第94話 初手柄、奢り酒、ブッシュとの話

 そんな訳で、俺たちは第一階層の突き当りの部屋で、ガーディアンと遭遇したこと、

それが第三階層級の大物、マウントモンスタータランチュラであったこと、そいつを倒したことなどを報告した。


「そ、それは本当なの、キャシー」


 呼び捨てだよ、やはり二人はかなり親しいらしい。

 ともあれ、二人の関係よりも、受付嬢が身を乗り出した時、大きく揺れた巨乳の方に俺は目を奪われた。

 と、同時に、左右から腿裏ももうらにローキックを食らった。


(沙織はともかく、しのぶよ、それは乙女としてはしたないのでは?)


「端なくないです、端ないのはコウタさんですよ」


「お前、人の心を勝手に読むのは禁止事項じゃないのか」


「『それは乙女として』以下、口に出してましたよ」


「私には、『沙織はともかく』という所から聞こえたけど」


 心の声が、音声に変換されていたらしい、、、

(沙織のおっぱいはもう見たけどな)


 沙織から、もう一回ローキックを食らった。

 どうやら、沙織にもテレパシー能力が芽生めばえたらしい、、、

 と、思ったら、俺は心の声を発した時、沙織の胸をガン見していたのだった。


「さっきのは忘れてって言ったよね」

 沙織が、声を抑えて俺に言った。


「う、うん」


「何ですか、さっきのって」と、しのぶ。


「「何でもないから!」」

 沙織と俺はシンクロした。


「変なの」と、しのぶ。


 しのぶが俺の心も、沙織の心も読んでないことが分かった。



「え、これがマモタラの魔石ですの!」


 受付嬢さんが、声を上げたので、周辺の冒険者が振り返った。

 マモタラは、デフォルトで略称らしいw


「これ、いくらになるの」


 沙織が、俺の訊きたいことを訊いてくれた。


「そうですね、金貨10枚は固いと思います」


 おい、おい、あのキングバットの、やや大きい魔石が銀貨2枚で、こっちはいきなり価格高騰だな、おい。


 周囲で視線を向けていた者たちが、受付に集まって来た。


「おいおい、お前さんたち、やるじゃないか」

「ひゅーひゅー、俺たちもあやかりたいものだな」

「おい、話を聞かせてくれよ」


 そんな声とかヤジがたくさん飛んできた。



 結局、俺たち4人は、十数人も集まったそいつらに、ギルド併設の酒場、軽食コーナーへと連れて行かれてしまった。

 冒険者というものは、注目される手柄を立てて、高額報酬を受け取った時は、その場に居合わせた冒険者仲間に酒を振る舞うものだとか、なんとか言われたが、そもそもこいつら仲間でもなんでもないだろ、初対面だし。



 俺は、酒場のカウンターに金貨を一枚出して、注文した。

「この人たちに、お酒を振る舞って欲しい。

 でも、この金額を超えたら、オーダーストップにして」


「へい、承知、毎度あり」

 酒場のあんちゃんは満面の笑みで返事をよこした。


「あと、俺たち酒を飲めないので、お茶を三つ下さい」


「へい、承知、少し待ってな」いい返事だw


「キャシーはお酒飲むんだよな」


「うん、結構飲めるよ」


 この世界の19歳は、とっくに成人しているらしい。



「おい、少年!

 それとお嬢さん方、こっちに来なよ」


 野太のぶとい大きな声で呼びかけられた。

 知らない酔っ払いとか迷惑なんですけど、、、

 恐る恐る振り返ってみると、その声の主はむさい男で、昨日、マイクが紹介してくれた、確か、バカブッシュ、いやバカ力のブッシュさん、Aランク冒険者さんだ。


 Cランクデビューできたのは、マイクとこのブッシュさんの推薦のお陰だから、無下むげにはできないが、彼はマイクから超高値の万能スパイスを、推薦の取引条件で受け取っているから、俺たちは彼に借りはない筈だよな。


 まあ、まるきり初対面の人たちに取り囲まれて、酒のさかなに話を聞かれるよりは、多少でも知っている人のほうがましか。

 俺はお茶を受け取って、ブッシュの元へ向かった。

 どうやら、さっきの人たちは、ただ酒だけが目的らしい。

 俺たちの話はどうでも良いらしく、数人が行ってらっしゃいと手を振ったきり、皆争うようにカウンターに酒の注文を出していた。


「おう、おまえたち、ベナン北のダンジョンの第一階層の奥の部屋に行って来たんだって」


 ブッシュは、そう言いながら、俺に隣の席を勧めた。


「ブッシュさん、昨日はありがとうございました。

 第一階層の奥から、今戻って来た所です」


 俺は、先輩でAクラス冒険者である彼を立てて、丁寧に応対した。


「姉ちゃん達、あっちの奴らは酒が入ると、すぐ若い女の身体を触りたがるから、こっちでゆっくり食事していきなよ。

 あいつらは、俺のそばには寄って来ないからな」


 良い奴だった。

 ブッシュは、沙織やしのぶ、キャシーを気遣って救い出してくれたのだ。


 三人は丁寧にブッシュに頭を下げてから、食事のメニューを相談し始めた。


「コウタは、A定食で良いよね」


 何が出て来るか心配だったが、Aならもっとも定番なんだろうから、安心して良いか。

 俺は、沙織に「おう、まかせる」と二つ返事で承諾した。


「ブッシュさん、今日はお一人なんですか」


「ああ、俺はいつも一人で、Bランクの依頼を引き受けているんだ。

 今日の仕事はもう終わりさ」


 ブッシュは、もう食事は終えたらしく、今は何で出来てるか分からない、肉っぽいつまみで、酒をちびりちびりとやっている。


 カウンターから声が掛かったので、三人が定食を取りに行くため立ち上がる。


「コウタの分は、あたしが持って来てあげるね」と、キャシーが声を掛けて行ったので、サンキュと返す。


「AとかSの依頼は受けないんですか」

 俺は、ブッシュさんに尋ねた。


「ああ、今はそんなものは受けないよ。

 命も、身体も大事だからな。

 本当はCランクの依頼位が丁度良いんだが、ギルドがあまりいい顔しないんでな」


 昇級するのも考えものだと思った。

 ともあれ、今の俺はもう、異世界の冒険をやめて早く地球に帰りたいと思ってる。


「危ない目にあったことがあるんですね」


 ブッシュから危ない話を収集して、沙織達に地球に帰る話を持ちかけようと思った。

 そんな理由があっての質問だった。


「ま、そういうことだ。

 仲間に死なれたことも何回かあるし、もうそんなことはごめんなんだよ、だから、パーティを組まず、比較的安全な依頼を受けてるのさ」


「なるほど、そういうことですか」


「ところで、どうだったベナン北のダンジョンは。

 さっき聞こえてきた話だと、おまえたち4人でガーディアンを倒したのか、それもマモタラだって」


「ええ、ちょっとやばかったんで、もうダンジョンには行きたくないです」


「そりゃそうだろうぜ、あれはA級の魔物だぜ」


「A級だったんですか、どうりで魔石が高い筈だ」


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