第70話 推薦人

 カウンターの横では、沙織としのぶから聞いた内容を確認しながら、マイクが代筆してやっているらしい。

 マイクにもだいぶ世話になっているな。


「初期登録者は、原則ではFランクからになるのですが、Fランク冒険者だと依頼はEランクとFランクのものしか受けられません」

 ほぼ説明の最後らしく、冒険者のランクによって、受けられる依頼が制限されるという内容だ。


「EとFの依頼がどのようなものか、聞いても良いですか」


「Fランクの依頼は、主に町の中と外の掃除、荷物の積み下ろしとかですね。

 Eランクの依頼は、ペット探しに人探し、屋根の修理なんかですかね」


 横で聞いていた、沙織が口をはさむ。

 かなり不満そうだ。


「そんなの、とても冒険者の仕事とは言えないわね」


 受付嬢は、初心者はこれだからって言う顔をしながら、いやそうに説明を付け加えた。


「推薦者が2名あれば、その推薦者の2級下のランクからスタートできますが・・・」


 ここで、お姉さんはマイクに水を向けた。


「こいつら、若いけど力量は俺以上なんだ、だからCランクからでどうだろうか」


 マイクは、ちゃんと俺たちに気を使ってくれているなw


「推薦者がもう一人必要ですが、誰か当てがありますか」


 受付嬢の言葉に、マイクが返事する。


「ちょっと待ってくれないか」


 マイクはフロアに、誰か知り合いがないかと、ぐるっと見渡していく。

 奥の掲示板前では、長椅子に腰掛けて、新しい依頼の掲示を待っているような、男と女が数名、たむろしている。


「おおい、ばかブッシュ、今日もBランクの依頼待ちか、パパブッシュは元気かい」


 マイクは小走りに、その中の一人に近づき、そう声をかけた。

 俺もゆっくりついて行く。


「バカ力のブッシュだ、略すんじゃねえ! 親父はまだまだ元気そのものよ。

 酔いどれマイクよ、魔物の森でなんか収穫があったかよ」


 声を掛けられたむさい男が、そう答えた。


「駄目だな、ジャック兄弟とも森の中盤で魔物に分断された。

 ここにも戻ってなさそうだし、生存は絶望だな」


「ご愁傷さま、まあ、あいつら跳ね上がりだから、身の程知らずに行動したんだろうぜ。

 あまり考えすぎないことだ」


 むさい割には優しい言葉を掛けている。


「おう、ありがとうよ。

 ところで、お前さんに一つ頼みがある」


 頼みという言葉を聞いた途端に、ブッシュは硬い表情を見せた。


「人に貸す金は大銅貨までだが」


 まあ金の貸し借りは、友情をこわす元だから、余程の事情がない限りやめておいた方が良いだろう、と俺も思う。


「お前に金の無心なんかしねえよ。

 冒険者登録の推薦人になってもらいたいのさ」


 マイクは、ブッシュを見る目を、俺と、後方の沙織らに向けてすっと動かした。

 それを受けて、ブッシュも俺と、カウンター方向を見る。


 どうやら、このむさい男はA級冒険者らしいな。


「俺の知らねえやつらの推薦人かよ、あまり気が進まねえな。

 それによ、やけにひ弱そうな連中じゃないか」


 まあ、そう言われてもしょうがない。

 俺たちはまだ、成人にはだいぶ遠いしな。


「ただとは言わん、高級スパイスと引き換えならどうだ。

 めちゃうまい肉が食えるぜ」


 ブッシュの目つきが少し変わったのが分かる。

 マイクは懐をごそごそとやり、小瓶を取り出して、ブッシュに手渡した。


「少し使っちゃいるが、まだ半分以上残ってる、ほれ」


 ブッシュは、その瓶を不思議そうに見ていたが、これかと言って、蓋を取り、手の平に一振りした。

 まず匂いを確かめる。

 ついで、鼻から顆粒を吸い込む仕草。

 まるで薬の取引現場だw

 最後にそれをペロッと舐めた途端、こいつは上物だとか言ってる。

 やばいな、ただの肉用万能スパイスなのに、、、表では流通しない白い粉に見えてくる、、、


「良いのか、これ、俺がもらって」


 ブッシュは大事そうに蓋を閉めて、ポケットにしまい込んだ。


 後で聞いた話では、超高級スパイスは、貴族や金持ちの間で、このひと瓶の大きさなら金貨4,5枚の価値があるらしい。

 ということで、とマイクが新しいスパイスを1個無心したので、分けてやることにした。

 これ1個で100万円近い価値があるのかよ、とは思ったが、何かと世話になるマイクに、少しは良い思いをさせておくのも悪くないと考えたのだ。


 マイクはにこにこ顔のブッシュを従えて、カウンターに戻る。

 俺は見守っていた沙織としのぶに、親指を立てた。

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