第143話 教室の様子その1

●しのぶ編


''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''' しのぶ視点 '''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''


 地元の公立中学校、登校するのは久しぶりだ。

 最後の登校が、10月26日水曜日で、今日は月が変わって11月1日火曜日だから、6日振りになる。

 とは言え、身代わりアンドロイドが登校したのは木金、月の三日間のみ。

 一応、その間の記録については、朝早く起きてざっと目を通しておいたから、なんとかなるとは思うけれど、でもかなり緊張する。


 今日は、私に接触してくる子がいたら、地球ではずっと封印して来たテレパシーを使ってでも、相手の考えを読んでうまくやろう。

 今日だけ、今日だけ、明日からはまた封印するから、今日だけは良いよね。


 実は、学校での私はいつも目立たない存在だ。

 お話をする友達も隣の席の子だけだから、三日や四日、アンドロイドに身代わりしてもらっても、なんてことないと思っていた。

 でも今朝、記録を見てみたら、何ということだろうか、私と話をする相手が、身代わりの三日間でぐっと増えていたんだ。

 一体どうしてそうなったの?



「おはよう! しのぶ」


 教室へ入ると、いきなり話をしたこともない子から、友達のように元気な挨拶を受けた。

 クラスの子全員、名前だけは憶えておいて良かった。

 私らしくもないけど、相手に合わせてトーンを上げて挨拶を返した。

「おはよう、さきちゃん」


 その後も、由貴ちゃん、秀美ちゃん、宏美ちゃんから同じように、元気な挨拶を受けて、少し慣れてきた私は、わりと自然な演技で元気そうに挨拶を返した。

 その後、授業が始まるまで、新たな友達が口にする、最近のアイドルとか、雑誌やおしゃれの話題とか、テレパシーを駆使くしして、どうにか話について行ったが、短い時間なのに結構疲れた。


 もう、留守番アンドロイドは何てことしてくれたのよ。

 よっぽど、気安くクラスの子たちと交友を広げたのね。

 勝手に私のキャラ変してくれて、この後どうしよう。

 今日はテレパシー使ってるから、どうにかなったけど、明日からどうしよう。

 また前のキャラに戻す?

 でも、前のキャラだって、自然なままだったかと言うと、そうじゃない。

 テレパシー関係で、過去にあったトラブルから、私は少し用心深くなり過ぎて、人との接触を極力避けていた。

 そう、よく考えると、知らない内に、自分の周りにバリアを張っていたのかも知れない。

 この機会に、そのバリアを取り払おうか。

 そう思った。


 今日は1日中、テレパシーを開放しようかと思っていたけど、朝イチだけで、その後は、使わなかった。

 それでダメなら、前に戻るだけ、そう決めた。


 でもダメじゃなかった。


 今日のしのぶ、ちょっとおかしいとか、それと似たようなことは、咲ちゃん、由貴ちゃん、秀美ちゃん、宏美ちゃんから、ちょこっと言われたが、それは友達としてのツッコミみたいなものだった。

 つまり、テレパシーなしで、この日を見事に乗り切ったのだ。

 自分自身が、こんなにもおしゃべりだったことを、改めて発見しておかしかった。

 これはキャラ変じゃない、自然体だと思えた。


 姉さんと性格が全く違うのは何故だろう、と考えたこともあったが、違いの多くは、私自身がからに閉じこもっていたせいかも知れない。

 ネアカではないけれど、元からのネクラではなかった。

 コウタさんと出会ったことも大きいと思う。

 姉には何でも言えたが、他の人で何でも言える人をやっと見つけたのだ。

 変わり過ぎるのは嫌だけど、少しずつ明るい感じに変わっても良いよね。

 そう思えた一日だった。



●沙織編


'''''''''''''''''''''''''''''''' 沙織視点 '''''''''''''''''''''''''''''''


 朝、お母さんにおはようを言った時、あらって言われた。

 お母さんは、その後何も言わないで、私をじっと観察しているので、何か居心地が悪い思いだった。

 くそ、留守番アンドロイドのヤツ、何かヘマでもしたのだろうか。


 少しして、しのぶが珍しく遅く起きて来て、お母さんにおはようの挨拶をした時も、お母さんは挨拶を返しただけで、その後は同じように、何も言わず観察していたので、これは身代わりアンドロイドのせいだと確信できた。

 まあ、私は私だから、気にせず私を貫くだけよ。

 お母さんにこっちから訊いて、ボロを出しても、うまくフォローできないし。


 わたしが、いつも通り、しのぶと話をしながら朝食を取っていると、お母さんは妙な観察をやめてしまったようだ。

 これでいつも通りだ、良かった。



 学校へ行くのは六日ぶりか、まだそんなに少ししかってないのが不思議な感覚だった。

 もっとずっと長く留守をしていた気分だ。

 身代わりアンドロイドめ、学校ではうまくやってくれていたのかね、少しだけ不安になった。

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