第107話 ヌシ対策会議その1

「このパーティには魔法使いが二人います。

 ヌシの魔法吸収、ドレインについて具体的に教えてもらえますか」


 一応、この8人のパーティのリーダーと目されている俺が、ヌシ対策会議の口火を切った。

 当然ながらこの質問は、三日前にヌシ退治を目的に魔の森の奥へ入り、二日前に敗れて戻って来たデーブに向けてのものだ。

 この中で彼以外に、ヌシと対戦した者は他に居ない。


「俺たちはAクラスハンター6人でパーティを組んでいたが、魔法担当は中盤に置き、前衛3,後衛2の布陣を取ってヌシに向き合った」


「じゃあ、2−1−3のフォーメーションですね」

 俺はつい、サッカーTV観戦時に良く解説される数字を、カッコつけて言ってみた。


「何だ、そりゃ」

 こっちの世界じゃ、分かる訳無かった、、、

 しょうがないから、一応説明してみた。


「僕らの国にはサッカーという、大きな長方形の枠内で、お互い11人ずつのプレイヤーが向き合って、たった一つのボールを蹴り合って、ボールを奪い合って、ボールを相手のゴールに入れて得点を競う競技があるんですが、

後衛、中盤、前衛の順番で人数を割り振って短縮型で布陣を表現するんですよ。

 自陣のゴール前をがっちり守るゴールキーパー一人を除いて、数字を並べて簡潔かんけつに表現します」


「てことは、後衛が一人で、中盤2、前衛3なら、1−2−3てことになるのか。

 ボールを入れられないように、後方の自陣ゴールを守るって発想で、ゴール前から数えるって訳か」


 デーブはその大きな体躯たいくに似合わず、即座に俺の言ったことを理解してくれた。

 サッカーなんて知らないだろうに、すごいな。


「ま、由来ゆらいは知らないんですが、そういうことかも知れません」


「じゃあ、機敏きびんにフォーメーションを変更する時は、リーダーが例えば、2−2−4とか叫べば良いってことだな」


「そうですね」


「まあ、俺たちの基本は、短距離攻撃の剣士、戦士が前衛、

魔法攻撃、治癒を担当するやつが中盤、

遠距離攻撃の弓、石投げ、吹き矢などの使い手が後衛だが、」

 年配のブッシュが基本的な布陣を語ったが、すぐその後をデーブがつないだ。


「あの魔物の森では、岩山前の広場に出たら、森を背後に陣取るから、後方からの上級魔物に備えるために、後方にガード力のある戦士を配置するってこともあるな」


 マイクがそれに付け足す。

「状況に応じて、後方が手薄になれば、前衛から後衛に一人回すとか、随時変更が必要だろう。

 その場合、前衛から後衛に誰が回るか、リーダーが指名するよりは、前衛班の判断で、誰を下げるか決めた方が早いんじゃねえかな」


「それなら、リーダーはフォーメーションの変更を、数字を叫ぶだけで機動的に変更できるな」

 デーブがそう言って、フォーメーション問題を締めた。



「では、フォーメーションについては、そのやり方にしましょう。

 ええ、それで、ヌシのドレインの効果が及ぶ距離はどのくらいでした」


 これが俺が最初に確認したかったことだ。

 しのぶが戦闘に参加する場合、安全を確保しながら戦える距離を明確にしておきたい。


「そうだな、ざっと5mか6mだろう」

 デーブが即答した。


「では、魔法担当は、ヌシと対決になった場合、それ以上の距離を常に確保して下さい。

 それ以上遠くからでも、魔法攻撃できますか」

 俺はロクシーに目を向けた。


 ロクシーは自信たっぷりに答える。

「土魔法のストーンバレットなら、10m先の相手は余裕で連続攻撃できるわ」


 おお、何だか、魔王を粉砕した、ルー◯ウスのストーンキャノンを思い出すなw


「しのぶはどうかな、まだ土魔法は練習してないんだっけ」

 しのぶに目を向けてから、俺はロクシーに視線を移す。

 ロクシーは俺の意図に気づき、ウインクを返してよこした。


「土魔法も、回復魔法もまだ練習したことはないです」

 いかにも自信なさ気な喋り方だ。

 もっといつものようにジト目を使って、弱みを見せないで欲しい。


「それじゃあ、会議の後で、ロクシー先生から教わって下さい」


 俺がそう言うと、デーブと、ブッシュから否定的な言葉が出た。


「おいおい、そんな付け焼き刃で役に立つのかよ」

「十分な準備無しに良い戦いはできねえぜ」


 まあ、普通はそうなんだが、と思いつつ、ロクシーに目をやる。

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