第52話 最後の影武者
「ごめん、単純は取り消すよ。
裏表が無いことが沙織の良いところだしな。
・・・ってことは、さっき言ったことって」
俺は沙織を見てにやつく。
「え、さっき言ったことって、何よ」と、沙織。
「エッチなことはしないでよ、まだ心の準備ができてないからってやつだよ。
心の準備ができ次第、エッチなことをしても良いってことか」
沙織の目を見ながら、そう言ってやった。
「ち、違うわよ、裏表が無くたって、ジョークくらい言えるわよ」
沙織の顔が、また赤くなった。
「そうか、少しだけ残念だな」
俺は、その反応に満足する。
しのぶの告白が、沙織のための演技だったのは残念だが、こいつは本気らしいからなw
「なによ、恥ずかしいこと言わないでよね」
熱くなった顔を、両手を当てて冷やしている。
こんな可愛い女子を、これ以上
「ま、それは置いておいて。
しのぶがエスパーだと聞いて、なんか、いやな予感がするんだよな」
「コウタ、霊感があるの」
沙織が目を輝かせる。
こいつ、超能力とか幽霊が好きなのか、怖くないのか。
「幽霊はまだ見たことがない」
「なんだ、つまんないの」
「でもな、たまに悪い予感が当たるから怖いんだ。
今度もそうじゃないかとね」
たんたんと俺は言った。
「まさか、コウタには予知能力があるの」
沙織は身近にエスパーがいるからか、俺の言う事を否定する考えはないらしい。
予感と予知は全く違うとは思っているが、あの2回のビジョンを伴う予感は、なんだったのかと思うことはある。
だから、あれを否定するつもりで俺は言う。
「そんなものある訳ないだろ。
ただ、単純にカンが人より強いってだけだ」
「予感とカンって同じことなのかな、予知と予感は違うの」
沙織が珍しく、考える様子を見せながら、静かに言った。
「俺のは普通のカンだよ、予知能力なんてある訳がないんだよ。
でも、テレパシーはあってもおかしくないと思うよ」
「それは何故なの」
沙織は俺をじっと見つめる。
その長いまつげと、大きな目で見つめないでくれ。
胸のあたりが、ざわざわしてくるからな。
そんなときめきを隠しながら俺は言う。
「人は言葉でコミュニケーションするが、
集団で狩りをする狼とか、カラスなんかも、鳴き声で意思疎通しているだろ。
テレビ、ラジオ、電話なんかは、電波に情報をのせてやり取りする。
これは俺の単純な考えだけど、電波に情報を載せられるなら、脳波にも情報を伝える機能があると思うんだ。
普通の人ができなくても、中にはその機能をコントロールできる人がいるのかも」
「ああ、そう聞くとありそうな気がしてくるわ」
「しのぶは、脳波に関する送受信能力が、普通の人より格段に強いのかもしれない」
「受信能力はありそうだけど、送信能力については聞いたことないけど」
「しのぶがテレパスで、送信力があったとしても、きっとその力は使わないだろう。
脳に直接話し掛けられたら、誰もが恐怖を感じるだろうからな」
自分だったら、誰からも恐れられ、嫌われる存在には絶対なりたくない。
「あの子、始めの頃は、聞きたくないことが、勝手に聞こえてくるのが嫌でたまらないって言ってたから、それはなんとなく分かるわ。
その内に、その能力をOFFにするやり方を覚えたみたいで、悩み相談を受けることはなくなってたんだけど、
最近、自分の意志で能力を開放することがあって、それが今の私の不安なの」
表情に暗い影が差している。
「何か、切っ掛けになることがあったのかな。
内緒にしてるのに、俺が、しのぶに訊くわけにはいかないけど」
「もし、相談されたら、真面目に聞いてあげてくれる」
「そんなことになったらね」
突然、俺のPCがブツブツピーと音をたてて、ディスプレイにフライが現れた。
本体は、ディスプレイの枠上に居る。
「フライじゃないの、今日のニュースのことで訊きたいことがあるのよ」
沙織は、いつもの感じを取り戻した。
影を見せた沙織もいい感じだったが、こっちの方が見慣れてるから安心だ。
とは言っても、ついこの前までは、このつんつんした感じが苦手だったのだがw
「サオリン、訊きたいこととはなんだね」
フライは、複眼をやや光らせている。
「あのパーチン大統領の、影武者裏切り事件よ、二つもあったじゃない」
沙織は指を二本立てながらそう言った。
「あれは、もちろん日本チームで企画した作戦を実行したものだ」
フライの複眼の光は消えていた。
今度は、俺のiPadのディスプレーが白く光り、次いでハエトリグモがアップになった。
「技術担当の、あたしたちも頑張ったんですけど」
そう主張した、ハエトリの本体、クモミンはタブレットの上枠に鎮座していた。
「クモミンたちが、影武者を副作用無しでハゲにした。
また、影武者を捉えたラシア兵士風のアンドロイドや、車両を用意して無事に逃がした転移空間設定もクモミンらの協力のおかげだ。
あの1回目が21点、2回目では30点満点を獲得して、ヨーロッパチームに大きく勝ち越している。
これも日本チームの結束の結果だ。みんなに感謝する」と、フライ。
「人質に取られていた、影武者の家族たちの救出もうまくやってくれたんだね」と、俺。
「あれは、事前に調査したスパイ3号のお手柄だな」と、フライ。
「3号って、沙織と俺をスパイしてたやつか」と、俺。
「え、何よ、私のスパイって、私、そんなの聞いてないんだけど」
沙織は、例のポーズで、フライを指差した。
おまえに一度は、ウララのコスプレをさせてみたいぜw
俺は沙織に、3号に関する、簡単な
その結果、俺が委員に選ばれて、沙織と和解できたことを教えると、
それなら別に良いわと、すぐに納得したw
「じゃあ、お手柄のスパイ3号には、名付けしてやっても良いかな」と、俺。
「良いだろう」フライ。
「じゃあボンドくんで」俺。
「ジェームズ・ボンドのボンドかね」フライ。
「3号は007みたいにカッコよくないわよ、でも喜びそうね」と、クモミン。
「よし、3号に伝えておく」
そう言ったフライは、大きな複眼を七色に光らせ始めた。
「喜んでばかりはいられないのだ。
協力者、最後の影武者は、裏切りを恐れたパーチンに捕らえられておる。
あやつの人質が、すでに救出されていたことがバレてしまったせいでな」と、フライ。
「影武者3号が、どこに捕らえられてるか分かってるんだよね」と、俺。
「いや、それが、ボンドくんと連携している、スパイ1号にも見つけられなかったようだ」と、フライ。
「それ、まずいじゃないか、折角の協力者なのに、パーチンからひどい尋問を受けてるかも」
「そこで、しのぶが協力してくれることになったのだが、姉の沙織としてはどう思う」
なんかとんでもなく危険な提案が飛び出した!
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