第115話 二人の狙いと、連携バトル
「何々、三人とも熱いわね」
いつの間にか、後ろをロクシーが歩いていた。
キャシーも一緒だったが、不満そうな顔をしている。
「私はコウタにそんなこと言われたことないんだけど」
俺は振り向いて返事する。
「キャシーとはまだ付き合いが短いからな」
「永く付き合えば言ってくれるの」
もう俺は前を向いているので、どんな顔してキャシーがそんなことを言ってるのか分からない。
「もうすぐみんなと別れるからな、永遠にそんなことを言う機会はなさそうだな」
俺の色男モードはまだ続いてるみたいだ。
ちょっと居心地が悪いのだが、、、
「ひっどぉい」と、キャシー。
「まあまあ、キャシーには年下より、かなり上の人の方が似合ってるよ」
さすが、頼りになるロクシーさん、空気を読んで、空気清浄機のように淀んだ空気を変えてくれます。
「たとえば誰よ」
おもしろそうな話だが、首を捻りながら歩くのはきついから、後は聞こえてくる会話を楽しむだけだなw
「マイクさんなんてどう。
彼、まだ35よ」
マイクは今前方を歩いてるので、自分が話題にされてることを知る由もないな。
「マイクさんは、私なんてどうとも思ってないでしょ」
「それは会う機会が少ないからでしょ。
マイクさんを、うちらのパーティリーダーに誘ってみようか」
「え、それおもしろそうね」
「だったら、私達の実力をマイクさんに見せるしかないわね。
次の魔物が大物だったら、二人で行くわよ」
二人は俺たちを追い越して、先頭に向かって歩行速度を上げた。
次のバトルは、本当にこの二人がやることになりそうだ。
後ろにいた二人の会話を、沙織もしのぶも聞いていたらしい。
「キャシーとマイクさんか、年の差カップルだけど、なんかありそうだね」
沙織が、さも愉快そうにしのぶに話しかける。
「そうよね、二人が付き合ったらおもしろそう」
しのぶも愉快そうだ。
噂話が好きな年頃か、いや違うな、おばさんたちも噂話は大好きだ。
やっぱり、仲の良い友だちの恋バナだから楽しいんだろう。
「ロクシーは誰か好きな人いるのかな」
沙織が俺に問いかけるが、そんなこと知るわけがない。
でも、キャシーに勧めるくらいだから、
「マイクじゃないらしいな」と、答えた。
「そうですね」
しのぶが俺に同意してくれた。
しかしながら、沙織は意外なことを言い出す。
「ロクシーはしっかりしてるから、しっかり者同士でマイクさん辺りが似合ってるかも」
しのぶは
「姉さん、それじゃ三角関係になってしまうんじゃない」
どうやら楽し過ぎて、沙織と自分と俺の関係は忘れているようだ。
「ロクシーはお金持ち狙いじゃないの」と、俺。
俺たちはそうやって、二人をおもしろがっていた。
先の方で何やら、大声が飛び
急ごう!
