第76話 レッツゴーダンジョン

 キャシーと二人で居るところを見つかると、あっちの二人がまたへそを曲げそうだ。


「じゃ、キャシー、今日行くところを皆で話し合おうか」


「そうね、そうしようよ」


 俺とキャシーは隣の部屋に向かう。


 声を掛けるとすぐ、入ってという沙織の声が返ってきた。


「沙織、しのぶ、キャシーを連れて来た。

 今日の活動について、みんなで話し合いたいんだが、いいか」


 沙織の顔色は良い。

 飯もたくさん食っていたしな。

 しのぶのやや醒めた表情は、平常運転だろう。


「たっぷり眠って、ユンケルも飲んだから、疲れも飛んだわ、今日も張り切って行こう」


 ユンケルが気に入ったのか、そりゃ良かった。

 俺もゆうべ寝る前に飲んだが、カフェインが入ってる割にはぐっすり眠れた。


「沙織は元気そうだな。

 しのぶはどうだ」


「私も姉さんに勧められて、初めてユンケル飲んだけど、味はちょっと苦手かも。

 でも疲れは取れたし、頭もすっきりしたみたい」


 キャシーは二人から出た、耳慣れないワードに興味をもったようだ。


「何、そのユンケルって、ポーションの一種なの、だったらめちゃ高いんじゃ?」


 出たよ、ポーション、あるのか、この世界にも。


「そのポーションって、幾らくらいするんだ」


 つい世知辛い金銭感覚で、質問しちまったぜ。


「ハイポーションは金貨1枚、普通のポーションは大銀貨1枚くらいかな。

 でも全然効き目が違うらしいの。

 私は、魔物との戦いで、めちゃ体力失った時に、ポーションで結構回復したけど、高いからめったには使えないんだ。

 ハイポーションは、疲労回復だけでなく、軽い傷なら治してくれるの。

 重症だと、エクスポーションじゃないと治せないみたいだけど、このへんじゃ見たことも聞いたこともないし、値段も知らない」


「傷はユンケルじゃ治らないから、ハイポーションとは全然違うみたいだな。

 キャシーも1本飲んでみるか」


 俺は四次元ポケットから、ユンケルを一本取り出し、蓋を捻って開けた小瓶を差し出した。


「え、マジックボックスまで持ってるの、本当にあんたらすごいパーティだね」


 キャシーは感心しきりだったが、受け取った小瓶の口に鼻を近づけ、くんくんとやってから、恐る恐る液体を口に入れる。


「甘くて少し苦い、変な味」


 眉をしかめ、口をすぼめ、尻尾を左右にいやいやって感じでゆっくり振りながら、変顔を作っている。

 ともあれ、効き目はすぐに出たようで、満足げな顔に変わった。


「なんだか、身体の内からぽかぽかして、力が湧いてくる。

 私が飲んだポーションと同じ位、元気になりそうな気がする。

 体力が落ちた時に飲んだら、どのくらい効くのかな、これ」


 俺にはポーションとの比較はできないが、この世界の人には、ユンケルは俺たち以上に効く回復薬なのかも知れないな。


 暫くするとキャシーは、少し何か考える様子を見せてから、しのぶに目を向ける。


「ねえ、しのぶに訊きたいことがあるんだけど、ロクシーの指導をほんのちょっと受けただけで、どうして同じことがすぐできたの」


 そう問われたしのぶは、キャシーよりもずっと深く考え込んでいる。


「言いたくないんだったら、良いけど」


 訊いちゃいけなかったのかな、という顔だ。

 しのぶは顔を上げ、キャシーに向けた。

 キャシーの考えを読んでいるのか?


「うん、自分の国ではずっと内緒にしてきたんだけど、キャシーが誰にも言わないって約束してくれるなら、言っても良いよ」


 キャシーは口にチャックみたいなポーズを見せたが、こっちにチャックとかファスナーなんてないだろ?


「大丈夫、ネコ人族はみんな口は堅い。

 中でも私は獣の骨を砕けるくらい、口が堅いから」


 しのぶはじっと見つめて、一つ頷いた。

 読心完了か?


「それって歯と顎が強いって意味じゃないの、キャシー」

 沙織がちゃちゃを入れた。


私等流わたしらりゅうのジョークよ、でも他人ひとの秘密を漏らしたことがないのは本当よ」


 しのぶはもう一度頷いた。

 確信が持てたのだろう。


「じゃあ、言うわ。

 私は他人ひとの考えてること、感じてることがそのまま分かるの」


 キャッツアイの縦筋が、ふわっと広がった。


「それって、ロクシーの言ってた、伝説の賢者様みたいだね、確かスマット様だっけ」


「私の国ではテレパシーと言われている能力だけど、使える人はめったにいない。

 それでロクシーさんが、教えてくれたことは、そのまま理解できたから、その通りやったのがあの結果だったの」


 なるほどと得心した様子だが、尚キャシーがしのぶに何か訊きたそうな感じがしたので、俺は助け舟を出した。


「キャシー、しのぶは、この能力でいやな思いをしたことがあって、ずっと隠していたんだ。

 だから、この話はこれきりで頼む」


 しのぶがほっとした顔を見せる。

 沙織は、そんなやりとりを何も言わずに見ていたが、ようやくという感じで、キャシーに問いかけた。


「さあて、私もキャシーに訊きたいことがあるの。

 Cランク冒険者ってことは、キャシーにも何か特技があるのよね」


 キャシーは、よくぞ訊いてくれたという感じで答える。


「私は、人より早く走り、高くジャンプできる。

 ダンジョンみたいな壁や天井に囲まれた場所だったら、ドコデモジャンプが活かせるわ」


「なんだそれ」


 どこでもドアと響きが似てるが、絶対違うなw


「今日はダンジョンに行ってみない。

 そこなら一番、私の能力を見せられるから」


「ダンジョンか、いきなり危ない所はダメにゃんよ」


 ダンジョンという響きには、興味がもくもくと湧いてくるが、同時に、たくさんの魔物に俺たちが包囲されて、手の打ちようもなく追い込まれるイメージがよぎるのだ。


「にゃんはやめてよ。

 ダンジョンは階層別に、魔物が強くなるから、修行にも丁度良いよ。

 目標は、第1階層のダンジョンガーディアン。

 最終目標は第5階層のダンジョンガーディアンってことでどうかにゃ」


 これこそ、キャシーが俺たちを誘導したい場所らしい。

 そのワクワク感に、しのぶが最初に巻き込まれた。


「ダンジョン行ってみたい」


 ジト目とはまったく違う、甘えた表情でしのぶが俺に目を向けるのだ。

 俺には断る選択肢が無くなった。


「じゃあ、ダンジョンへ行こうか」


「いいわね、いいわね、ダンジョンいいわね」


 沙織は一も二もなく賛成した。

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