第75話 この国の男女関係
疲れた、かなり。
宿で皆で夕食を取った後は、ゆっくり休養しよう。
フロに入れないのは残念だが、まず湯をもらって身体を拭くか。
スーツを脱いで、お湯とタオルで身体を拭いてすっきりしたので、昨日と今日で、やったことを一旦整理しておこう。
昨日は、学校から沙織と一緒に自宅に帰り、
フライ指導による、危険回避の予感力開発訓練をしてから、
パーチンの最後の影武者救出の為、午後6時半頃自宅から転移して、モスクワ近郊の特別地下施設へ侵入した。
それが現地時間でお昼の午後0時半頃か。
パーチンから、影武者の隠し場所を聞き出すことに成功したが、そこが異世界への転移口の先だと分かった。しかもパーチンには逃げられた。
突き当りの狭い穴から出てみたら、魔物の森の最奥部だった。
翼竜タイタンと戦い、1時間ほどたったら、異世界はもう夕方になっていた。
そこから寝ないで、途中ではゴブリンたちとの戦闘になり、夜通し歩いて明け方に森を抜けた。
マイクに町まで案内され、朝食をとってから冒険者ギルドに寄り、冒険者登録をすませた。
宿屋を決めて、そこの従業員キャシーと出会い、服屋に行って現地服を調達し、魔法使いのロクシーと取引して、しのぶが魔法の指導を受けた。
目が回るほど忙しすぎて、今まで大きい方のトイレには、1回も行ってないことに気がついた。
小の用足なら、マイスーツの前ファスナーを開けるだけですませられるが、スーツの上にズボンを着用している場合、大はそんな訳にはいかない。
俺はマイスーツを再着用する前に、大を済ますためにトイレに行った。
ちなみに、この特殊スーツは全裸の状態で着用するのだ。
もちろん中が透けることはない。
マイスーツを着用しながら、沙織やしのぶたちは、トイレはどうしていたんだろうと、俺は知らず知らず呟いていた。
『疑問にお答えします。
女性向けには、エターナルの高精度なバルーンカテーテル方式で、排泄物はスーツ内のろ過装置を通してから水分除去を行い、僅かな残留物を閉じ込めた、ごく小さな自然分解プラスチックゴミとして自動排出します。
一般活動にはなんら支障もなく、痛みなどの副作用もない、優れたエターナル技術があなたを支えています。
しかもカテーテルの着脱は、フルオートで安心です。
男性向けにも同様のシステムがありますが、カテーテル着脱時に多少の傷みを伴う場合があります。
それを承服した上でご使用されますか』
『いらんわ』
俺は吐き捨てるように、特殊スーツに返答したが、色々便利な機能が満載されていることに改めて感心した。
それに着用し直してから、ファスナーをよく調べてみると、前ファスナーと思っていたものは、尻の後ろまで繋がっていて、全部開けば、尻を丸出しにすることができる構造だった。
マイスーツを脱がなくても、ズボンとパンツをおろした状態で、スーツの下腹部臀部ファスナーを全開すれば、大の用足も問題なさそうだ。
そこまで考えてから、アンダーパンツは元々はく必要がない、ということにも今になって気がついた。
女のスカートだったら、ショーツをはかなければ、同じように簡単だろうとも思ったw
特殊スーツは、それ自体洗浄機能があるらしいし、実に便利だ。
その後、数回ファスナーを開閉する機会があったが、
ある時『オートファスナーモードを使用しますか』という音声が聞こえて、説明を求めると、
ファスナーの開け閉めも、その範囲もオートでできることが分かった。
それが分かった時は、それまでのことを考えてどっと疲れが出た。
もちろん、エターナル製のファスナーが、チンチロ毛を噛んでしまうなどという事故は、間違っても起こらないようだ。
あれは痛いからなあ、、、
俺たちは、夕食の準備で女将さんが忙しくなる前に、キャシーのことで許しを得るため、全員揃って女将さんの元へ行き、これまでの事情を説明した。
