現代ファンタジー編 その2
第140話 地球への帰還1
さて、二人の神獣様とお別れを済ませた俺達は、大洞窟の分岐穴へと進んだ。
少し行くと、さっき見つけた転移魔法陣と思われるものが、薄ぼんやりと光っている。
「どうする、一人ずつ行くか、皆で一緒に乗るか」
俺は、魔法陣を見つめながら、そう言った。
恐らくこいつに乗れば、地球に帰れると思うが、それは状況からみた推察に過ぎない。
違う所へ飛ばされない保証がある訳ではないのだ。
とは言え、一人ずつ乗って、転移された先が見当違いの場所だったとしても、ここに戻って、これは違っていたと、残った二人に伝えることもできないのだ。
「一緒がいいです」
しのぶは考えもせず、すぐそう答えた。
しのぶらしくない、慎重さに欠けている。
「
あの魔法陣は、言わば
無邪気な返事は、実に沙織らしい。
こんなノリで良いのかも知れない。
違う所へ飛ばされたら、また皆で頑張ってみよう。
だから、俺は沙織の言葉に乗って、次のように言ってみた。
「一つの蓮に三人一緒に乗ったら、それこそ水に沈むと思うけどな。
とは言え、あれは水に沈むような小さな蓮じゃないし、俺達、運命共同体を一緒に地球に連れて行ってくれる巨大な蓮と信じて乗ってみるか。
もし、全然違う所へ飛ばされたとしても、一蓮托生だからな、俺達は」
後になって知ったが、一蓮托生とは一つの蓮の上に一緒に乗ることではないらしく、生まれ変わっても一緒という意味があるらしい。
沙織が本来の意味を知っていて、この時この言葉を使ったのかは定かではない。
ともあれ、どうやら、三人とも心は決まったようだ。
「せえの、で行きますよ」
しのぶがそう言った。
俺達は目を合わせて、声を合わせ、手を繋ぐ。
「「「せえの!」」」
掛け声に合わせて、俺達三人は同時に魔法陣に飛び乗った。
何か不思議な感覚で、宇宙空間にでも投げ出されたようで、少しの間、重力を感じなかった。
次の瞬間、俺達は、洞窟とは違う土の上にふわりと降り立っていた。
薄ら明るい、白夜だろうか。
いや、確か、異世界とモスクワでは4時間近い時差があった筈だ。
思い出せ、そう、あの日、家を出たのが午後6時半で、時差が6時間あるモスクワは午後0時半、そこからパーチンを待ち伏せて、パーチンから情報を引き出したり、ピーターの所へ行ったりして、異世界に出た時間は恐らくモスクワ時間で午後2時くらいだ。
異世界はその時もう日暮れに近付いていた。
仮にその時刻を午後6時とすれば、異世界とモスクワには4時間の時差がある。
今さっき異世界をたったのが、日暮れから2時間ほどしてからだから、大体午後8時だとすると、今はモスクワ時間で午後4時くらいかな。
ううん、異世界と日本には時差が2時間くらいということになるから、今は日本時間で10月31日の月曜日の午後10時くらいということになるのか。
まあ時間についてはそれくらいにしておこう。
ここは木と木の間隔は大きいが、木は見渡す限り延々と生い茂っている。
これだけ色々考えたあげく、俺が発したのは、ごく短いセンテンスだった。
「森の中みたいだな」
「モスクワ近郊の森ですよ、恐らく、あの地下施設が近くにある筈です」
パーチンたちが、異世界へ帰る転移口を見つけられたくらいだから、きっとしのぶの言う通り、帰りの転移口のある地下施設近辺だろう。
行きと帰りは異世界人と地球人では反対の意味になるから、行きの転移口と言った方が正しいだろうか。
パーチンは、ロシアで権力を握ってから、転移口のある場所に、地下施設を作ったのだろう。
何かあった時には、いつでも脱出できるように。
「もしかしたら、あれじゃない」
沙織が少し先の建物を見つけた。
俺達は、空間転移装置を使って、俺の部屋からいきなり地下施設内のパーチンの部屋に転移したものだから、建物の外観は全く知らないのだ。
こんな森の中にある怪しい建物、あれが地下施設の上部の建物に違いない。
俺達は、とりあえず地下施設に向かって歩き始めたが、パーチン一派に捕らえられる恐れがあることにすぐ気がついた。
地球に戻ったことで、うっかり気が
「ちょっと、待て。
あの建物に近づくのは危険だ。
ここが地球なら、フライ達と通信できるんじゃないか」
沙織もしのぶもはっとした顔だ。
建物が危険という言葉か、フライ達と通信という言葉か、そのどちらにはっとしたのかは分からないが。
「あ、そうね。
クモミンとも通信できるかも」
沙織はクモミンに嫌われてるのに、一方通行で気に入ってるらしい。
「あ、そうですね。
どうも異世界馴れして、少し不用心でした」
どうやら、しのぶは、危険という言葉にハッとしたようだ。
まあここで大人しくしていれば、パーチンの兵隊には見つからないだろう。
俺はマイスーツに呼び掛けた。
『スーツ君、ここからフライやクモミンに通信できるか』
スーツが、一呼吸おいて反応した。
『あれ、私スーツ君て呼ばれたのは初めてですが、なんか違う呼び名はありませんかね』
今まで、もっと事務的な返しをされて来た気がするが、いきなり
『スーツ君は安易だったか。
じゃあナイーキとか、アディダセとか、アシックセとかユニクラとかデサンタとかはどうだ』
『アシックセは嫌ですね。
じゃあユニークロで』
少しだけ、事務的な喋り方に戻ったようだ。
『それ、選択肢には無かった筈だが、
まあいいか。
ユニークロ、通信できるなら、繋いでくれ』
『アイアイサー』
ノイズの響きで、どこかと通信が繋がったような気がした。
『こちら、コウタ、聞こえますか』
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