第2話 コウタはハエに屈服し受け入れた

 ハエへの殺意と入れ替わるように、こおり付く恐怖におびえて声を呑み込んだ。


抑制よくせいされた声だ。その位なら問題ないよ。椅子に腰掛けて」


 俺は口をぽかんと開けたまま突っ立っていた。


"Have a seat, please. Relax! "


 今度は英語かよ。俺はなんとなく力が抜けて、そのまま着座した。


「あれ、君おもしろいね。英語だと素直に座るなんて」


「あ」


「確か、コウタは英語、苦手の筈だけど」


「なんで、お前がそんなこと知ってるんだよ」

 やばい、、、今、強気に出るのはやばいと思い、すぐに言い直す。

「あ、何故そんなことをご存知なのですか。それに僕の名前まで」


 やばそうな未確認知性体に出くわして思わず下手したでに出た。


 それにしてもハエに呼び捨てにされるなんて、人生最大の屈辱くつじょくだ。


 でもそんな不満はおくびにも出さない。

 ハエに殺されるなんてまっぴらごめんだ。


 何故そんなことを思ったかと言えば、刹那せつなに生まれた俺の殺意の裏返しである。

 敵に殺意をもたれるのはやばすぎる。


「タメで良いよ。

 こちらとしても、日本語の丁寧語ていねいご尊敬語そんけいご謙譲語けんじょうごとか、まだまだ分析完了できてないから、ネイティブのようには話せないんだよね」


「十分に、ネイティブレベルだと僕は思いますけど。ハエさんの名前をよろしければ教えて下さい」


敵対意識てきたいいしき一切いっさい持ってないし、上下関係も不要だ。

 対等な日常語、できれば友人レベルで話したいな、コウタ」


 かしこまった姿勢でハエ様を見ると、虫けらは満足そうな態度を見せた。

 勝手に俺がそう感じただけなのかも知れないが。


「ワタシの名前はフライ。

 ネットネームみたいなものだけど。本名はかなり長いからね。

 一応、失礼のないように申し上げますと…itudatte, dokodatte, nantonaku, stand by you.です」


「ウソつけ、めんどいからフライと呼ばせてもらうよ」


 うさんくさい、ハエの自己紹介に俺は少し気が抜けた。


 ハエは前足をすりすりさせる。


「そうそう、その調子。タメで行こうよ」


 さらに脱力した俺は、その超常的ちょうじょうてき不可思議ふかしぎな存在をあっという間に受け入れてしまった。


 危害を加えられそうな気配は今の所感じられない。


 そうなると今度は、目の前の存在に強い興味が湧いてくる。


「フライはこの前の日曜日にウチにやって来たの?」


「散歩から帰って来たのがその日だね。

 実は先週の水曜日から居候いそうろうを始めて一週間になる。

今日から二週目かな」


「いつ帰るの」


 こんな奴にいつまでも居座いすわられたらストレスが溜まりそうだ。


「それはコウタの協力次第って所かな」

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