第74話 魔法習得

「パーティの中の、皆さんの役割を教えてもらえますか」と、キャシー。


「キャシーは何歳だ」と、俺。


「私は19歳です」


 この世界の一日は時計からするとほぼ24時間と見て間違いない。1年が365日かどうかはまだ分からないが、とりあえず、、、


「じゃあ俺たちより年上だし、もうお客という立場じゃなくて対等なんだから、タメでいいよ。

 で、さっきの質問だけど、ポジションってことなら、今は俺が前衛、しのぶが中衛、沙織が後衛だが、場合によっては前衛と後衛は入れ替える」


 沙織もしのぶも、キャシーに目を合わせ肯定する。


「フォーメーションは分かったけど、得意な攻撃方法、剣士とか魔法とかでは、どうなってるの」


 キャシーは、早速タメの言葉使いをしてきた。


「沙織が剣士、しのぶは電撃・雷系の魔法使いで、俺は飛び道具でガンを使う。

 長距離戦も近距離戦も得意な、弓引きとナイフ使いみたいなもんかな」


「バランスが良いね。

 でも、雷属性に耐性がある魔物もいるから、もう一人魔法使いがいると良いかも」


「魔法はやっぱりあるのね」と、しのぶ。


「あら、しのぶは雷属性の魔法使いだって、コウタが言ったよね」と、キャシー。


「ああ、まあ、そうだな。

 で、他にどんな属性魔法があるのかな」と、俺。


「土、火、水、風なんかがありますね」


「色々な魔法を見てみたいわね」と、沙織。


「私も、火、水、風とか使ってみたい」と、しのぶ。


「しのぶは、欲張りさんですね。

 さっきの耳と尾の触り方だと、多分魔素の流れをコントロールする素質も優れていそうなので、勉強すれば、他の属性も人より早く習得できると思います」


 触り方と魔素のコントロールに繋がりがあるって本当かよ。

 そこは全く信じられなかった。


「魔法を教えてくれる人はいるの」


 目の色からすると、しのぶは、魔法習得に意欲満々と見えるw


「さっきの服屋のカリスマ店員、ロクシーちゃんが、4属性の使い手よ。

 ロクシーが実家の手伝いに専念するために、引退しちゃったので、私たちのパーティが解散になってしまったの。

 ロクシーは元Bランク冒険者よ」


「その人に指導を頼もうよ」と、沙織。


「うん、大丈夫だと思う。

 ただ、お金にはうるさい子なんで、授業料は取られると思うよ」


「あの子、沙織の服にえらい興味持ってたよな」


 着替えが終わった後、沙織に断ってから、ロクシーは制服を手にとって詳細に検分していた。

 ジャケットの裏地、肩の作り、襟の裏地、スカートのプリーツなど。

 特に、スカートの裏地が、裾を縫い合わせずに自由に動くのには、感心しきりだった。

 スカートを振ってみて、その裏地があることで、スカートの優美な形を保つ構造に夢中になっていた。


「金貨3枚出しても良いから、是非とも自分に売って欲しいって言ってたわ」


「じゃあ、それが取引材料でいけそうだな」


「行ける、いける、きっとすぐいっちゃうニャン」


 俺は女子が発する、いっちゃうという言葉を今初めて生で聞いた。


 俺たちは、今買い物してきたばかりの服屋に逆戻りして、ロクシーと交渉してみたが、制服と引き換えに、魔法の教授という話はトントン拍子に進んだ。


 沙織は、学校の制服は、もし地球に戻れたらまた買えば良いし、予備もあると言っていた。


 この異世界から、元の世界に戻れないことも覚悟しているのだろうか。

 そんなことは無い筈だ。

 俺が、沙織の不安を払拭してやらなければいけないな。


「お母さん、私出てくるから、今日は一人で頑張ってね」


 ロクシーは、町中で魔法の練習するのは無理だと言って、俺たちを城外に連れ出した。


 しばらく歩き到着した所は、木々に囲まれた大きな草原だった。

 その真ん中には巨木が1本そそり立っっていて、それを囲むようにそこそこ大きな木が数本生えている。

 ここなら思い切り火力の強い魔法をぶっ放せそうだ。


「では、まず火属性の魔法でコツを教えるわ」


 ロクシーはなにやら説明しながら、しのぶの腹に手を当て、そこから胸へ、肩へと撫でていく。

 肩から腕、最後は手の先へと撫でながら、説明を続けていた。

 しのぶは、最初はくすぐったそうにしていたが、ロクシーの説明に一々頷き、真剣な顔つきで教授されている。

