第45話 教頭の呼出しと、影武者の裏切り

 試験明けの火曜日には、クラスでも成績急上昇の話題は次第に落ち着きつつあったが、昼休み直前の校内放送で、俺は教頭室に呼び出された。


 すわ、カンニングかと、一時、俺は疑いの眼にさらされたが、その疑惑は、午後の最初の授業前に担任がやって来て、事情説明が行われた結果、無事に俺の無罪が証明されたが、一部の生徒からは、いけ好かないヤツだという目で見られることになった。



 俺が向かった教頭室には、今回の中間テストを採点した、主要教科の教諭6人と担任が集まっていた。

 今後は、つまらぬ手抜きをしないで、学生の本分として、テストに対しては全力を尽くしなさい、という注意が、言い方は少しずつ違っていたが、各先生と担任から与えられた。

 最後に、今後も君には期待しているよと言いながら、教頭は俺の肩をぽんと叩き、ようやく俺は開放された。


 各教諭の指摘は簡単だ。

 俺は主要教科6科目において、配点の一番小さい一問について、解答を飛ばしてしまったが、それが故意だと認定された。


 その理由は、主要6教科でトップになりたくなかったからだ。

 全部2位で良いと思っていた。

 そうすれば注目は全て、宮坂沙織に向かい、俺は今まで通り、そっとしておいてもらえると踏んだからだ。

 沙織は注目されるのに慣れてるから、問題ないだろうしなw

 しかしながら、目論見もくろみと違って、沙織はいくつかケアレスミスを出し、俺は残念ながら、3教科でトップになってしまった。

 もっと上手に、ミス解答しておけば良かったぜ。



 教頭に呼出された事情を、俺にも配慮して上手に説明してくれれば良かったのに、担任は俺が正直に話した理由をそのまま言いやがったのだ、、、



 午後一の授業後、俺の回りには、女子と男子が群がった。


「コウタ、何手抜きしてるのよ。

 そんなことしなくても、次は文句なしに勝ってみせるわ」と、沙織。


「仲村、カッコつけ過ぎだぜ。

 やり過ぎると嫌われるぜ、俺は嫌わないけどな」


「次は、総合でも、藤崎君や山崎さんに勝てそうね、仲村くん」


 そんな声が飛び交ったが、俺はこれ以上目立ちたくないから、ひたすら大人しい返しに専念し続けた。


 そして、その日は、念願どおりに、寄り道せずに直帰したのだったw




 翌日の水曜日


 通学前の朝食の時間に、母が見ていたTVから、臨時ニュースのテロップが流れて来て、母はNHKにチャンネルを変えた。


「・・・繰り返しお伝えいたします。

 ラシアが占拠している、エクライナのクリミアに、

昨晩、急遽きゅうきょ、兵士の激励に訪れたパーチン大統領ですが、

その後の市民との交流演説の最中に事件が起こりました。

 こちらがその時の映像です。どうぞ。


・・・・

 演説途中で、パーチンは突然、自分の頭に両手をやり、器用にカツラを取り外し、つるつるの頭を撫でながら、気が抜けたように話し出す。


『これは天が私に与えた天罰です。

 元々少なくなっていた髪でしたが、エクライナの民の苦しみを知れ、と天から声が響き渡り、その直後に残り少ない髪を全部神に奪われたのです』


 さらに何か言おうとした所で、彼は数人のラシア兵士と見られる者たちに取り押さえられ、黒塗りの乗用車に押し込まれ、呆然と見送る民衆の中で、その車はどこかへ走り去って行く・・・・


 動画は以上です」


 母さんが唖然あぜんとした感じで、食い入るようにTVを見ていたが、俺を振り向くと、

「神様って本当にいるのかしら。

 悪いことってできないものね」

と、言った。


「全くだね。

 それにしてもすごいことが起きたな」


 内心では、ものすごく驚いていたが、俺はそっけなく答えた。

 すると、母さんはこんな事を言う。


「あんたも気をつけるのよ。

 急にもて始めたからって、女の子にむりやりとか、絶対ダメだからね、天罰が下るよ」


 冗談じゃない、俺がそんなこと、間違ってもするわけがない。

 キスだって無理だ。

 手をつなぐくらいでも、今はちょっと無理かもしれない、、、


「何言ってんだよ、そんなこと俺がする訳ないでしょ。

 もう俺は学校行くよ」


 そんなこと分かってるわ、と言って母さんは、玄関まで俺を見送ってくれた。

 母さんの単なるジョークだったらしい。

 振り返ると、母さんも出勤の用意をするために、あわただしく食器を、食洗機に入れだした。

 兼業主婦は大変だなw




 教室に入った瞬間に、俺を待っていた沙織がつつと近づき、手を引っ張って教室の隅に連れて行く。

 そこは元々俺が向かう俺の席だけどなw


「何だよ、急に」


「あれよ、あれ。

 あれって、コウタが提案した、影武者の裏切りじゃないの」と、沙織。


「そうかも知れないが、ちょっとここでその話はまずいだろ」と、俺。


「え、なになに、二人で秘密のお話ですか」

 少し遠い距離から、男子の誰かが、やっかみを飛ばした。


「え、今、幸太が提案した影武者の裏切りって言ったよね、さおりん」

 ささと近寄って来た、高橋さんだか、鈴木さんがそう言った。


「いやいや、何のことかな」と、沙織。


「今朝のニュースの続報、聞いてないの。

 あのズラ取って連れ去られてたパーチンって、影武者だって言ってたよ」と、高橋さんだか、鈴木さん。


「へえ、影武者だったんだ」と、沙織。


 俺は、ボロを出さないように、成り行きを見守る。


「しかも解説者の話だと、

パーチン大統領にとっては大打撃になる状況だけど、

三人居るらしい影武者は、家族全員を人質に取られてて、この裏切りで影武者の家族たちの命に危険が及ぶんだって」


「なになに、仲村くんがそれを予言したってこと」と、女子の誰か。


「ユーチューブの速報だと、

あれは西側が演出した真っ赤なウソで、

パーチン大統領が、クリミアを訪問する予定も、訪問した事実も無い、とラシア広報が言ってるが、

 エゲレスに、あの影武者が家族と共に亡命したとの情報もある、とか言ってるぜ」


 こう言ったのは、先日俺をカラオケに真っ先に誘ってくれた、村田君だ。




 ワイワイガヤガヤやってると、午前最初の先生が入って来た。


「はいはい、授業を始める、みんな席に付いてくれ」


 その声で、俺の周囲に集まっていた男女は、各自の机に戻って行った。

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