第106話 ヌシ対策会議の前に

 パーティのメンバーが一挙に増えたので、ここで一度、俺たち「魔物の森大洞窟探検隊」チームのメンバーを整理しておこう。


 当初のメンバー3名、俺=コウタ、沙織、しのぶ。

 いずれもこの異世界のCクラスハンターで、デーブ、ブッシュにはまだ話してないが、俺たちは特殊武器と、特殊スーツという、この世界において神級しんきゅうの魔道具と言っても良い、強力な武器と防具を持っている。


 俺たちの目的は、地球に帰るための転移口を探すために大洞窟の中を探ることで、見つかればそこから地球に帰ることが最終目標だ。


 次は俺たちに加わった、新たなメンバーを加入順で挙げてみる。


 デーブ・・・彼はAクラスハンター6名でパーティを組んで、ヌシを狩りに行ったが、歯が立たず、武具と金を取り上げられ逃げ帰った。

 彼の加入目的は、大洞窟のどこかに溜め込まれた武具、金品を手に入れることと、強敵との再戦だ。

 ヌシとの戦いの経験があり、俺たちにとっても欠かせない情報を持つ一員だ。


 キャシー・・・Bクラスに昇格したばかりのハンター。

 戦友として、命懸けの仕事をパーティメンバーとしてサポートしたい、というのが、彼女の参加理由だ。

 その思いは本当にありがたいし、沙織、しのぶ、俺との連携は既に出来上がっている。


 ブッシュ・・・引退生活をまかなえるお宝が目的、年齡50歳のベテランハンターで、その経験は捨て難い。

 Aクラスハンターで力持ち。


 ロクシー・・・キャシーとの友情、しのぶの師匠としてのサポートなどが理由か、あるいは、スリルと名声を求めているのかも。

 天才魔法使いで、Bクラスハンター。


 マイク・・・この世界で初めて会った人で、魔物の森を出るために共闘した、A級ハンター。

 気心は知れているし、状況判断、商才にもけている。

 彼の参加目的は、友情か、金銭か、あるいは両方か。


 以上、合計5名が俺たち3人に加わって、総勢8人の臨時パーティが出来上がった。



 次に隊名が「魔物の森大洞窟探検隊」になった経緯いきさつについて触れておこう。


 隊名については一時、ヌシをやっつけたい血の気の多いメンバーが主張する、「魔物の森のヌシ討伐隊とうばつたい」が優勢だった。

 俺たち3人はヌシとの対決を避けて、安全に元の世界に戻りたかったので、対決を目的とするような隊名には断固反対だ。

 まあ沙織は血の気が多いので、少しはヌシとやり合いたいのかも知れないが。

 最後に俺は、リーダー権限を使って、その隊名を、趣旨、目的を取り違えているとして廃案としたが、いきなり最後の手段を使えばチームワークに響くと思い、途中までは極力穏便に事を運んだ。


「大体、討伐とうばつとか征伐せいばつとかいうのは、反逆者を攻めつという意味ですよね。

 ヌシがあの森を出て、人の世界に害を与えた事実があるんですか?

 あるなら、誰か事例を示して下さい」


 俺はそう言って、ぐるりとみんなを見渡した。


「「「そんなことは聞いたことがないな」」」

 マイク、デーブ、ブッシュのAクラスハンターが、口々にそう返した。

 ハンターとして、三人に継ぐ経験を持っているロクシー、彼女は黙っていたので、どう思ったのかは分からない。


「では、討伐と征伐は使わない方向で考えましょう」

 俺はそう主張した。


「討伐がおかしいなら、制圧隊にするか」

 マイクがそう言った。


 これもヌシとの対決が主目的になってしまう。


「デーブさん、ヌシを制圧できると思いますか」

 俺はヌシに負けたデーブに意見を求めた。


「ううん、あいつをやっつけたいとは思うが、制圧とかは無理かもしれねえな。

 あいつを大洞窟から追い出せりゃ良いんだ、俺は。

 じゃあ追放隊ではどうだ」と、デーブ。


 身体がでかいだけに、意見する時の押し出しも効く。


「一時的に大穴から誘い出すことはできても、やっつけられないなら、また戻って来るんじゃないですか。

 一時的追放隊なんてのは、カッコ悪いんで、絶対無しですよ」


 意外なことに、ロクシーからそんな意見が出た。

 その落ち着きぶりで、ぴしゃりと言われれば、相手は引っ込みそうだ。


「それはめちゃカッコ悪いわね」と、沙織。


 いいタイミングだ。

 こんなことを言われた方は、ダメ押しのパンチを食らって、引っ込まざるをえないだろう。


「ですね」と、しのぶ。

 これでその意見はKOだなw


「最悪なネーミングですよ、それは」


 おいおい、キャシー、戦意喪失してダウンした奴にパンチを見舞うな、やり過ぎだw


「それは俺がつけた名前じゃねえぜ、そうだろ、なんだよ」

 デーブが逃げに入ったw


 マイクが次の意見を出す。

「チャレンジャーズならどうだ」


 ベテランのブッシュがマイクに同意する。

「確かに勝てないとしても挑戦する訳だから、それも良いかな」


 最悪なネーミングと言われた、デーブがチャチャを入れる。

「名前なんて、どうでもいいんじゃないか」


 ロクシーが、チャチャをいなす。

「どうしても名前を付けるなら、目的を必達する意思表明としての隊名が良いのではないですかね」


「チャレンジャーズは、負けた時のやるだけやったぜっていう、言い訳を想定しているような気がします」と、しのぶ。


 これで、大体地均しじならしはできたな。

 これをチャンスと見て、俺は皆を見廻してから右手に二本指を立てた。

 みんなが俺に注目する。


「このパーティの目的は二つです」


「二つって何よ」

 沙織の反応は、俺が注目させたい目的に沿っている。


「一つ目は、俺達3名が元の世界に戻る転移口を見つけることです」


 すかさず、マイクが合いの手を入れてくれた。

「そうだな。

 そして2つ目は、」


 これには、デーブが食いついた。

「大洞窟のお宝、すなわちヌシが集めた、俺たちハンターの武具と金だな」


 俺はこれを潮時しおどきと見て、それまでに出たいくつかの隊名を却下きゃっかする。


「では、リーダー権限で、ヌシとの対決をイメージするだけで、本来の目的を表現してない、討伐隊、制圧隊、チャレンジャーズなどは却下させてもらいますが、良いですか」


「ああ、それに異存いぞんはねえ」

 デーブがそう言って、マイクとブッシュを見ると、二人共あごを引いた。

 同意したということだろう。

 続いてマイクは俺に振る。


「コウタには何か良い案はないのか」


「俺の案を言う前に、沙織としのぶには何かアイデアがあるかい」

 俺は人の意見を良く聞くリーダーを自己演出した。


「魔物の森大洞窟探検隊で良いんじゃない」


 ナイス! これは出来レースだw


「ああ、それなら、二つの目的を含んでますね。合理的だと思います」と、しのぶ。


「私はそれに賛成するわ」

 ロクシーの短い言葉には、何かミステリアスな力がある。


 すったもんだの末、隊名は用意しておいた落とし所に収まった。


 血の気の多い冒険者相手に、最初から探検隊と言っても、なんだよ、そんなのつまらないとか言われそうで、結構気を使ったのだ。


 これでようやく実質的な会議に入れそうだ。

 ヌシとの戦いを避けるため、あるいはやむをえず戦いになった時に備え、ヌシの特長、攻撃力、弱点探しなどを話し合うことにした。

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