第78話 第一階層分岐前

 門から数十メートル入った所に、小さな広場があり、床面に丸く線が引かれている箇所があった。


 ダンジョンの中は、進めば進むほど暗くなるものだと思っていたが、魔素が濃くなるにつれ、周囲の壁自体が、魔鉱石ほどではないが仄かに発光しているようで、真っ暗になることは無かった。

 俺たちには暗視機能があるから、この位の薄明かりがあれば問題ないが、キャシーはどうなのか。

 確認すると、ネコ系獣人は暗視がきくそうだ。

 耳も相当良いらしい。要するに地球のネコと同じか。


 第1階層と、第2階層はずっと、薄明かりが続くらしいが、第3階層にはキャシーも行ったことがないとのことで、それ以降の様子は分からない。


 ここまでの第一階層は、照明の無い地下連絡通路みたいな感じで、高さは3mほど、幅は3mから4mで、底面は固い土みたいだが、フラットと言って良いくらい凸凹は少なく、傾斜もほとんど感じられない。


 15分ほど歩いただろうか、これまで見られなかった、左右の分岐が先の方に幾つかあるようだ。

 それでも、メイン通路と比べると、高さも幅も明らかに小さいので、道に迷うことは無さそうだが、、、

 まあ、好んで分岐を進む必要も無いだろう。


「曲がり角はいくつかあるけど、このまま広い道を通って行けば、第一階層の終点までたどり着くよ。

 そこには広い部屋があって、たまには、中でガーディアンが立ち塞がることがあるらしいけど、たいていは誰もいなくて、第2階層への転移魔方陣と、第1階層入口近くの、あの小さな広場に戻す転移魔法陣があるの」


 俺たちが、最初の分岐通路の、奥の方を覗き込んで見ていると、キャシーがそう説明してくれた。

 何だか、RPGでよく見るような仕組みらしいな。

 ガーディアンがいたらどうすっかな。


「そんなに心配することないよ。

 第三、第四のガーディアンは強敵らしいけど、第一、第二は私たちなら十分倒せる筈」


 キャシーは自信満々で、そんなことを言った。


「キャシーは第一と、第二のガーディアンと戦ったことがあるの」と、沙織。


「いや、先輩冒険者から聞いた話によると、そんなに強くないってことで、私は一度も遭遇してない」


「じゃあ、確実に倒せるとは、断言できないよね」


 他人ひとから聞いた話というだけで眉唾まゆつばものだ。

 そんな情報に、俺たちの命を賭けることはできない。


心配性しんぱいしょうだなあ」


 キャシーの軽い言葉に、ちょっといらついたが、ここはとにかく情報収集だ。


「仮に、そいつらに遭遇して、やばい時はどうするんだ、戦いの途中で撤退できるのか」


「珍しいものを貢物みつぎものとして差し出せば、それをガーディアンが検分している間に逃げられるって、先輩から聞いたけど」


「じゃあ、部屋の扉がロックされて、ガーディアンに勝たない限り、部屋から出られないって訳じゃないんだな」


 ゲームなら、大抵はこんな感じだからな。

 キャシーは、不思議そうな顔をして、反論してくる。


「何それ、ロックなんかされないよ。

 ただ、ガーディアンは入口を塞ぐように構えるらしいから、そこから移動させるように戦えば、貢物無しでも戻れる筈。

 その場合、最後の一人が逃げるのはかなり困難になるから、やっぱりその時は貢物かな」


「だったら、最初から貢ぎ物出した方が楽だな」


「楽かもしんないけど、そんなの楽しくはないよ。

 それに貢物が一見してつまらないと思われたら、戦いは続くことになる」


 キャシーが、沙織やしのぶに同意を求めるようにそう言った。

 見れば、沙織もしのぶも同意するように頷いている。


「そういうのは、最初に言っておいてくれよ。

 出発前に貢物の準備しておくからさ」


「あの絵本を差し出せば大丈夫だと思うよ」


 思えばあの会話学習絵本で、キャシーと親しくなったし、しのぶがマイクと親しくなったのもあれだ。

 貢物としての価値は、俺からしたら十分にある筈だが、はたしてガーディアンにその価値が分かるだろうか。

 後は、キャシーの冒険者としての勘を信じるか。


 振り返ると、俺の考えはいつもブレブレだな、、、

 ここは、もう少し冒険心を育ててみるか。


「そ、そうか、なら良かった」


「コウタ、最初からそんな弱気でどうするのよ!」と、沙織。


「そうですよ、コウタさん」と、しのぶ。


「あ、やっぱり、しのぶは、その呼び方のほうが全然良いよ。

 そう呼ばれると、俺なんだかやされるからさ」


 そう言ってみると、しのぶが少し照れたように返事した。


「そ、そうですか、じゃ、呼び方を前のように戻しますね」


 俺は、しのぶに対しサムアップをして見せる。

 次はまた安全確認と情報収集だ。


「話も戻すけど、第2階層へ転送された先は安全なんだろうな。

 突然、魔物に取り囲まれるなんてことはないよな」


「転送先は、第2階層の出発の小部屋とか言われてるみたいで、結界で守られてるよ。

 そこから外に出る時は要注意だけど」


 その確信に満ちた話しっぷりから、一つ安全確認情報得られました。

 もう一押し。


「その小部屋から、第一階層の出発地点に戻ることはできないのか」


「第2階層の突き当りの部屋に入らないと、戻れないよ。

 第2階層の部屋にも、ガーディアンがいたり、留守だったりするけど、第3階層への転移魔法陣と、第1階層の出発地点近くへの魔法陣があるんだよ」


 経験に裏打ちされた情報はありがたい。

 但し、かなりの危険情報出ました!


「ということは、第2階層に行ったら、クリアしない限り戻れないってことだよな」


「だから、第2まではそんなに強い魔物は居ないし、ガーディアンが居たとしてもなんとかなるよ」と、うんざり顔でキャシー。


「簡単に言うなよ」


 沙織も、慎重な俺にうんざり気味らしい。


「簡単すぎたらつまらないでしょ。

 じゃあ、今日はとりあえず第2階層クリアまでが目標で良いよね」


 沙織が頼もしい。


「第1階層クリアしたら、戻ろうよ」


 俺は、控えめに提案した。


「じゃあ、それは第1階層クリアした時点で話し合いましょうよ」


 一番年下のしのぶがそうまとめた。


「そうだね」「そんなところね!」「ええ、そうなの?」


 どれが誰の言葉か察してくれw


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