「オーガよ! それも二頭いるわ」
ロクシーの声だ。
意外とよく通る声を出す。
戦闘時に出す声は普段と全く違う。
「二頭もいるんじゃ、俺たちも手伝った方が良いんじゃないか」
マイクも良く響く声だ。
バトルの時は、声が通らないと連携がうまく行かないから当然だろうが。
「危なくなるまでは、手助けしないで。
ロクシーとのコンビでできるだけやってみるから」
これは、キャシーの声だな。
気合に満ち満ちている。
その内、シャーとか言いそうだ。
「あまり無茶するなよ。
オーガはかなり
マイクがキャシーに声を掛ける。
「だから、マイクさんが私等のバトルを見守っててね」
キャシーがそう返した。
「おう、分かった。
そういうことだってよ、ブッシュもデーブも暫く観戦しててくれ。
どうやら、二人だけで見せ場を作りたいらしいんだ」
声は通るが、そのトーンはかなり落ち着いている。
どうやら手強いと言った割には、二人に任せても大丈夫らしい。
「そういうことなら、楽しませてもらうぜ」
「俺も楽させてもらうな」
これは、デーブとブッシュの声らしい。
俺たちは、どうやらバトルが始まる前に、先頭に追いついたようだ。
俺たち三人も、後方の敵に注意しながら、二人のバトルを見守ることにした。
前方の
遠目にもでかい! あの親子オークの親よりも一段と背が高く、その頭部にはツノが一本生えており、その手には太い棍棒が。
「3M近くありそうね。 体重は300キロくらいかな」
沙織が落ち着いた声を出した。この感じだと、沙織一人であのデカブツに勝てそうな雰囲気だな。
確かにあのオークと比べたら、沙織が言うのに近い体格だろう。
「あ、もう一頭はその左手にいます」
しのぶが指差す方向を見る。
大木の後ろに隠れて、顔の一部を
こっちが気付いてないと思ってるのか、左手前の奴は動かない。
キャシーが左の木に接近している。
その手にはスリングショット。
遠い方のオーガもそろそろ射程内だろう。
スリングショットを構え、やや遠く右のオーガの目を狙ってるらしい。
と、思ったのはどうやら俺だけじゃない。
手前のオーガもキャシーがもう少し近づくのを待っていた。
キャシーの本当の狙いが自分だとは知らずに。
キャシーはさっと狙いを左に変えて、一発必中! 近い方のオーガの左目を潰した。
「グワッ!」
手前のオーガが左目を押さえる。
その機を
だがキャシーのジャンプと同時に、オーガはキャシーの身体を
その反応は素早かったが、どうやら片目を失っていたために、距離感が合わなかったようだ。
キャシーはひらりと身を
確か、キャシーはダンジョンのように狭い所でなければ、どこでもジャンプがうまく使えないようなことを言っていた筈だが、短期間に腕を上げたらしく、この森でもダンジョンと変わらない動きを見せている。
視力を両眼ともほぼ失ったオーガは、右手に持った棍棒を振り回して
殆ど見えない目で、キャシーの影を感じてはそこに棍棒を叩きつけるが、打撃は一向に当たらない。
その寸前に、遠くのオーガもキャシーに向かって突進していた。
ところが!
幾つも
ストーンバレットだ!
巨体に似合わない機敏な動きでオーガは、その石礫群をひらりと躱したが、左右から回り込んで、時間差で斜め後方から向かって来る石礫群には気がつかなかったらしい。
その内の2発が側頭部に命中した。
そのオーガは混乱したように左右を探す。
致命傷にならなかったのか? あの猛烈なストーンバレットが。
一瞬でも動きを止めたことこそ、奴の致命的なミスだった。
ロクシーの大きなファイアボールが2個、時間差で発射されていた。
オーガはあっという間に
そして本命の超速弾が火達磨のオーガの
ロクシーは火達磨が消し炭になる前にウォーターボールを投げつけた。
その必要があっただろうか、俺にはそれが疑問だった。
森を火事にしない為、そういうことだろうか。
さっきのが致命傷とならなかったのは、コントロール重視の変化球だったからで、本命の決め球ストレートは全く軌道が見えない、銃弾に近い速さだった。
よって先に絶命したのは、後方から突進してきたオーガだった。
そして、手前のオーガは、仰向けに転倒した所を、キャシーのスパイクを心臓に食らって絶命した。
暫くすると、キャシーが殺したオーガは魔石になった。心臓を貫いたことで、森に吸収される前に魔石化に成功したらしい。そこそこに大きな魔石だ。
一方、ロクシーが仕留めた方は、調理判定されたらしく、食肉として利用できそうだ。
「そいつをステーキにしようぜ」
マイクが二人にそう声を掛けた。
「ええ、こんなゴリラの化け物を食べるの!」
それを聞いた沙織がそう叫んだ。 見れば手をばたばたとさせている。
「結構いけるぜ、オーガ焼きは」
生姜焼きみたいな響きで言うが、全くの別物だろう。
沙織ににやりと笑ってから、マイクは早速調理に取り掛かった。
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