が聞こえた瞬間に、クモミン以外との隠密通信がぷっと切れた。
''''''''''''''''''''' 神の視点 '''''''''''''''''''''''
『どうしよう、姉さん、コウタさんとの連絡が切れた』
黒い空間に入ったパーチンと、コウタの後ろ姿は、ぼっと霞んですぐ見えなくなった。
『行くしかないでしょ、私は行くわ。
しのぶは残って、フライに指示を仰ぎなさい』
『だって、姉さん』
しのぶが止める暇も無く、沙織はしのぶを押し
今度は、しのぶと沙織との通信も切れた。
(私のテレパシーが無いと、コウタさんも姉さんも救えないかも知れない)
しのぶに一時の迷いが消えた。
『私も行くわ』
『しのぶが決めたなら、それで良い。
後はできる限り、こちらに残ってバックアップする。
多少の時間が掛かるかも知れんがな』
フライの声を確認して、しのぶは心を強くして、黒い空間に入って行く。
''''''''''''''''''''' 神の視点 終 '''''''''''''''''''''''
お、通信が一つ復活した。
これは沙織のだな。そう思った瞬間、
『聞こえる? コウタ、私よ』
『うん、聞こえる。
沙織も来たのか、ありがとう。
安心した』
『何よ、そんなに不安だったの』
『まあな』
薄暗い道を、少しだけ先を行くパーチンが振り返る。
「おい、見えないヤツ、ついて来てるか。
少女が居ないようだが、影武者のことを気にしていた割には、びびったようだな。
どうだ、見えない奴よ、そろそろ姿を現したらどうだ」
パーチンが手探りで何かすると、道がそこそこ明るくなった。
バッテリーランプか何かのスイッチを入れたのだろう。壁の両側に互い違いに少しの距離を空けて、明かりが幾つか灯っている。
また一つ、通信が復活した。
しのぶのだ。
『姉さん、コウタさん、後ろ姿が見えてるので、すぐ追いつきます』
『しのぶ、来たのか』
『来ましたよ。これはパーチンの罠かも知れないし、テレパスの私がいないと、二人を助けられないでしょ』
『さすが、我が妹、しのぶね』
「おや、びびって来ないと思ったお嬢さんも来たのか」
すぐ前で振り返ったパーチンが、そう声を発した。
何やら自信を取り戻した感がありありだ。
ひょっとして俺たちが不利な状況なのか、と思ったが、俺の内なるものは、心配するなと告げている、、気がするw
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