第116話 それぞれの武器

 昼食には少し早そうだが、朝食が早かったし、かえって丁度良いかも知れない。

 俺たちはマイクとデーブが焼くオーガの肉で、昼食を取ることにした。


 沙織はどうしても、類人猿の肉には抵抗があるらしく、4次元ポケットから携帯食を取り出している。

 しのぶも沙織に付き合って、同じものを食べるらしい。

 しのぶも苦手なんだろうか。

 かく言う俺も、抵抗はあるのだが、マイクに勧められて、パーティリーダーとして獲物の昼食は断れない状況だ。

 同じ釜の飯を食った仲間、そんな言葉もあるしな。

 ここでリーダーみずから連帯感をいではならない。


 携帯食を一口分けてもらったが、鉄缶とは違う、プラスチックに近い素材(短時間で自然分解されるもの)でパッケージされたそれは、ランチョンミートとかスパムとか言われるものと似たようなソーセージだった。

 味も中々行ける。

 日本で売られてるスパムよりずっとうまい。

 三食の内一回がこれだとしても、リピートして食べられそうだ。

 しいて近いものを挙げれば、焼き立て高級ウインナソーセージの味だな。


 で、オーガ焼きだが、こいつはそうだな、味は少し違うが、牛肉クラスのうまさだ。

 特にハラミは脂ののりが良くて、バーベキューの醍醐味も合わさって最高だ。


「美味しいですね、この肉は」

 俺はマイクが切って焼いた肉をあぶって仕上げしているブッシュに話し掛けた。


「だろうさ。

 普通に焼くだけでもうまいんだが、あの万能スパイスを振ったからな」


 冒険者ギルドで、俺たちをCクラススタートするために、マイクが使い掛けの万能スパイスでブッシュを買収して、推薦人の一人になってもらったのだ。

 それをここで使ってくれたのか。


「ああ、あのお高いスパイスですね。

 こんな所で使っちゃって良いんですか」


「こういう所だからこそだぜ。

 ハンター仲間が命を掛けてバトルして、その戦利品を調理するんだ。

 皆で盛り上がるためには、とびきりのスパイスを出し惜しみしちゃいかんだろ」


 やっぱりブッシュさんはお人好しだ。


「全員の分にスパイス使ったんですか。

 だったら、もう使い切っちゃったんじゃないですか」


「まあ、そうだな。

 使えば、どんな高いものでもなくなるさ。

 みんながうまそうに食ってるから、それで十分だ」


「分かりました。

 皆には内緒で、新品で一本差し上げますよ、ブッシュさん」


 俺は四次元ポケットをごそごそやって、最後の一本の万能スパイスを取り出し、ブッシュに押し付ける。


「おい、良いのか。

 マイクはこれ一本を、金貨5枚で売ってきたっていうお宝だぜ」


「在庫がたくさんあれば、皆にも上げたい所ですが、もうこれしか持ち合わせがないので、男気おとこぎを見せてくれたブッシュさんに差し上げます。

 実は、俺の国じゃ、ごく普通の値段で売ってるんですよ」


「おう、じゃあ、ありがたくもらっておくぜ」

 ブッシュはふところの奥深く、それを大事そうにしまった。


 まだまだ重要なバトルを控えているので、ステーキを食べても、誰一人として酒は飲まない。

 そこがプロハンターの矜持きょうじらしい。

 楽しい昼食を終えて、気分新たに、俺たちはまた先を行く。



 女子たちが、ベテランハンターたちの腕前を見たいという話題で盛り上がっていた。

 俺は押されるように、ベテランたちのそばに行く。

「じゃあ、次に魔物が出てきたら、デーブさん、ブッシュさん、マイクの連携で、ベテランAクラスハンターのお手並みを拝見したいもんですね」


 どうやらベテラン組は、始めからそのつもりだったらしい。


 マイクが背中の剣を抜く。

 その刀身が怪しい青色に、ぼんやりと光っている。

「ああ、まかせておけって、このブルーソードも魔物の血を吸いたがっているぜ」


 マイクが剣を納めると、次は俺だと言わんばかりに、デーブが腰の剣を抜いて、高々と掲げた。

「愛用の鉄剣は失ったが、武器屋で大枚叩たいまいはたいて、ミスリルの剣を手に入れたんだ。

 切れ味を試してくれと、この剣が俺に呼び掛けるんだ。

 俺もうずうずしてるぜ」


 見るとその剣は、白銀色はくぎんいろに光っている。

 ミスリルは青だと思っていたが、俺の勘違いか。

 マイクの剣こそミスリル製品だと思っていたが、素材は別物か。

 アダマンタイトかオリハルコンか、それらの色も知らないし、、、


「ワシも、いつもは使わない青銅の大盾おおたてを、コウタのマジックボックスに入れて持ってきてるから、それを使ってみるか。

 ちょっと出してもらえないか」


 あれ、ブッシュは今まで、自分のことを俺と言ってなかったっけ。

 突然ワシとか言ってるが、こっちの呼称の方が似合ってるかなw


『青銅の大盾を出してくれ』

 そう指示すると、4次元ポケットが、どすんと地面スレスレに吐き出したそれは、長径1.5m、短径70cmほどあって、分厚くて頑丈そうな盾で、形は大きな葉っぱを縦に半分に切った感じだ。


 それが2本セットで、葉っぱの形にがっちりと組み合わせることも可能らしい。

 それぞれ、外側に鋭いスパイク何本か装備されているので、ぶつけるだけで防御と攻撃が同時にできるらしいが、この重さを扱えるには相当な怪力が必要だ。

 ブッシュ専用の、攻防一体の武器と言えるだろう。


 ブッシュが軽々と2枚一緒に片手で持ち上げた。

 持ち手がうまくできていて、そんな芸当を可能にしているようだ。


「こんな武器、見たことないですね」

 俺は、その盾を手の平で叩いて、そう言った。


「特注だからな」

 短い返事に、自信が満ち溢れていた。


「どう扱うのか、早く見てみたいわね」

 沙織も感心したように、ブッシュにそう言った。

 ブッシュがにやりとした。

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