 そして、手の先まで来た所で、ロクシーに質問を投げ掛けた。


「詠唱は必要ないのですか」


「あれはね、魔素の収集、属性変換、圧縮、発動の流れを、詠唱に体内リズムを合わせることで、才能が小さな人でもコントロールできるようにする手段に過ぎないわ。

 大きな才能がある人なら、魔素の流れを数回体験すれば自然に習得できるし、威力の強い魔法を使う場合、詠唱はじゃまにしかならないの」


 ずいぶん簡単そうに言うが、どのくらいの修練が必要なんだろうか。

 悠長ゆうちょうにやっている時間はないから、ダメなら魔法は諦めよう、いやしのぶに諦めさせようと俺は決意した。


 ところが、ロクシーがファイアボールの生成をして見せ、同時に身体の内部のどこに何かを感じろ、とか言い出して、やってみますとしのぶが答えて、やってみたら、なんと一発で、ロクシーの半分ほどのファイアボール生成に成功した。

 しのぶの手の平の上に、火の玉が浮かんでいる。

 熱くないのか、、、


「手の平の上にできたファイアボールを、そっと掴んでみて、ほらできた、今度はそれを遠くへ放るイメージで」


 たったそれだけの指導で、生成したファイアボールを、目標近くに投げつけることに成功した。


「しのぶ、あんた、すごい才能ね。

 あんた、ひょっとしてあの伝説のエスパーの子孫かなにかじゃないの」


 ロクシーは、内部を透し見るようにしのぶに正対した。


「伝説のエスパーって、なになに?」


 沙織がそれに食いついた。

 他方で、しのぶは何かを隠すように緊張している。

 とは言え、その話にしのぶが興味をそそられているのは間違いなさそうだ。


「100年ほど前、王国の首都に居たのよ。

 神撃魔法も含め、全属性の魔法を自由自在に扱うばかりか、人の心まで読むことができたって噂される賢者スマットって人が。

 今じゃ、単なる伝説だと言う人もいるけど、実在していたというのが定説よ」


 自分の教えが良いからと、調子に乗るタイプじゃないらしい。

 他人ひとの才能を、素直に認められるだけですごいと思う。


 2回目の実技では、しのぶのファイアボールはロクシーと同じ大きさになって、目標の木に的中させると木は燃え上がり消し炭になった。


 次は水属性、ウォーターボールも2回目で習得。


 風と土は、ロクシーが手本を示しただけで、後は自分でイメージしろ、という言葉で終了した。

 自分でやった方が、きっと大きな魔法を使えるだろうという判断らしい。

 土魔法はさらっとやったせいか、生成したアースボールはかなり小さかったが、しのぶ自身があまり土属性に興味がなかったせいだろう。


「風魔法やってみていい」

「思い切りやってみなよ」


 ロクシーの許可が出たので、必要もないのに、しのぶはあの特殊警棒みたいなロッドを手にした。

 何事も形は大事だな。

 しのぶはロッドを天を指すように構え、それで渦を作るように回し始める。

 すると、なにもなかった上空に雲が湧き出した。

 ロッドは、大きくゆっくりと回される。呼応して雲はどんどん成長しながら、同時に渦を巻き始める。さらにロッドを強くぐいんと回すと、竜巻が発生した。

 しのぶはその竜巻を指し示し、ぐるっと回すと、竜巻は生き物のように下に伸びた尻尾を振った。

 草原の中央近くに辺りを睥睨へいげいするかのようにそびえ立っていた、周囲10Mほどもありそうな大木に向けて、しのぶはロッドの先をそこだと指し示すように振りおろした。

 すると、すでに大きく成長していた竜巻は大木に向かい、その暴風は大きく広げた枝葉をことごとく引きちぎり、必死に耐える大木の幹を遂には二つに切り裂いて、粉々になった木片を周囲に撒き散らしてから、何も無かったように飛散した。


「あ、私ダメ、完全に自信喪失した。

 家業に本当に専念するわ」


 ロクシーはキャシーにだけ聞こえるように、そう漏らしたが、俺にはちゃんと聞こえているぜ。


 とんでもない奴だ。

 しのぶは、4属性の魔法をたった1時間の練習で習得したばかりか、思い切りやった風魔法は、ロクシー師匠の心まで打ち砕いたようだ。


 後でキャシーから聞いた話では、ロクシーは耳と尾の撫で方がめちゃうまいらしい。

 しのぶの才能を見抜いたのは、そのせいかw

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