第138話 シンと共に大洞窟へ

 というわけで、ここで俺達のパーティの中から、マイク、ロクシー、キャシーが抜けることになった。

 戦力ダウンは大きいが、タヌルとのバトルが回避できるのであれば、俺達3人だけでも十分だろう。

 とは言え、お宝にぐっと近付いて喜んでいるデーブとブッシュに、今更ここで帰れとは言えない。


 さて、ここからは、シンを先頭に、ゴールの広場を目指すだけだ。



 シンがいるだけで、魔物は全く寄ってこない。

 気のゆるんだ俺達は、フォーメーションも守らず、適当に雑談しながら歩いていた。


 日が落ちきった頃、目的地の、岩山を背にする広場が見えて来た。

 途中でキャンプは必要なかったが、一気に目的地を目指したため、探索するには暗すぎるかなと思った。

 五日前には三日月だった月が、半月になっていたため煌々こうこうと広場を照らしてるのが遠目にも分かった。

 森を抜けると空が一気に大きくなり、岩山の月光反射も受けて、広場は夜目よめが効いていた俺達にはかなり明るかった。

 まあ暗くたって、俺達三人はスーツのお陰でよく見えるのだが。



 シンが遠吠えを一つして、なにやら大洞窟に向けてテレパシーを飛ばしてるように見えた。

 暫くすると、のそのそと、いやヌメヌメと、あるいはごそごそと、巨大なワームが大洞窟から頭を出して来た。

 白い体躯たいくを月が照らしてる。

 巨大なワームは、シンに対し、頭を一回頷かせた。

 シンはその巨体に近寄り、頭をこすり付けている。

 シンの巨体は、ワームと並ぶとかなり小さい。

 ワームは、俺達の方へ視線を投げ掛けたようだが、何一つ行動は起こさない。

 既に、シンとの話し合いがついているのだろうか。

 俺達は、大人しく、ただそこで待つだけだった。


 シンに促されて、俺は沙織から受け取った赤い輝石きせきをタヌルの方へ差し示してから、一歩前に出てタヌルの前に置いた。

 シンは長く太い舌を伸ばして、赤い輝石を受け取った。


『お前たち、シンの友達なら、わしらも友達だ、と言ってます』

 これはしのぶが仲介したタヌルの言葉だが、ここからはまた仲介段階は省く。


『タヌル様、贈り物を喜んでいただき良かったです。

 次に青銅の贈り物をお納め下さい』


 俺は、ブッシュが置いた2枚の大盾を、引き起こし、どうにか持ち上げ、タヌルがそこに舌を伸ばしそれを受け取った。

 ブッシュは、盾を引き渡すという話が決まってから、これほどまで重いのに、わざわざここまで自分の手で運んで来たのだ。

 やはりそれなりの愛着があったのだろう。


 俺はその長く太く力強い舌を間近に見て、大いなる脅威を感じたが、俺の隣ではブッシュが驚いていた。

 小男の俺が、あの重い盾を、どうにか持ち上げたことに対する驚きだった。

 まあ、それは特殊スーツの助力のお陰なのだが。


『コウタよ、お前たちは大したものだ。

 ワシの欲しいものを二つとも持ってくるとはな』


 その好意的な言葉に、取引が成功したと確信した。


『気に入っていただけて良かったです』

 俺は要求を早く言いたかったが、はやる気持ちを抑えて、あくまでへりくだる姿勢を貫いた。


『おまえたちの欲しいものは、シンから聞いたが、おまえの口から今一度申してみよ』


 向こうから問われてから、こちらの望みを申し上げるという、理想的な展開に持ち込めて、俺は内心やったという気分だった。


『はい、一つは、この大洞窟の中に分岐穴ぶんきあながあると思います。

 そしてその中に、元の世界へ通じる転移口があると考えております。

 私達にそれを探索させていただきたい』


 一番大事な要求を最初に提示した。

 俺たちにとって、金銀財宝の類は最初から頭にない。

 それは、付いてきてもらったデーブ、ブッシュには悪いが、譲れない線なのだ。


『ふむ、転移口とな。探索は許可しよう。

 して次の望みは何だ』


 ここからは、デーブ達に対する奉仕、サービスみたいな要求だ。

 できればそれも認めてもらって、穏便おんびんに運びたいのだが。


『タヌル様が集めた、鉄製の武具と、金貨をいただきたいのですが』


 デーブ達の手前、はっきりと主張した。


『うむ、全部はやれぬが、まず半分までなら持って行って良いぞ』


 おお、これはほぼ満額回答だろう。

 これでデーブたちが文句を垂れるなら、勝手にしろってもんだw


 俺は、デーブとブッシュに、タヌルの回答を伝えた。

 半分という言葉に、デーブとブッシュは少し考える様子を見せたが、結局、それらを整理している倉庫というか、保管場所を見てみないと何とも言えないということを言った。

 その一方で、神獣様の申し出だから、半分でも四分の一でも、ありがたく頂戴したいという。

 そのことを、恐る恐るタヌルに申し上げてみると、ふっふっふと笑い飛ばされた。


『今回に限り、一度に持っていけるなら、いくらでも持って行ってもいいぞと言ってやれ』


『よろしいのですか』


『良いとも』


 このイモムシの怪物みたいなヤツは、見掛けによらず、話の分かるおっさんで、俺はその度量の大きさに、尊敬の念すら覚え始めた。



 俺達は、タヌルの許可を得て、洞窟の奥へと向かった。

 タヌルの横を通って行くと、最盛期の半分の長さに縮まっているという体長は、約15Mほどだった。

 最盛期には30Mもあったのかと思うと、想像を超えるその大きさに、感慨もひとしおだった。

 タヌルを目の前にして異世界の脅威を感じていた訳だが、地球にはこれを少し超える巨大生物がいることを思い出した。

 シロナガスクジラだ。体長34Mもある個体もいるらしい。重さは130から150トン。

 但し、陸上生物に限れば、アフリカゾウが最大で6トン程度か。

 やはりタヌルは桁外れにすげえ。



 そのタヌルは、洞窟の外側に身体を5Mほど出して、久しぶりに訪れた友のシンと、昔話に浸っている様子だった。

 時々話が盛り上がるのか、タヌルが身体を揺らすと、洞窟との隙間が小さくなって、押しつぶされそうな恐怖を覚えた。

 また、ナミをここに連れて来ないのが残念だったようで、シンは結構責められたらしい。


 洞窟の奥へ進んでみると、タヌルの言った意味が分かった。

 鉄の武具が山のように積み上げられいて、マジックバッグとかマジックボックスを持っていたとしても、一度に持っていける量ではなかった。

 もちろん、俺達の4次元ポケットも容量無制限ではないので、全部が入り切るかはやってみないと分からないが、俺達は帰るつもりなので、それを使わせる予定はない。

 そして一番奥には、直径70cmほど、バランスボールみたいな大きさのメタルスライムが居た。

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