第114話 勘違い色男

 そう言うと、ブッシュは、先を行くマイクとデーブの方へ行ってしまった。


 しのぶが、ブッシュが抜けた場所を埋めるように並び、沙織に話しかける。

「姉さん、ブッシュさんはパーチンには、性格も体型も全く似てないと思いますけど」


 そうね、と沙織はしのぶに目を向けて、先を続ける。

「あの二人がとても親子とは思えないよね。 残忍なパーチンと、温厚で人の良いブッシュさんが同じ血を持ってるなんてね」


 しのぶは、体型の違いを具体的に指摘する。

「パーチン大統領は、最近の映像だと少し腹回りが増えてますけど、まだまだ基本的に痩せ型だと思います」


 沙織は、人差し指をあごに当て、少し上を見る。

「対して、ブッシュさんはあの肩と上腕とか、まるで重量挙げとか、ハンマー投げの選手みたいだものね。

 親子だとしても、そこまで体型が変わるのかしら」


 俺は、二人の会話に割り込んでみる。

「パーチンの若い頃は、元KGBのエージェントだけあって、すっきりした体型にあの鋭い目つきが特徴だったが、あの二人は見比べる限り、まるで他人だよな」


 そこで沙織は、何か思いついたように、俺に向き直った。

「でもね、私、パーチンを追い込むプロジェクトに参加を決めた時に、結構写真見たのよ」


 沙織は再び、さっきのように人差し指をあごに当てた。


「うん? 何か二人に共通項でも見つけたのか」


「目の色がね」

 ぽつりと、沙織が返事した。


 しのぶがはっとしたように顔を上げる。

「あ、そうですね、姉さん。

 パーチンは目の色がグリーンでした。

 私、あの日、目の前で対峙たいじしたから、はっきり覚えています。

 そして、ブッシュさんの目の色も珍しいグリーンでした」


 沙織がしのぶの言葉に大きく頷いた。

「そうなのよ。

 こっち来てから、たいていは青色か、灰色の目をした人ばかりで、茶系の人が少しいたくらいなのよね。

 でも、グリーンの目は、ブッシュさんだけだった。

 まあ、ブッシュさんの両親を見たことがないから、決め手にはならないかもしれないけど」


「すると、ブッシュさんの両親の、どちらの目も緑じゃなかったら、やっぱりパーチンの子という線が強いってことになるのか。

 ともあれ、沙織ってすごい観察力あるんだな。

 俺、受付嬢の青い目と、キャシーのひとみが縦長で黄金色こがねいろであることくらいしか気付かなったぜ」


 俺は突然、お尻をつねられた。

 え、どっちだ、まさか、沙織を挟んで遠い方のしのぶか?

「コウタさんは、女の人の顔しか見ないからですよ」

 どうもその口ぶりから、犯人はしのぶだったようだ。

 俺が、しのぶを沙織越しににらんでいると、沙織が俺の視線を遮った。


「そうよ、コウタはそういう所、少し変えたほうが良いよ。

 女の子は自分だけ見てて欲しいという気持ちが少なからずあるんだから」


 しのぶが、いつの間にか、俺の右側に位置を変えている。

 また尻をつねるつもりだろうか。

 俺は右を注意しながら、左の沙織に言い返した。

「それって、沙織だけを見て欲しいってことか」


 沙織はぽっと頬を赤らめる。


「そうは言ってないけど。

 コウタは私の目の色ちゃんと覚えてる?」

 そう言って、沙織は目を隠すように横を向いた。

 すかさず、右からも詰問が投じられた。


「コウタさん、私の目の色も言ってみて下さい」


「何だよ、二人とも、日本人は茶色にきまってるだろ」


「茶色でも色々あるでしょ」と、沙織。


 ここは、少し二人のご機嫌を取っておく必要がある。

 似合わないが、色男が言いそうな、歯の浮くような言葉を吐き出してみるか。

 俺はやろうと思えば、女子高生交際ゲームでけっこうきたえてるんだぜ。

 最も答えはたいてい三択になっているが、数多くゲーム経験を積んできた俺にはセリフのストックが少しばかりあるのさ。

 気障きざったらしいセリフってのは、たいがい選択ミスなんだけどな。


「わかった、わかった。

 沙織の目は明るい茶色で、どこまでも澄んでいるひとみだ。

 髪は艶のある漆黒のストレートヘアで、風にそよぐと思わず見惚みとれるくらい素敵だ。

 しのぶの黒目勝ちの瞳はダークブラウンで、見つめられると吸い込まれるように神秘的だ。

 髪は陽の光のもとではライトグレーに見えるが、室内ではダークグレーで、しのぶにはとても似合ってるショートヘアだ」


 これでどうだと、左右二人の顔を見ると、二人とも固まったように、目をまん丸にして、俺を見て一瞬歩みが止まった。

 俺も歩行速度を合わせてみる。


 一拍置いてから、沙織が言葉を発した。

「驚いた! 何よ、コウタ、そんなお世辞も言えるんだね。

 まるで似合ってないけど」


 しのぶは下を向いて、ぼそりと言う。

「いきなり、そんなに褒めないで下さい」


 しのぶが顔を上げずに歩いている所を見ると、頬を染めているのかもしれない。

 あるいは、ニヤケ顔を見られたくないのか。


「まあ、俺には似合わないことを言ったけど、いつも思ってるってことだよ。

 言わなくても分かって欲しいな」


 こんな歯の浮くようなセリフが、二人にはクリティカルヒットしたらしい。

 少し、気分が良いw


「言われないと分からないから、たまにはそういうこと、また言ってくれても良いのよ」


 もうぉ沙織たん、ツンデレなんだからw


「私も、たまにで良いですから、また褒めてください」

 ああ、少しタイプは違うけど、しのぶもツンデレかよ。

 でも、俺に気障なセリフは身体に悪い。


「もう、しばらくはこんなこと言えないよ」

 少しばかり頭がくらくらしてきた。

 女子耐性レベルは3以上には上がったつもりなんだが、、、


 そんな俺を見て、以前にもそんなことがあったことを二人は思い出したらしい。


「そうでしょうね」

「そうですね」


 余裕を取り戻して二人とも笑っている。

 これでやっと通常モードだなw

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