第43話 男子の詰問、お一人様返上

 俺はその日も帰宅部を決め込んでいたが、クラスの男子数人から、男子のみによるカラオケに誘われた。


 女子相手と違って、男子からの誘いは断りにくい。

 とは言っても、女子からの誘いは、三日前の金曜日が初めてだったのだがw


 高校がある駅前ではまずいので、みんな学ランの上をスポーツバッグにしまいこみ、長袖のTシャツをズボンの外側に出して、学校帰りに見えないようにして、一つ隣の駅前に移動した。


 こんなこともあろうと、大抵の男子は、スポーツバッグを学生カバンの代わりにしているし、下着代わりの白Tシャツも、夏なら半袖、冬季は長袖を定番にしているのだ。

 まあ、見る人が見れば、たむろする皆が、一様いちように下が黒いズボン、上が長袖の白Tだから、学校帰りであることは明白だ。

 それでも露骨に学ランで盛り場をうろつけばすぐ補導されるが、この程度でも変装?しておけば、小さな駅前の町程度ならお目溢めこぼししてくれるというものだ。


 そして俺たちは、ドリンクバー付き2時間コースで駅前のカラオケ店に入った。

 もちろんアルコールなどの法律違反はやらない。

 どうせ、飲み物はソフトクリームも含めて飲み放題だしな。

 大人ぶるのは、ブラックコーヒー程度にしておくぜw ま、俺はミルクは入れるけどなw それじゃブラックじゃなくて、ブラウンコーヒーだろってか、その通りだw


 入室して先ず始まったのは、歌ではなく、俺への質問または詰問きつもんだった。

 この日に俺が誘われた意味は分かっていたが、さっきも言ったようにそれでも断り難いのだ。


「仲村さあ、おまえいつから宮坂沙織と仲良くなったんだよ」


「仲村さあ、おまえ、なんで今になって中間テストで実力出しに来たんだ。今までは隠していたんだろ」


 おおむね、こいつらの質問は、この2つに集約されている。


 前者の質問に対しては、正直に沙織とは、小学4年の1年間だけ、クラスメイトになった事情を説明した。

 当然のように、2年生になって同じクラスになった初日の事故について、関連質問が出た。


「俺は、あいつの名前を、上も下も覚えてなかったし、子供の頃と顔つきも大きさも変わったから、あの時は初対面だと思っていたんだよ」と、俺。


「なんだよ、大きさが変わったって、おっぱいの話かよ」

 そんなちゃちゃも入ったが、それに悪乗りするやつは居なかった。


「お前は分からなかったのに、宮坂はちゃんと覚えていたってことか。

 じゃあ何故、あの時、お前を吊し上げるようなことをしたんだ沙織ちゃんは」


 こいつは、多分沙織がお気に入りなんだろう。その目が黄昏たそがれているw


「俺が、何一つ思い出さないから、腹が立って、あんなことを言ってしまったと、最近になって謝ってきたんだ。それで仲直りって訳さ」と、俺。


「ふうん、聴いてみると案外つまらない話だな」


 そう言った男子は、かなり口惜しそうな顔つきだ。ただの負け惜しみかw


 一通りの質疑応答が終わると、次の質問は、中間テストに移った。


 女子たちは、勉強の必勝法があると思ったらしいが、男子たちは、俺が実力を隠していたと思い込んでいる。

 どっちもどっちだが、何で俺たちの年頃って、フラットにものが見れないんだろうか、日頃のストレスが多いせいで、世の中の不公平には必ず裏があると思うようだ。


「実力を隠していたんじゃなくて、おまえらからハブられて、お一人様認定されたら、勉強するしかないだろ。ひまだし」


 こんなんで納得させられるとは思ってなかったが、一人が言い出したことで、なんとなく、それが通ってしまった。


「ああ、そういう訳か、きっと仲村は元々のポテンシャルが高かった。

 そして、やることが勉強以外に見つけられなくって、打ち込んで、俺たちを見返そうとした。

 その結果があれってことか」


 この意見に、次のやつが乗った為に、なんとなくが、決定的に変わったのだ。


「なるほどなるほど、俺たちも打ち込みさえすれば上位になれるんだよ。

 ただ、他にやりたいことが多くて、勉強に専念できないだけなんだよ」


 そうだ、そうだって感じだ。それがみんなの慰めになるのだw


「じゃあ、今日は俺たちの仲村カムバックを祝って、みんなで歌おう」


 何が仲村で、何がカムバックなのかは、全く分からなかったが、話がそれで済んで良かった。

 俺も好きなアニメソングを2つほど披露したし、それぞれが3日前に終わって、今日結果が出た、中間テストのストレスを、歌に込めて発散していた。

 参加者の半数が音痴で、俺の帰り道は、ストレスマシマシになっていたが、今日で男子についても、お一人様認定は取り消しになったらしい。

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