第72話 獣人族の娘
殺風景な部屋を出て、階下の食堂テーブルに腰を落ち着ける。
ランチはやってないので、次の夕食時間までは、特に注文しなくても、ここで休憩ができるようだ。
まだ沙織としのぶが降りて来る様子はない。
俺は、しのぶとマイクが使った、例の会話学習絵本を取り出した。
マイスーツの自動翻訳は便利だが、自分の力で少し覚えようかと、復習チェックを始めた。
ぱらっと
俺たちが戦った相手だ。
どうやら、この絵本は自動追加機能もあるようだ。
中の一つを指差すと、
『翼竜タイタン』と、マイスーツが反応したので、同じように発音してみた。
『グッド』
発音はまあまあってことかw
そんなことをやっていると、遠くで見ていて興味を持ったのか、受付してくれた獣人族の娘が近づいて来た。
俺の本を覗き込むようにしているので、隣に座ってもらって、二人で見られるように、本をテーブルに広げた。
「まあ、なんてリアルな絵なんでしょう。
これは、あの魔物の森にいるウッズウルフですかね」
受付時とは違って、だいぶ打ち解けた話し方だ。
カウンターでは見られなかった、ネコの
近くで見るとまつ毛も長いし、やや吊り目の中の瞳は、グリーンカラーの宝石、キャッツアイみたいだった。
「君、冒険者でもないのに、よく知ってるね」
「私、これでも冒険者ですよ。
ランクもCですからね」
かなり自慢げだ。
「え、なんで宿屋さんで働いてるの」
「ここの女将さんには、昔お世話になったので、時々手伝いに来てるんです。
お客様も冒険者ですか」
「さっき、ここのギルドで新規登録して来たばかりなんだ、あの岩山の向こうの国から来たので、共通ヒト語もまだ覚えたてでね。
文字はまだ覚えてないから、さっきは宿泊台帳に代筆とか頼んで悪かったね」
「ははあん、そういう事情があったんですね。
新規登録ということは、冒険者としてはまだタマゴさんかにゃ。
Fランクだったら、もっとお安い宿屋もありますにゃあ。
ウチに泊まってもらってありがたいけどにゃ、ちょっと稼ぎに見合わないんじゃないかにゃ」
新参者と見て、急に上からだな。
それに自分優位と見ると、話し言葉にネコ語尾がつくのかw
「いや、Aランク二人から推薦を受けて、Cランクで登録してきたよ」
「Aランク冒険者を二人も知っていて、しかも推薦してくれたのかにゃ!」
おや、びっくりした時もネコ語尾かw
「まあね」
俺はドヤ顔してみせた。
「さっきのお二人も、冒険者でパーティを組んでいたりしますか」
お、語尾が普通に戻った。 あ、普通の語尾なんてないかw
「あいつらも、俺と一緒に新規登録、Cランクスタートした仲間で、チーム川北というパーティを組んでいるんだ」
「皆さん全員冒険者ということでしたら、冒険者証の提示で冒険者割引できますので、後で返金手続きいたしましょうか。
それはそうと、私を皆さんのパーティに入れてもらえませんでしょうか」
突然、俺に顔をすりよせてくる。別に良いけど。
くるしゅうない、ちこう寄れという感じだなw
「ちょっと、急すぎるかな。
まあとりあえず、君の人柄を知りたいので、この絵本を使って、共通ヒト語の文字を教えてくれないかな。
パーティの件と獣人語はそれからってことで。
あ、俺のことはコウタと呼んでくれればいいから」
「じゃあ、私のことはキャシーと呼んでくださいね」
それから、俺はこの娘、キャシーと、絵本を使って仲良く学習を始めた。
「なあんだ、コウタ、ここにいたのね」
「コウタさん、勝手な行動は謹んでくださいね、ここはいせか、、、私たちの国ではないんですから」
沙織としのぶが近寄ってきた。
振り返ると、二人共なにか不満げな顔つきだ。
「なんだか親密そうね」
「いつの間に、そんなに仲良くなったんですか」
二人同時に、似たような意味合いの言葉を発した。
「ちょっとちょっと、そんなんじゃないから。
今、キャシーにお願いして、共通ヒト語の文字を教えてもらっていたところさ。
文字を覚えないとなにかと不便だろ」
慌てすぎて、さん付けするのを忘れたよ、、、
「こらこら、もう名前を呼び捨てにするほど仲良いじゃん。
本当に文字のお勉強してただけなのかな、他のお勉強じゃないの」
沙織は疑わしそうに、俺とキャシーを見比べる。
「本当ですにゃ。
コウタにはこの絵本使って、文字を教えてただけですにゃ」
キャシーも慌てすぎだよ、語尾がにゃんになってるぜ、、、
それに俺を呼び捨てに、、まあそう呼べとは言ったけど、、、
「え、もうコウタって呼ばせてるんですか。
私だってまだ呼び捨てしてないのに」
しのぶは眉頭を寄せてむくれているが、沙織は語尾にゃんに食いついた。
「にゃん!?
か、かわいい、ちょっとその尻尾さわらせてくんない」
キャシーのいやがるのを無視して、沙織はふさふさの短い尻尾を
この耳、本物だったんだ、とか言いながら、尻尾の次は耳を触りだした。
「ふにゃん、耳はだめにゃん」と、キャシーはセクシーボイスをもらした。
ずっきゅーん! これは反則だろ、俺は胸キュンを隠せなかった。
「コウタさぁん!」
もうがまんできない、と言う感じで、しのぶが俺の耳を強く引っ張った。
「ちょっと、、痛い、痛いですぅ」
5秒間は引っ張られたな、もう二度といたしません、とか言いそうになったぜ。
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