第49話 沙織を連れ込む

 俺は大胆にも、沙織の手を引いて、家まで足早あしばやに歩いた。


「こんなに早く歩くんだったら、私、走った方が楽だったんだけど」


 息を整えながら文句をつけた沙織だったが、手をつながれたことは、まんざらでもなさそうだ。


「ああ、そうだな、走った方が良かったかも」


 おもしろい返しができなかった。俺はマジだったのだ。



 何故こんなにも先を急いだのだろうか。

 しのぶがエスパーだという詳細なあかしが欲しかったのだろうか。

 よく分からなかったが、そのテレパシー能力があったとして、何故かしのぶにも、沙織にも、その身に危険が及びそうな予感を覚えたから、というのが正解に近いのかも知れない。



 うむ・・・このことは、確証がある訳ではないのであまり言いたくはないが、俺にも超は付かないが、ある特殊能力があると思っている。

 それについては、これまで誰にも詳しく話したことはないが、

数秒か、数十秒か、数分先の危険を察知することができる、のかも知れないという程度の力が、あるかも知れないし、無いかも知れないのである。



 例を一つ、二つあげてみると、

中学の体育の時間に、実技としてサッカーを指導された時のこと、

相手のゴール間近で、俺は絶好のパスを受けたのだが、

シュートしたボールが、ゴールキーパーの目を直撃して、キーパーが声を上げてうずくまるビジョンが見えた。そして、そのボールが俺と無人のゴール前に転がる所でビジョンが消えた。

 怪我させることを恐れた俺は、力ないキックでシュートミス、それを楽々とキーパーに取られた。

 キーパーはがら空きのスペースに蹴って、ゆうゆうと次のパスが繋がって、ゴールが決まる。俺たちはそのまま負けた。

 もちろん、味方チームの皆からボーンヘッドを指摘されたが、俺は悪い予感がしたから、シュートを決められなかったとは、言えなかった。

 以前にも、ビジョンまでは見えなかったが、似たようなことがあって、負け惜しみするな、潔くないと口々に責められた経験があるからだ。



 こんなこともあった。

 小学5年か6年のことだ。

 教室の引き戸の上に、黒板消しをはさみ、知らずに開けた人の頭に落とす

 そんなイタズラをやった人も多いと思うが、

クラスの数人が仕掛け終わった罠に対して、俺に見えた数秒後のビジョンでは、すぐそこにやって来るのは教師だった。

 これはまずいと思って、ぱっと扉に走り、

引き戸を引いて、黒板消しを無人の床に落としたのだが、

丁度やって来た教師に見咎みとがめられて、職員室で15分ほど説教されたことがある。

 この時は、後でクラスのやつらから、よくやったと口々にめられたのだが、主犯も共犯も決して自首してくれなかった。



 中学の始めの頃、こんなつまらないこともあった。

 帰りの通学路で、その場所を通ると何かが上から落ちてくる気がして、俺は少し手前で立ち止まったのだが、

「急に止まらないでくれる、どいてよきみ

 そんな強い声に道を譲ったのだが、俺の前に出たその女子の頭の上に、カラスのフンが落ちてきた。

 カラスは大きな鳥なので、その直撃量は大きかったし、それは白っぽく目立った。

「さいってい」

 その子は、そう叫んで、俺を振り返ったが、体裁ていさいが悪いと思ったらしく、その場を全力で走り去った。

 俺は、1年ほどの間、その子と会う度に、ずっと睨まれ続けたのだ。

 俺のせいか、自分のせいじゃね、とは言いたくても言わなかった。



 家にたどり付いた俺は、鍵を開けるやいなや、沙織を玄関に連れ込んだ。


「乱暴ね、私をどうするつもりなの」


 沙織は冗談とも、詰問きつもんとも決めかねるセリフを吐いた。


「気になるんだよ。

 早く部屋に来いよ」と、俺。


「エッチなことはしないでよ。まだ心の準備ができてないんだから」と、沙織。


 どうしてこの場でそんなジョークを飛ばすんだ、俺は真剣なのに、、、

 マジゆえに、俺の返事にはユーモアの欠片かけらも無かった。


「絶対しない、エッチなことは絶対しないと約束する」


 言ってから、それが反対の意味に捉えられかねないフラグだと感じて、急に焦ってしまう。

 そして、その前の沙織のセリフすら、逆の意味に取れないこともないが、、、


 ただ、一刻も早く、俺の悪い予感を打ち消すために、しのぶのテレパシーに関する情報が欲しいだけだ。

 決して沙織のくちびるとか肉体がほしい訳ではない!

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