第79話 第一階層 初戦

 最初の分岐前で、俺たちは長話をし過ぎたらしい。

 俺たちの前に、左側の分岐と、少し先の右側分岐から、大きな、かなり大きなネズミの群れが現れた。


「モンスターラットよ。

 見える限りではキングラットは居ないみたい」


 メイン通路を埋め尽くす、巨大なネズミたち、モルモットよりかなり大きい。

 50匹、いやそれ以上か!


「体長は50cm、体重は3kg平均、今は見えないけど、キングラットは体長1m、体重20kgはあるよ。

 こいつらは、噛みつき攻撃しかしてこないけど、噛まれて放っておくと、かなりの速さで化膿が全身に広がるから気を付けて!」


 大きな声で、キャシーが俺たちに告げる。


「シャー!」


 キャシーが、群れに対して威嚇いかくのうなり声を上げると、先頭の奴らが後退あとずさりを始めた。

 やはり、ネズミはネコが怖いらしいw

 やがてドミノ倒しのように、前中列が連なって転げ始める。

 それが途中で止まると、後列が前に押し上げ始めた。

 じりじりと、詰め寄ってくる大群。


「数が多過ぎる、一旦退却するか」


「私が手本見せるよ、沙織も続いて、後ろに回り込まれたら、コウタがしのぶを守って。

 しのぶは火炎魔法中心で、やつらは火を怖がるから」


 この場の、戦闘指揮官はキャシーだった。

 ダンジョンの戦闘経験があるのは、彼女だけだから、当面はこれでも良いか。


 先頭のモンスターラットが、後ろから押し出されて、及び腰のままキャシーに迫った。

 先頭の一匹を右グローブで、次の一匹は左グローブで、キャシーがワンツーのロングフックをかますと、グローブから突き出たアイアンクローで、二匹はほぼ同時に真っ二つに切り裂かれた。

 ご愁傷さま、、、

 アイアンクローは、爪の一つだけを長くしたり、5本全てを長くしたりと、自由にコントロールできるらしいな。


 先頭を代わった奴らが、再び後退りを始めると、後列の途中までがドミノ倒し。

 そしてまたその後列が前へと押し出す。

 安全圏から見てると、実にユーモラスな動きを見せるモンスターラットたちだ。


 続いて、沙織がライトセーバーの刃を長めに調整して、左右にハタキでも掛けるように振り払うと、先頭集団のモンスラ達、7、8匹があっと言う間に細切れになって行く。


 後列集団の無謀なやからたちが、前にいるやつらを踏み台にして、鋭い歯をむき出しにして俺たちに向かってくる。

 キャシーが右壁に向かってジャンプ。

 続けて、左にジャンプ。

 その途中で、アイアンクローで数匹を真っ二つに切り裂いていた。

 それにとどまらず、次はどこで反転したのかと思ったら、中空に小さな魔法陣のような円盤が見え、それを踏み板にしてジャンプしたようだ。

 これが『どこでもジャンプ』か!


 くるっと、モンスラの上で縦回転する時に、アイアンクローで切り刻み、着地時にはスパイクシューズで2匹まとめて、串刺しにして、またもジャンプ。

 それでもこの豪快な攻撃は、10秒程度が限界らしく、キャシーは息を整えるために、一旦俺の後ろまで下がった。


 見ると、中央のしのぶが、大玉おおだまスイカくらいの火球かきゅうを手の平の上に形成してた。

 そして、その色が赤から紫、青色へと変わっていく。


「姉さん、左にけて!」


 火球を、逃げようとするモンスラの群れに投げつける。

 火球は水平に広がり、通路一杯までの火の円盤となって、巨大ネズミを燃やし尽くした。

 あたりには、黒い煙と、香ばしい焼き肉の匂いが立ち込めている。


 俺の出番は全く無かったな、とほほ、、、


 この初戦が終わってみたら、眼の前に細切れの肉塊と、その後ろに消し炭となった一群が転がっていた。

 その数、ざっと60。

 内訳は、キャシーが20、沙織が8、しのぶが30ほどか。

 しのぶの戦果は消し炭なので、数えるのが難しいw


 キャシーが腿裏ももうらあたりに、噛み傷を負ったが、治癒ちゆ魔法のヒーリングを使い、自分で治していた。

 これは聞いてなかったことだが、ロクシーからヒーリングだけは大事だからと、きちんと時間を掛けておそわっていたらしい。


 むごたらしい戦場跡だったが、暫くすると霧のように、モンスラの死体群が蒸発して行くではないか。


「あれは魔素の煙、そこいらに転がってる小さな石はモンスラの魔石。

 全部集めて、ギルドで買い取ってくれるから」

 指差しながら、キャシーが教えてくれた。


「ほお、この小さいのは一個いくらになるんだ」


 俺はまた、世知辛せちがらく、金計算に走っていた。


「モンスラの魔石は、小さいから、1個で大銅貨1枚ってところかな」


「ということは、60個で大銅貨60枚だから、銀貨なら6枚だから、1万2千円くらいか」


「エンて、あんたらの国の貨幣単位なの」


「そうよ、私たち、まだ円に直さないと、金銭感覚がうまく掴めないのよ」と、沙織。


「60匹と戦って、1万2千円て、高いのか安いのかよく分からないですね、コウタさん」


 しのぶの俺への敬語は、すっかり以前と同じに戻っていた。うれしいこっちゃ。


「ほぼ、無傷で終わったから良いけど、やっぱり安すぎるかもな」


 俺は、しのぶにそう答えた。


「コウタは、今回ただ見てただけだから、山分けということなら、結構儲かったと言えるんじゃないの」


 沙織の厳しいツッコミが入る。


「そう言われると、当たってるだけに辛いな」


「姉さん、コウタさんは、最後の砦だから、今は活躍しなくても良いのよ」


 しのぶが俺をかばってくれたw


 俺たちのやり取りを、ほぼ黙って見ていたキャシーが、ここで口を開く。


「こんな戦いが、第1階層の奥へたどり着くまで、何回も繰り返されるから、全員で大銀貨6枚以上の稼ぎになると思うよ」


 大銀貨6枚は約12万円か、4人で割っても一人3万円か、怪我せずに奥まで行けるなら良い稼ぎと言えるかも知れないな。

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