第105話 仲間の集結

 俺のすぐそばで大声が響いた。他のハンターが皆振り向くほどに。

 声の主は、バカブッシュさんだ。

 あ、短縮しちゃいけないんだったな。

 マイクがそう言って、ブッシュさんに注意されていたことを思い出す。


「おう、天才魔法使いのロクシーじゃねえか。

 どうした、服屋がつぶれて、ハンターに逆戻りか」


「そんなことありません。

 絶好調過ぎて、とついでいる姉が店を拡張するなら、店長に雇ってくれって言って来たので、それなら私は冒険者に戻ろうかなと思ってます」


 ロクシーは、周囲を気にする素振りも見せず、そこそこ大きな声で答えながら、接近して来る。

 どうやらロクシーは、冒険者ギルドに出入りするハンターの間では有名らしく、注目されることにも慣れているようだ。


「え、それ本当なの!」

 歓喜の声を上げたのは、当然キャシーだった。

 ロクシーが俺たちの所までやって来た。


「本当よ、でもあんた、ちゃんと約束通り、軌道に乗るまで暫くは店手伝いなさいよ」


「それは良いけど、今すぐ復帰しないなら、なんでそんな格好してるの」


「明日の冒険に参加したいなと思ってね。

 どうかしら、コウタ君、沙織ちゃん、しのぶちゃん」


 驚いた! また一人心強い味方が現れた。


「良いんですか、かなり危険なんですよ」

 俺は、危険とは言いつつ、既に受け入れ表明していた。


「冒険者は危険なことが好きなのよ」

 ロクシーは、そう言って、しのぶ、沙織へと目を向ける。


「いいわね、ロクシーの魔法戦闘も見てみたいわ。

 しのぶ、お師匠さんに負けないで」

 沙織はブッシュの時とは全く違って、参加大歓迎の様子だ。

 しのぶまでき付けて。


「姉さん、私はロクシーさんと張り合うつもりなんてありませんよ。

 パーティに参加してくれるなら、魔法で共闘します」

 しのぶも嬉しそうだ。

 ロクシーの登場で、明日への緊張感が解きほぐされたのかもしれないな。


「じゃあ、みんな同じ気持ちみたいだから、俺からも参加をお願いします」

 俺は正式にロクシーに、パーティへの参加を依頼した。


「はい、よろしくお願いします」

 自信たっぷりに、ロクシーが答えた。


 いよいよにぎやかになって来たと思ったら、またギルドの入口から、一人見知った男がやって来た。

 背中には、特徴的な青い光を放つ剣を担いでいる。


 しのぶが手を振っている。

 しのぶは、あの洞窟の前で、あの男と外国語教本の絵本を使って、あれこれと会話を試みて、この国の言語を特殊スーツに解析させたことがある。


 長く離れていた訳じゃないのに、何故か懐かしい。

 この場に合流した男は、

「よう」「よう」と、しのぶと沙織に気軽な挨拶を交わした。

 この男と、一番長く会話したのは、間違いなくしのぶだろう。


「あれあれ、マイクまでやって来た。

 マイク、3日ぶりですね」

 俺は嬉しくて、魔物の森の戦友に右手を出した。

 マイクはその手を強く握ってくれた。


「少し見ない内に、みんなたくましくなったな」


「俺の国のことわざに、『男子三日会わざれば、刮目かつもくして見よ』というのがあります。

 三日経てば、急成長することもあるんですよ」


「コウタ、お前だけじゃなく、女子達も急成長したみたいだけどな」


 沙織もしのぶも、マイクの元から離れない。

 やはり共に戦った友は違うのだろう。

 でも、しのぶには、ゴブリン斬り捨ての一件でわだかまりは無いのだろうか。


 もちろん、キャシーとも、戦友という意味で友情を深めたのだろう。


「ジャック兄弟の身内には、事故の説明と見舞いには行ったんですか」


「ああ、まず見舞金を作ろうと思ってな。

 あの万能スパイスの買い手を探してたんだが、貴族とツテのある商人を運良く見つけることができて、長い交渉の末、金貨で5枚になった」


「スパイス一本が金貨5枚ですか!

 そらまた、高く売れましたね」


「おうよ、だから、ジャック兄弟の親御さんには、金貨2枚の見舞金を持って行ってやることができたんだ」

 俺は、大金を見舞金にして、誇らしげにしているマイクを見て不思議だった。

 折角高く売れたのに、代金の40%だけなの?


「残り3枚はどうしたんです」


「それは企業努力をした俺の取り分よ」

 マイクは堂々としている。

 あれ、俺の考え方の方が間違っていたのか、、、


「しっかりしてますね、少しがっかりしました」


「当然の分け前だと思うぞ。

 あいつらは魔物を殆ど倒してないんだからな。

 本当なら見舞金は無くたっていいんだ」


「まあ、そうなんですかね」


 この35歳のAクラスハンターは、商才もあるらしい。

 言ってみれば、頼りになる人だ。

 そのマイクが俺の目をマジな目で見つめ、こう言った。


「話は聞いたぜ。

 明日のヌシ討伐、俺も参加させてくれ」

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