キャシーをパーティメンバーに入れることも、女将さんの前で明言した。
「ああ、もちろんいいさ、キャシー。
元々、次のパーティが決まるまでの約束だ、おまえさんの好きにしな。
また冒険者ができるようになって良かったね」
女将さんは気持ちよく、バイトを辞める申し出を承諾してくれた。
「ありがとう、ブラウニーさん。
暇な時は、またお手伝いに来るので、よろしくね。
今夜の夕食の準備と、片付けまでは責任持ってきちんとやるから、明日の朝食からは、普通の泊まり客として改めてお願いします」
キャシーは女将さんに、深々と
「ああ、無理せず、命は大事にするんだよ。
あんたがたも頼むよ、あまり無茶をしないようにね。
所で、キャシーは今晩から誰の部屋に泊まるんだい」
「コウタの部屋のベッドが空いてるので、そこに泊まろうと思ってるけど」
キャシーがそう言った途端、被せるように宮坂姉妹が声を揃えた。
「「それはダメえ」」
結局キャシーは、エキストラベッドを沙織としのぶの部屋に入れてもらい、二人の部屋に居候することになった。
キャシーの泊まり料金の追加費用は、どういうわけか、俺の負担となった。
一人で一部屋使ってるからというのが理由らしいが、俺はキャシーと同じ部屋でも良かったんだが、、、
翌朝、四人揃って、ポパイ亭の食堂で朝食を
キャシーはよく食べる。ネコ獣人はこれが普通なのだろうか。
沙織もよく食べる。そんなに食べて何故太らない?
しのぶの食欲は普通だ。
俺は少し食欲がない。
高校生の1年半を、元々お一人様でやって来たのに、最近になってから、他人との付き合いがめちゃ増えて来て、俺は知らず知らずストレスを溜めていたのだろう。
朝食後、沙織としのぶは一旦部屋に戻った。
キャシーは居候のため、遠慮してるのか、俺とここに残っている。
「俺も部屋に戻るけど、キャシーはどうする」
「コウタの部屋まで、ついて行ってもいいかな」
「キャシーの耳と尾を俺にも触らせてくれるなら、部屋の中までついてきてもいいにゃ」
「触ってもいいよ。でもコウタは、にゃとか言わない方がいいにゃ」
俺は冗談で言ったつもりだが、キャシーはまんざらいやでもなさそうだ。
部屋に入ってから、キャシーの耳と尾をそっと触らせてもらった。
ああ、癒やされる。俺のストレスが少し減って、HPが10上がった。
部屋での俺たちの会話は、次のような他愛もないものだった・・・
「もっと触ってもいいにゃんよ」
「いや、やめておくよ。
付き合ってもいないのに、これ以上は不謹慎だ」
「不謹慎って」
「俺の国では男女は節度をもって接しなければいけないのさ」
「じゃあ、私たち付き合っちゃえばいいにゃん?」
「いや、それもダメなんだ。
俺の国では、一夫一婦制だから」
「ほえ、それは珍しい制度だね。
この国では一夫多妻も、一妻多夫もどちらも普通に認められているよ。
なんなら、多夫多妻でもOKだよ」
「そんな、ここは夢の国だな。
この国なら、三人と俺で一つの家庭を持つこともできるのかな」
「そうにゃんよ」
「いやいや、俺たちはいずれ自分の国へ戻るから、そんな都合の良いことはできないな、やっぱり」
「そうなの、残念ね」
「え、キャシーは俺が好きなのか」
「コウタは好きだよ。
でも、沙織もしのぶも、三人ともみんな好きだにゃ」
「俺だけ特別ってわけじゃないのね」
「特別になるのは、一緒に暮らし続けてからだと思うよ。
最初から特別に好きとか、よく分からない」
どうやら、この世界の男女の関係は、俺たちの国とはだいぶ考え方が違うらしい。
俺は、やっぱり自分の国の考え方が良いなと思った。
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