第137話 マイクたちの離脱

 俺達三人は、ジャック兄弟を引き連れて、シンのいる場所へ戻る。


 マイクの所へ案内するのが先か、少し迷ったが、俺は二人を連れてシンの元へ先に向かった。

 やはり筋を通しておくべきだと思ったのだ。

 この後も世話になることが分かっていたし、できる限りシンを立てておく。


 またそれが余計にシンの神格化、神獣様としての威厳を際立たせるという、俺なりのつまらない?計算が働いていた。


 そればかりじゃない。

 俺から説明する前に、俺達の会話を少し離れた所からでも聞き分けることができる、キャシーから聞いた方が、ロクシーだって、マイクだって、デーブにしても、ブッシュにしても、すんなりと受け入れられようというものである。


『シンさん、ジャック兄弟を連れて戻ってまいりました』

 俺は丁寧にお辞儀をして、戻って来た挨拶をした。

 シンはその対応に痛く満足げだ。


『ナミはこいつらがお気に入りだったが、随分と素直に手放したものだな』

 シンはそう言って、ジャック兄弟を見下ろしている。

 二人の内、兄の方だけが、恐縮した様子で、シンに深く頭を垂れた。

 放っておけば土下座までしそうだ。


 ともあれ、こいつらがナミのお気入りというのは、少し意外な感じがした。


『そうだったんですか』


『うむ、何か文句を言うんじゃないかと思って、ナミと一緒に戻るように言ったんだが、その必要は無かったな』


『ええ、はよ連れ帰れと言ってました』


『あいつはな、そう、ヒトの世界で言うツンデレだからな』


 シンから、ツンデレという言葉が出て、ギャップ萌えを感じた。


『なるほど、じゃあ、沙織のこともかなり気に入ってたのかも知れませんね』

 俺はついついそんなことを口にした。


『ああ、テレパシーで聞いておる。

 すごい気概のある剣士だったと。

 沙織は小生意気なヤツだが、その内また会える機会があれば良いなと言っておったわ。

 ローガを脅かしただけで、斬らなかったことも感謝している感じだったぞ、はっきりそうとは言わんがな』


 沙織が満更でもない顔をしている。

 シンに対して失礼なことを言わなければ良いが。


『へえ、そりゃまた意外です』


『私、嫌われたかと思ってたよ。

 あのモフモフを触ってみたかったな』

 やはり、沙織は失礼なことを言った。


 シンは鷹揚おうように、沙織をいなした。

『そりゃ止めておいた方が良い。

 下手な所を触ると、引っ搔かれるぞ』


『引っ搔かれるのは嫌だな』

 キャシーの様相を思い出したのか、沙織は身体を縮めた。


 そろそろ本題に入るか。

『では、ジャック兄弟がお別れの挨拶をしたいとのことですので』


「シン様、短い間でしたがお世話になりました」

 頭を地につけて、兄の方がしっかりと挨拶した。

 命の恩人に対する、敬愛の念がうかがえる。


「すみません、俺、兄貴と違って、シン様の言葉も、ナミ様の言葉も分からなくて。

 でも俺も感謝しております、ありがとうございました」

 弟の方も、深々とこうべれて、そう言った。


『何を言うとるか、兄のように分かる方が珍しいのだから、そんなことを気に病む必要はない。

 それにお前は、最初から家に帰りたがっておっただろう』


 兄からの通訳を、弟が一々頷きながら聞いてから、短く答えた。

「すみません、お見通しでしたか」


『兄と仲よう暮らせ』


 兄の短い通訳で、弟が答える。

「ありがとうございます」


「シン様、たまにこちらへ遊びに来てもよろしゅうございますか。

 何か必要なものがありましたら、町で調達してお持ちしますから」


 兄の方は、気の利いたことを言うなw


『ふむ、そういうことなら、こちらも代価として魔石を少しずつ貯めておこう』


「あ、ありがとうございます」


 どうやら、この商才をマイクが気に入ってるのかも知れない、俺はそう思った。


『それでなコウタよ。

 この者たちだけで、この森を帰すのは非常に危険なのだが、こやつらを送り届ける者を誰か付けてやって欲しいのだが』


 さすがに賢者様だ、配慮が行き届いている。


『では、この後マイクにでも頼んでみましょう』


『よろしく頼む』


「シン様、お世話になりました」

 雰囲気を察したのか、兄の通訳を待たずに、弟が最後の挨拶をした。


「シン様、またこの次会える時までさようなら」

 兄の方は、商売っ気たっぷりだ。

 この次は何か気に入りそうなものをたずさえて、ここに戻ってくるのだろう。


 沙織としのぶは、シンとまだ話したい様子だったので、二人をその場に残して、

俺はジャック兄弟を連れて、すぐ先で様子を見守っていたマイク達の元に向かった。



 マイクはジャック兄弟との再会を、本当に喜んでいる。

 俺が、シンの要望を切り出す前に、マイクはこう言った。

「コウタ、お前たちには申し訳ないが、ジャックの身内を早く喜ばしてやりたい。

 俺はここでパーティを離脱したい。

 良いか」


 それはこちらの望む所であり、一も二もなく同意した。


 マイクは少し離れた所にいるロクシーとキャシーに近付いていった。

 別れの挨拶でもしているのだろうか。


 少しすると、ロクシーとキャシーが、俺達に話があるとして近寄ってきたので、沙織としのぶに合図してここまで来てもらった。

 彼女たちの話とは、一体何だろう。


 最初に話を切り出したのは、ロクシーだった。

「しのぶ、悪いんだけど、あたしら、マイクと一緒に、ジャック兄弟を連れて、町に戻ることにした」

 そう言って、ロクシーはしのぶに手を差し出した。

 その手をしのぶが取った。

 二人の間には師弟愛があった。


「ロクシーさん、ここまで色々とありがとうございました。

 こちらこそ、うんと忙しい時に、私達のために、一緒に来てくれて嬉しかったです。

 私達は、神獣様と取引ができて、おそらくヌシのタヌルとも話し合いができそうなので、ここから先はもう大丈夫です」


 一方、キャシーは沙織にハグしていた。

 沙織も強く抱きしめ返している。


「私も一緒に帰ることにした。

 沙織、ごめんね、最後まで一緒に行けなくて」


「良いのよ、キャシー。

 あんたの、攻撃スタイルにはしびれたわ。

 私達、良い友だちになれたよね」


「うん、もちろん」


 結局、俺が知ったのは、

マイク、キャシー、ロクシーの三人の内、俺を一番心配してくれていたのが、男のマイクで、

ロクシーは師弟愛から、しのぶが第一で、

キャシーは戦士と剣士としての良きライバルとして、沙織にかれていたことが分かったのだ。

 勝手にもてていると、錯覚していた自分が悲しいなw

 まあ、ロクシーが俺に気が無いのは最初から分かっていたが。

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