第111話 初戦はトリオで

 翌日の未明、俺たちは南門付近に集合して、門の先から直線に近いS字曲線を描きながら長く連なる、成田山の参道みたいな通りを進む。


 ああ、見えて来た、なつかしい。

 三つの輪とスプーンを組み合わせた図柄の、板看板を掲げているあの食堂、みつわ食堂に俺たちは入った。

 俺たち3人とキャシーとロクシーの5人は、奥のテーブル席に陣取ってみんなでC定食を食べた。

 4人席で5人では少し手狭てぜまだが、椅子を一つ寄せれば何とかなった。

 残りの3人は立食形式のテーブルで、定食の他にステーキを注文していた。

 何の肉か分からないが、朝からステーキ追加とは、ハンターの胃袋は大したもんだ。



 朝食を済ませた俺たちは、ストリートの突き当りで、T字に交差した街道を左に折れる。

 魔物の森前には夜明け前に着いた。


 ここ数日で魔物の動きが活発化しているらしく、浅い森にもB級の魔物が発見されたとかで、この時間に集まって来るパーティは割と少なかった。


 それでも前に並んでいるパーティが一組あったのだが、俺たちのメンバー編成を見て、遠慮気味にスタートを譲ってくれた。


 俺と沙織としのぶは、森に入った所でアウターを取り去り、4ポケに収納し、特殊スーツの黒いレオタードだけになった。

 これならいつでも好きな時に、不可視モードを使えるからだ。


 俺は、出発前にクモミンが言ったことを思い出し、黒単色からカーキ色主体の迷彩柄に変更してみた。

 うん、うまくいった。

 男の黒レオタードは、趣味が悪いとの自覚があったからちょっと嬉しい。


 ブッシュ、デーブが、その変身ぶりにびっくりしていたのは言うまでもない。


 俺の変身を見た沙織としのぶも、特殊スーツに柄の変更を指示してみたらしいが、その機能はありませんと却下されて、「何でよ! コウタだけずるくない」悔しがっていた。



 森に入ってから最初に現れた敵は、直径50cm、長さ7,8mのアナコンダみたいな大蛇だいじゃだった。

 遠目には大きな岩だと思っていたら、3匹がからみ合うようにとぐろを巻いていたのだ。

 俺たちの接近に気付くと、大岩はうねうねとした動きで三体に分離した。

 既に沙織の腰が引けている。

 おまえなら、こんなの一刀両断できるだろうに、多分。


 デーブとブッシュが、俺たちのお手並み拝見といった感じで先頭を下がった。

 自動的に先鋒はキャシーになったが、マイクがキャシーを止めた。

 あくまでデーブとブッシュに、俺たちの実力を見せたいらしい。


「Aクラスハンターさんたちが、俺たち外国人3人組の実力を見たいそうだ。

 先頭は沙織で良いか」

 俺はびびっている沙織の肩を叩き、そう告げた。


 沙織はとんでもないという感じで、両手を前に出して空間にワイパーを掛ける。

「ダメよ、私、ヘビが苦手なのよ、言ってなかったっけ」


 後ずさろうとする沙織の背中を押してやると、背中が押し返して来るw

 俺は、ぱんと、その背中を叩いた。

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。

 剣道の試合でも、相手の気勢きせいぐ為には先鋒せんぽうの気迫が肝心だろ」


 丸くなりかかっていた背中に、ぴんと一本 筋が通った。

「私がいつも先鋒だと良く分かったわね。

 剣道の試合を言われたら、そうね、ここは私がやるしかないわね」


 俺は別に沙織が剣道で先鋒をやっていたなんて知らないが、性格的には一番似合う筈だ。


 後方にしのぶを置いて、俺が右ウイングの配置を取った。

 正面の三匹の大蛇は、何の工夫もなく横並びだ。


 ここでは木が邪魔になる。

 少し開けている右の方へ、相手を誘導しよう。

 俺はブラックウィドウの普通銃弾を選び、正面左側の大蛇の、さらに左辺りを狙って発射。

