第50話 テレパシーの発現

「さあ、ここなら誰も居ないから大丈夫だ」


  俺は自分の部屋のドアを閉めた。


「誰も居ないから、何をしても大丈夫だと言うの」


 部屋で二人きりになった沙織は、自分の肩を両手で抱きしめて恐怖にすくむポーズを作るが、その目は何かを期待してるようにキラキラしている。


「何だよ、今はそんなエロっぽいジョークはやめてくれよ、俺は今マジなんだから」

 俺は、疲れた声を出した、本当に疲れていたのだ。駅から速歩きしてきたし。


「そうね、私が悪かったわ。

 しのぶが初めてその能力を発揮した時、コウタもその場に居たわ」


 沙織も真剣さを取り戻してそう言ったのだが、俺は自分の耳を疑った。


「え、一体どういうことだ」


「また転校することになったって、コウタが家を訪ねて来た時よ」


「俺が、おまえの家に行ったことがあったっけか」


「うん、それが2回目。

 1回目は、あのワンコ襲撃事件の後、怖がっていた私を送ってくれた時だよ」


 沙織は思い出すように上を見ながら話を続ける。


「玄関に迎えに出た母に、私が何も言えずに震えてたから、母はコウタを睨みつけてたわ。

 あんたは母を怖がりながらも、なんとかワンコ事件を説明してくれた。

 私が頼んで仲村君に家まで送ってもらったのと、やっと言えたわ。

 母は私に怪我がないのを確かめてから、今度はコウタの手足を触って、どこにも傷がないと分かってから、やっと安心した様子で、ありがとうねって、何度もあんたにお礼を言ってたわ」


 頭のどこに力を入れても思い出せない。まあ良いか、大事なのは二度目の方だ。


「へえ、そう言われても、全く何も思い出せないけどな。

 で、二度目は、俺が一人で沙織の家にわざわざ転校を知らせに行ったのか。

 どうして、そんなことしたんだろう。

 学校で言えばよかったのにな」


「最初はね、しのぶちゃん居るかって、

まるでしのぶに会いに来たみたいだったから、奥にしのぶを呼びに行ったのよ」


 へえ、やばいな、その頃の俺。小1の女子に会いに行くとは、、、


「ああ、母さんから聞いたけど、しのぶが俺になついていたって本当か」


「うん、お兄ちゃん、お兄ちゃんて、よくコウタについて回ってたわ。

 あんたも、本当の妹にしたいとか言ってたじゃないの」


 やはり、やばい奴だ、、、


「へえ、そんなこと言うとか、その頃の俺って、かなりの色男だなw」


「今よりずっとねw」


 そう言う沙織は、あの頃の俺が好きなのか、今の俺が好きなのか、どっちなんだ。

 だいぶ違ってきてるだろ、その頃の俺から。


「で、その時にエスパーの能力を発揮したのか、そんなことがあればきっと覚えているだろうに」


「コウタが来てるよと、しのぶを呼びに行ったら、いやだ行かないって駄々をこねたの」


「ほお」

 よく分からないが、合いの手を入れておく。


「何で嫌なのって聞いたら、

 コウタお兄ちゃんは、さようならを言いに来たから、嫌だって言うのよ」


「お前が転校のことを言ったからだろ」


「違うのよ、あんたからそれを聞く前に知ってたのよ」


 それはないない、ありえないと、思いながら俺は言う。


「予知したってことか」


「予知なんかできる訳無いでしょ」と、食い気味に沙織。


「じゃあ、どういうことだよ」

 その場にいなかったなら、テレパシーとは違う気がしたが。


「しのぶは、コウタが来た時から気づいていて、おどろかそうと思って陰に隠れてたんだって。

 引っ越すからさようならを言いに来たって、お兄ちゃんの考えが、頭の中に聞こえたみたいなことを言って泣くのよ。

 あの子まだ小1だったから、聞いてもうまく説明できなかったけど、そんなことを言ってた。

 私は、しのぶがそんなことを言うのにも驚いたけど、

コウタからそんな大事なことを聞いてないから、玄関に急いで戻ったの」


「・・・」俺は沈黙する。


「本当に転校するのって、私からコウタに訊いたでしょ」と、沙織。


「いや、だから全然覚えてないって」


「そしたら、まだ言ってないのになんで分かったんだって、

しのぶちゃんに先に教えてやろうと思ったのにとかコウタが言うから、

しのぶはもう知ってたよって、私は言ったのよ」


「・・・」


 聞いてみれば、なるほど、テレパシーか。しのぶはテレパスなのか、、、


「そうか、じゃあ来る必要なかったか、

先生には、明日皆の前で挨拶しろって言われてるから、

じゃあまたな、しのぶちゃんにもよろしくって、

そう言って、コウタは走って帰って行ったのよ」


 その時のことを、まるで昨日のことのように思い出しているのか、沙織は放心したように言った。


「それだけじゃ、テレパシーの証明にはならないだろ」


 まだ、確信するには材料不足だと思って、そう言った。

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