第51話 テレパシーの証明

「あれが初めてだったけど、その後も学校の友だちとか、先生の考えが頭の中に伝わって来るらしくて、

 みんな、言ってることと、考えてることが違うって、よくこぼしていたわ。

 経験的に、それを言うと良くないと分かったみたいで、外で自分の能力について言ったことは無いらしいけど」


 沙織はかなり真面目な口調でそう言った。


「カンが鋭いのとは違うのか」と、俺。


「父と母に対しては、何度か指摘してたわ。

 本当はこう思ってるんでしょ、分かってるんだからとか口答えしてたけど、

父と母がびっくりして黙り込んだり、叱ったりしたから、その内そういうことは言わなくなった」


「その説明じゃ、カンとテレパシーの違いがまだはっきりしないな」


「私の考えてることを、しのぶが当てることは何度もあったわ。

 ババ抜きとか、カードゲームでは、しのぶに絶対勝てないし。

 具体的な例を上げると、しのぶが知り得ないことを、当てたことがあるわ」


 お、今度はいよいよ確信的な事件に触れるのかと、俺も真剣に耳を傾ける。

 実は、本当のところ、俺は沙織を少しも疑っていなかったのだが、しのぶの能力を具体的に、どの程度のものか知りたかった。

 俺が持つ、強いカンなのか、微弱な予感なのか、分からない程度の力と比べて、

しのぶの力が明確な実践的能力であれば、何かが起こりそうな気がしていた。

 

「どんなことだったんだ、それは」


 俺は胸騒ぎを抑えながら、冷静に問うた。


「私が中2の時、休み時間に教室の中にネコが侵入してきたことがあったのだけれど、それが珍しいヒョウ柄で、しかも人懐ひとなつこいネコで、みんながおもしろがって、教室の後ろに集まってたのよ」


「へえ、俺もネコは好きだから、自分の教室にそんなネコが入って来たら、その集団に加わるだろうな」


「そこに、次の授業をする、普段から厳しいことで有名な先生が入って来て、

後ろの人たち、何騒いでいる、数学の時間だ、早く自分の席に戻れ

と、大きな声を出したの。

 半数はすぐ席に着いたけど、残りの生徒はまだネコに夢中だった」


「そりゃ大変だな、みっちり叱られるパターンか」


「それがさ、その集まりに先生が近づいて行くと、さすがに皆 一斉いっせいに席に戻ったのよ」


「ふうん、それで」


「みんながそこをどくと、近づいた先生に、

ネコちゃんがにゃーんと鳴きながら、先生にすりすりしたものだから、ネコが蹴飛ばされるんじゃないかとひやひやしたわ」


「もったいつけないで、その先を早く」


「そしたら、あの強面こわもての先生が、にゃあん、にゃあんと言いながら、頭を撫で始めたのね、すると、ネコはお腹を見せて愛嬌を振りまいてた。

 ネコちゃんには、その人がやさしいってわかったんだと思うわ。

 このネコは誰のだって先生が訊くから、みんな、口々に突然教室に入って来たんですと答えたの」


「ネコ好きだったんだな、その先生」


「そうでしょうね。

 このネコの種類を知ってる者はいるかと、先生は言ったわ。

 誰も答えられなかった。

 そうか、誰も知らないか、

 この子はベンガルという種類で、お値段は、なんと30万円から50万円と言われている。

 へえ、すごい高〜いって皆が叫んだの。

 先生が、今日の数学は自習にするって言ったから、もっと大きな声でみんな、やったーって叫んだわ。

 きっとこの子の飼い主は、居なくなってパニックを起こしてることだろう。

 私は近所で心当たりがあるから、ちょっと行って来るって、

先生は、そのネコをやさしく抱いて連れて行ってしまったのよ」


「で、近所の飼い主の元に無事戻ったのか」


「自習の終了近くになって、その鏑木かぶらぎ先生がネコの報告に来て、

 思った通りのビンゴだった。

 飼い主さんに泣いて喜ばれたよ。

 明日、みんなにお菓子をくれるらしいけど、これ、他の先生たちには内緒なとか言って、その先生、おっかないどころか、めちゃくちゃ優しくておもしろい人だったの」


 話がそれ掛かってると思い、俺は沙織に先をうながした。


「それは良かったと思うけど、それが、しのぶとどう繋がるんだ」


「帰宅して、そのことを思い出して、ほっこりとしてたら、

 しのぶが、お姉ちゃん、今日教室にネコが遊びに来たんだねって言うのよ」


「お、やっぱりテレパシーか」と、俺。


「それも、ネコの種類と、お値段と、先生の名前まで当てられちゃったのには、びっくりしたわ」


 その身振り手振り、口調でそれが事実であると確信できた。


「お前の思考が細かく伝わったってことか、だったら、しのぶはテレパスで間違い無さそうだな」


「だから、最初からテレパシーだって言ってるでしょ」


 沙織が得意の指差しポーズを作る。

 ひろげた足の長さと、その張りの美しさに一瞬見惚れてしまうぜ。

 その突き出した手に、ハンドマイクを握らせれば、以前やったことのあるリズムダンシングゲーム、スペースチャンネル5の うらら そのものだ。

「踊りで勝負よ! レッツ・ダンス!」

 ニヤけかけた俺だったが、すぐ冷静を取り戻す。


「しのぶは何故、沙織にだけは能力を隠さないんだ」と、俺。


「姉さんは、考えてることを当てても怒らないし、言う事と考えてることがいつも同じだから、姉さんだけは信用してるんだって」と、沙織。


「ふうん、確かに、お前には裏表は無いかも知れないな、単純って言うか」


「単純って言うな、それすっごく気にしてるから。

 もっと考えてから、ものを言えば良かったと、よくやんでるんだから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る