 パン、パンと大きな音。

 大蛇の左側の木と地面に穴が開き、土と木片が飛び散り、砂塵が舞い上がる。


 大きな発砲音と、すぐ側の地面への打撃に驚いた大蛇が、瞬時に右に移動した。

 お前の横を狙ったのは、右側の俺だと言うのに、わざわざ俺に近づく方に移動するとはなw


 押された中央と右の大蛇も、鎌首だけは、こちらを油断なく見据えたまま、右へと移動を開始する。

 足もないのに、見事な動きだ。


 その動きに一瞬たじろいだが、パンと両手で太ももを叩き、沙織はライトセーバーを引き抜いた。

 ライトセーバーは淡く白い光を放ち、低周波音の唸りを発している。

 距離があっても届くように、長剣サイズに設定したらしい。

 その光の刃渡りは1m20はあるだろうか、佐々木小次郎も真っ青だな。


 右ウィングの俺は、後方のハンター達を少し振り返って見たが、思った通り、ライトセーバーに見惚みとれている。

 美しいだけじゃないぜ、ライトセーバーは良く切れるんだ、驚くのはこれからだぜ。



 どうやら、思惑おもわく通りに、やや開けた場所で対決できそうだ。

 3対3で、員数いんずうは互角。

 初戦の相手として不足はない。

 見せてやろう、俺たちの実力を。


 沙織がすり足に近い足運びで、左の大蛇との距離を詰める。

 大蛇が鎌首を上げて、素早い噛みつき攻撃に出た。

 沙織が、一瞬右へ小さなサイドステップ。

 つられて鎌首が右へ移動。

 フェイントだった。

 沙織は逆の左前方へ飛び、後方から大蛇の首を狙って、ライトセーバーを下から斜め上へと斬り上げた。

 鎌首はずどーんと落下し、切り口から鮮血がシャワーのように噴き出した。


「一丁上がりね! さおり」と、後方で見ていたロクシーが手を叩いた。

「お見事」と、マイク。

「すげえな姉ちゃん」と、ブッシュ。

「やばいな、おい」と、デーブが声を漏らす。


 中央の大蛇が、沙織との距離を一瞬で詰め、素早く鎌首を突き出す。

 長く湾曲した唾液混じりの2本の牙が、朝日を反射してきらりと輝いた。


 ビシュ、ビシューンと、俺の左後方で音がして、中央の大蛇の首に石弾?が直撃し、風通し良く穴が開いた。

 これがストーンバレットだろうか!

 振り向くと、しのぶがあのスティックを大蛇に向けている。

 追撃の準備も怠りないようだ。


 鎌首の頭から奇妙な鳴き声が発せられ、相手を探すように左右に動く。

 その隙を見逃さずに、ライトセーバーを一閃いっせん

 中央の大蛇の鎌首が左に飛んだ。

 袈裟斬けさぎり!

 鮮やかな切り口から、血潮が噴き出す。


「さおり〰! これで二丁上がりね!」

 ロクシーは沙織の斬り方に魅せられてしまったようだ。


 どうする、この流れから見ると、右の大蛇は俺がやらないといけないのか。

 俺は続けざまに大蛇の頭部目掛けて、普通銃弾を発射!

 ヒグマを殺せるならこの大蛇だって、とは思うものの、こいつの方がかなりでかい。

 どうだ?

 大蛇の頭には5発の内2発しか当たらなかったようだが、もうそいつは瀕死ひんしの重傷だった。

 太く長い胴体をひくひくとさせている。

 痛みが長引くのは可愛そうだと思い、倒れた頭部の口内に強力麻酔ニードル弾を2発撃ち込んだ。

 止まってる的にはよく当たるw

 1分も経たぬ内に大蛇は眠った。

 このまま眠った状態で死に至るだろう。

 アーメン。


 俺は、ブラックウィドウをガンポケットに戻した。

『普通銃弾10発装填そうてんします。

 強力麻酔ニードル弾は残り18発、普通麻酔ニードル弾数は80発です』

 特殊スーツが俺にそう告げた。

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